海外進出のための商標の話

海外商標よもやま話

第1回「音」の商標について

現在、私たちのいる日本では、文字や図形・立体形状等「必ず視覚に訴える」ものが商標として保護されています。言い換えると「音声」・「におい」といったものは視覚に訴えるものでないため商標として保護されていないのです。

また、「静的」なものである必要があります。つまり「動いている」ものについては商標として保護されていません。

 ここで海外に目を向けると、このような日本で現在保護されていない商標についても、主要各国や機関(OHIM)ではすでに保護を認めています。以下の表をご覧ください。


参考文献アドレスhttps://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/t_mark_sinsakijunwg_01/sankou2.pdf

注:現在、日本の特許庁では、国際的な商標制度の調和の観点等から、商標の保護対象として新たに「音」・「色彩単独」・「動き」・「ホログラム」・「位置」について商標として保護するよう最終調整に入っています。

そこでここ第1部では、これから導入されるこのような商標について、海外ではどのように保護されているのか簡単に紹介していきたいと思います。第1回目は、まず「音」について紹介します。


参考文献アドレスhttps://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/t_mark_sinsakijunwg_01/sankou2.pdf

Info: USPTO(米国特許商標庁)のホームページでは「音」の商標の登録例を実際に聞いてみることができます。以下のサイトにアクセスして是非聞いてみてください。
アドレス:http://www.uspto.gov/trademarks/soundmarks/

上記商標は、OHIMにおいて音商標として登録されています。この楽譜を実際の「音」にして聞いてみると、テトリスだなって分かりますね。音商標の出願においては、楽譜が商標見本となります。なお、電子出願をする場合は、音声ファイルを提出することが可能です。

 

第2回 EU商標と英国商標

EU出願と英国出願

EU加盟国において商標出願を行う場合、EU加盟国毎に商標出願を行うこともできますが、欧州連合商標(EUTM)の出願を行うことでEU加盟国全域に係る商標権の取得が可能です。

一方、英国は2020年1月31日にEUから離脱しましたので、欧州連合商標を取得しても英国が含まれません。そこで、EUに加え英国でも商標登録を希望する場合、EU出願とは別に英国出願を行う必要があります点、ご留意下さい。

  欧州連合 英国
マドプロ
国際分類
多区分出願
相対的登録要件 審査なし 審査なし
商標の種類 文字、図形、記号、立体的形状、単色の色彩、色彩の組み合わせ、音、動き、ホログラム、位置等 文字、図形、記号、立体的形状、単色の色彩、色彩の組み合わせ、音、動き、ホログラム、位置等
保護対象 商品商標、役務商標、団体商標 商品商標、役務商標、団体商標、シリーズ商標、証明商標
権利付与の原則 先願主義 先願主義
出願言語 EU公用語 英語
存続期間 出願日から10年 ※更新可 出願日から10年 ※更新可
不使用取消期間 5年 5年
異議申立期間 出願公告日から3月 出願公告日から2月

※欧州連合、英国共に、絶対的拒絶理由(識別性等)の審査は行われますが、相対的拒絶理由(先行商標)について審査を行わず、異議申立がなければ先行商標について審査されません。

※欧州連合商標の詳細については、国別コンテンツ「EU」を参照下さい。

直接出願とマドプロ出願

EU及び英国で商標出願を行う場合、現地代理人を通じてEUIPO(欧州連合知的財産庁)及びUKIPO(英国知的財産庁)に商標出願(直接出願)することも可能ですが、EU、英国は共にマドリッド協定議定書(マドプロ)に加盟している為、マドプロ出願でEU及び英国を指定することによりまとめて出願することも可能です。

また、マドプロ出願は出願後に指定国を追加で指定(事後指定)することも可能ですので、例えば、出願時はEUを指定し、後に必要に応じて英国を事後指定することも可能です。

※直接出願、マドプロ出願の詳細については「海外で商標権を取得するために」をご参照下さい。

英国のEU離脱に係る経過措置

英国のEU離脱に係る移行期間の終了時点(2020年12月31日)で登録済、権利存続中の欧州連合商標は、自動的に同等の英国商標が作成、付与されます。

但し、移行期間の経過後に更新期限を迎える際、欧州連合商標を更新しても更新期限後の欧州連合商標には英国が含まれません。その為、英国商標の更新を希望する場合は、欧州連合商標の更新手続とは別に英国商標の更新手続が必要である点、ご留意下さい。

また、移行期間終了時点(2020年12月31日)で審査係属中の欧州連合商標については、2021年9月30日以内であれば欧州出願日を主張して英国に再出願が可能となります。よって、英国での商標権の取得を希望であれば、上記の英国再出願が必要となる点、ご留意下さい。

第3回 色彩のみからなる商標

東京2020オリンピック・パラリンピックで、シエラレオネの国旗が、コンビニ大手のファミリーマートのロゴにそっくりだと話題になりました。見比べてみると確かに、私たちが街中でよく見かける、緑・白・青のカラーリングです。
 この3色の配色からファミマを思い浮かべた人が多かったようですが、株式会社ファミリーマートは、この“色”を、特定の企業を認識するための標識として、色彩商標登録を行っています。色彩だけで『ファミマ』と認識してもらうブランド戦略の成功例と言えます。

シエラレオネ国旗
色彩商標:登録第6085064号/ 権利者:株式会社ファミリーマート

しかしながら、「色彩のみからなる商標」等の新しいタイプの商標が2015年の法改正で登録可能になってから、2021年8月末の時点で、日本国内で登録となっているのは、わずか8件にすぎません。
 しかも、「色彩の組合せ」からなる商標ばかりで、単色での登録例はまだありません。日本に限ったことではありませんが、単色のみでは、他者との識別は難しいという傾向があり、使用実績により識別力を獲得したものがほとんどです。

海外では、日本よりも早く色彩商標登録が可能であったことから、既に数百以上の色彩が登録されており、単色の登録も多数あります。米国では、「色彩のみからなる商標」というタイプを分けた保護ではなく、『商品・役務との関係で識別機能を果たす限り、保護対象となる』と商標を定義しており(ただし、運用上、単色の色彩のみからなる商標は、本来的に識別力はないとされています)、1995年の最高裁判決を契機に登録が増えていったようです。

以下は、色彩のみからなる商標の海外での登録例と使用例です。日本でもおなじみのものもあります。日本の企業でも、日本で出願・登録するより先に、海外で出願・登録している企業もあります。

■海外の色彩のみからなる商標登録例・使用例

申請者名: TIFFANY AND COMPANY

 

オーストラリア(No.1414010)
米国(No. 2416795)
米国(No. 75544375)
 
 
 
 
 

 

申請者名: United Parcel Service of America, Inc.

 


欧州(No. 000962076)等

 
 
 

 

申請者名: 3M Company

 

 

申請者名: Deutsche Telekom AG

 


欧州(No.000212787)等

 

 

申請者名: Red Bull GmbH

 


欧州(No.004381471)等

 

 

申請者名: Instagram, LLC

 


オーストラリア(No.1977609)

 

 

申請者名: FUTBOL CLUB BARCELONA

 


欧州(No.001526441)

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