目次
ロシア連邦の概要
ロシア連邦(以下「ロシア」と略す)は、日本の約45倍の領土を有しており、約1億4千万人(2013年)の人口を擁している。GDPは世界第8位(2012年)とBRICsの一角として産業的にも重要な位置を占めている。
ロシアは、2008年までの10年間に実質GDP成長率平均6.9%の高成長を維持しており、世界的な景気後退により2009年の実質GDP成長率はマイナスに転じたが、2010年以降はプラス成長を続けている。また、国際通貨基金(IMF)の推計によれば、2013年以降の5年間も実質GDPは約3%のプラス成長を続ける見込みである。
グラフ1 ロシアのGDP
ロシアの知的財産制度は,旧ソ連が崩壊した翌年の1992年に特許法、実用新案法、及び意匠法が制定され、その後1993年にかけて商標法、著作権法等が制定されている。1992年から1993年に制定されたロシアの各知的財産法令は、2002年から2003年にかけて改正がなされ、2008年にはWTO加盟に向けて民法典第Ⅳ部への集約を含む改正が行われた。さらに、2014年に民法典第Ⅳ部の改正が行われた。
ロシアは、パリ条約(1965.7.1)、マドリッド協定(1976.7.1)、マドリッド協定の議定書(1997.6.10)、ニース協定(1987.12.30)、ブダペスト条約(1981.4.22)、WTO(2012.8.22)などに加盟している(括弧内は加盟年月日)。
ロシア知的財産制度の概要
近年の出願データ
表2,3に、ロシアにおける特許出願、実用新案登録出願、意匠登録出願、及び商標登録出願の件数の推移を示す。出願件数は各産業財産権で増加傾向にある。また、四法の中では商標登録出願が最も多い。
グラフ2 各法域の出願件数
グラフ3 出願人別の特許出願件数
知的財産保護の実体
ロシアでの知的財産権侵害に対する法的措置には、税関取締、行政処罰、内務省による刑事訴訟、及び裁判所による民事訴訟がある。
ロシアでの知的財産権の侵害は、主に模倣品や海賊品による商標権や著作権の侵害が中心である。ロシアに流入している模倣品等のうち、大半は中国などで生産され、国境を越えて輸入されている。
商標権の権利者は、侵害品の輸入及び輸出を差止めることができる。権利者が知的財産権情報の税関登録制度を利用し、対象となる権利を登録すれば、税関職員が当該知的財産権に特別の注意を払い、疑わしき輸出入貨物の通関作業を停止する。侵害が確認できれば、権利者は、行政処罰を含む権利行使を取ることができる。なお、この税関登録簿への登録は無償で行うことが出来る。
こうした税関登録制度の利用は年々増加しており、日本企業の利用は2012年5月時点で、25社105件である。利用されている産業分野は、件数が多い順に、食品・製菓33%、アルコール飲料27%、衣服・靴12%、衛生用品10%、家電7%である。
権利取得のための主な費用
ロシア知的財産権の取得に掛かる費用を、以下の表1に示す。
表1 主な手数料(単位:ロシアルーブル)
- *1 25を超えるクレーム1つあたり
- *2 ISR又はIPERを出願に添付することにより、20%減額される
- *3 10を超える独立クレーム1つあたり
- *4 1を超える意匠1つあたり
- *5 1を超える商品/サービスの分類1つあたり
※ 特許出願政府費用等(2017年10月6日施行)について、以下の通り補足する。
・出願料: | RUB 3,300 |
・出願料付加分10項を超えるクレーム: | RUB 700/項 |
・早期公開請求料: | RUB 800 |
・審査請求料(出願時) 1番目の独立クレーム: 2番目以降の独立クレーム: |
RUB 12,500 RUB 9,200/項 |
・審査請求料(調査報告発行後) 1番目の独立クレーム: 2~5番目の独立クレーム: 6番目以降の独立クレーム: |
RUB 4,700 RUB 2,800/項 RUB 5,400/項 |
・特許公告手数料: | RUB 3,000 |
・特許付与手数料: | RUB 1,500 |
日露PPH
2009年5月18日から、ロシア特許庁と日本特許庁との間での特許審査ハイウェイ(PPH)の利用が可能となっている。さらに、2013年6月1日には、PCT-PPH試行プログラムが開始され、早期審査制度の利便性が高まっている。
ユーラシア出願の場合の早期審査手続き
ユーラシア出願については、2016年7月1日から、PCT-PPH試行プログラム、及び、ユーラシア特許庁(EAPO)の提供する早期審査手続きを利用することが可能になっている。これらを利用することにより、ロシアを含むユーラシア地域において早期に特許権を取得することが可能となっている。
ユーラシア特許庁の提供する早期審査手続きの具体的内容としては、10日以内の形式審査、早期審査開始から3カ月以内の最初の通知(最初の拒絶理由通知または特許査定)、公開及び特許査定の早期化等が挙げられる。
各法域の制度概要
概要
ロシア国内での知的財産は、2014年10月1日に改正された民法典第Ⅳ部に基づいて保護される。
表2に各保護対象に共通する事項を示す。日本の各法域と共通する事項が多いが、我が国の実用新案権は新規性に加えて一定の進歩性も要求するのに対して、ロシアの実用新案権は進歩性を必要としないなど、相違点も挙げられる。
表2 各法域の概要
*)ロシア連邦特許庁に最初に特許出願された明細書の言語に基づいて、その後提出されたロシア語翻訳文の誤訳を訂正することが可能
特許・実用新案
保護対象
製品(例えば、装置、物質、微生物の菌株、動植物細胞の培養)、または手段(具体的手段を用いて具体的対象物に影響を及ぼす工程)に関連するあらゆる分野の技術的解決手段は、発明として保護される。また、物品を製造する装置またはその部品については、考案としても保護される。また、2014年10月1日の法改正により、用途発明も保護対象に加わった。
ただし、発見、科学理論、数学的方法、ゲームのルール、知的又はビジネスの活動、コンピュータ・ソフトウェア、情報のプレゼンテーションに関するアイデア、動植物の品種、集積回路の配線図、公共の利益、人道的原則、道徳に反する提案などは保護対象に含まれない。なお、コンピュータプログラムを含む記憶装置であっても、その特徴点がコンピュータプログラムであれば特許は認められない(コンピュータプログラムは、著作権による保護を受ける)。
出願の形式
ロシアで特許を取得するための出願ルートとして、①ロシア特許庁への直接出願、②パリルート、③PCTルート、④ユーラシア特許条約に基づく出願、がある。
分割出願
分割出願は、特許出願が拒絶査定を受ける前、あるいは特許が登録される前であれば可能である。親出願の拒絶査定通知に対する異議申し立て可能期間内であっても、分割出願が可能である。なお、ロシアの特許制度には、米国における継続出願(CP)、一部継続出願(CIP)に相当する出願はない。
出願公開
出願日から18ヶ月経過後、方式審査を通過した出願の出願内容が特許公報に掲載されて公開される。ただし、出願日から12ヶ月以内に出願が取り下げられた場合、又は、出願に基づいて特許権が登録された場合には、公開は行われない。公開によって、出願人は仮保護の権利(特許発行後に行使可能)を取得する。
審査請求
日本と同様に審査請求制度がある。審査請求期間は、出願日から3年以内(延長手数料を支払うことで2ヵ月延長可)。審査請求がない場合は、出願は取下げ擬制される。審査請求は、第三者にも認められる。なお、早期審査に関する事情説明書を提出することによって、ロシア特許庁と日本特許庁との間での特許審査ハイウェイの利用が可能である。この日露間の特許審査ハイウェイ試行プログラムは、平成21年5月18日より実施されている。
審査
近年、ロシアは他の国と比べて審査が迅速に行われている。審査請求をした後、およそ10~11ヶ月で審査が開始されて最初のアクションがなされる。審査ハイウェイ制度を利用すれば、さらに審査開始を早めることも可能となりうる。
面接審査は可能であり、基本的には、現地の弁理士および特許弁護士が対応する。また、ROSPATENTの国際部に連絡することにより、日本の弁理士であっても面接審理ができる場合がある。ただし、実体審査の内容について電話インタビューは禁止されている。
新規性及び進歩性の判断の基礎となる先行技術は世界基準で判断される。また、2014年10月1日の法改正により、クレームされた発明が明細書等によって十分に開示されているか否か(いわゆる実施可能要件)も判断される。
補正
出願人は、特許査定通知又は拒絶査定通知が発行されるまで補正可能である。ただし、補正は、要旨変更とならない範囲に限られる。拒絶理由通知が出された場合、拒絶理由通知を受理した日から3ヶ月以内に補正できる。
自発補正は、(1)移行時、および、(2)対応外国出願のALLOWANCEを利用したPPHの申請時に可能である。さらに、(3)サーチレポート(以下、「SR」と略記)の請求を行なうことによって、SRの発行後にも自発補正の機会が与えられる。SRは、通常、SRの請求から7か月後程度で発行される。
従前、審査請求時に自発補正することはできなかった。しかし、2020/7/31の法改正(2021/8/1から施行)により、出願日(PCT出願の場合、国際出願日)から3年以内に出願審査請求をするとき、自発補正を行うことができるようになった。
拒絶対応
日本と同様に新規性、進歩性、産業上の利用性等について実体審査が行われる。出願人は、拒絶理由通知が発行された場合、指定期間内(通常は、出願人が拒絶理由通知を受理した日から3ヶ月(最大10ヶ月の延長可))に応答する必要がある。およそ2回の拒絶理由通知を経て、特許査定・拒絶査定がなされる。拒絶査定に対する審判制度もある。
異義申し立て
特許査定及び拒絶査定の何れに対しても、査定から6ヶ月以内の異議申し立てが可能である。異議申立は、特許権者及び第三者が請求人適格を有する。また、親出願の拒絶査定通知に対する異議申し立て可能期間内であれば、分割出願が可能である。
出願変更
出願公開前であって、特許付与決定の発行前であれば、特許出願を実用新案登録出願に変更することが可能である。また、実用新案権付与決定の発行前であれば、実用新案登録出願を特許出願に変更することが可能である。
また、ユーラシア特許出願をロシア国出願に変更することも可能である(EAPC16条)。したがって、出願時に出願ルートの選択が難しい場合には、まずユーラシア特許出願を行い、出願後にロシア特許出願への変更も可能となる。
特許権の発生
特許査定の通知書の受領後、所定の登録料を納付すると、特許公報に公告され、特許証明書が発行される。
ロシアでは、特許査定率が極めて高い。2008年~2013年の実績によると、審査された出願の約75%が特許査定を受けている。
登録料の納付期限は、特許査定の受領日から2か月です。ただし、納付期限を過ぎても、6か月以内であれば50%の追加費用を支払うことによって、1年以内であれば100%の追加費用を支払うことによって、登録料を納付することができます。
実施権等
登録することで実施権の効力が発生する。また、登録から4年間(実用新案の場合は3年間)経過しても十分に実施をせず、かつ実施をしない理由を立証できない場合、請求項により、10条(3)に基づいて強制実施権の対象となる。特許権者は、一旦設定された強制実施権の終了を請求することができる。また、日本のクロスライセンスに相当する裁定通常実施権の規定も存在する。
権利無効化手続
無効理由は、以下の4つとされている。
(b)登録クレームが、出願時の明細書およびクレームに存在していなかった特徴を含んでいること。
(c)同一の発明または実用新案に関して同一の優先日を有する複数の出願が存在する状況において、ロシア連邦民法第Ⅳ部の第1383条の条件に違反して、権利が付与されたこと。
(d)誤った発明者/考案者/創作者または権利者により権利が付与されたこと。
無効審判請求の申立先は、(a)~(c)を無効理由とする場合にはロシア特許庁になり、(d)を無効理由とする場合には知的財産権裁判所(IPR Court)になる。
意匠
保護対象
(1)保護法
ロシア連邦民法第4部の中で、意匠特許として保護されています。
(2)「意匠」の定義
「物品の外観を決定する、工業的に又は職人により製造された当該物品の美術的表現及びデザイン表現は、意匠として保護されるものとする」(第1352条)と定義されています。工業製品や手工芸品、活字体、建築物も保護されます。
(3)「意匠」の保護範囲
2014年法改正前は、意匠の保護範囲は、意匠図面と「本質的特徴の一覧表」の記載事項から判断されていましたが、改正後は「本質的特徴の一覧表」の提出が廃止され意匠図面のみに基づいて判断されるようになりました。
出願時の提出書類
①願書:以下を記載する。
創作者・出願人の住所、氏名、国籍
ロカルノ意匠分類
優先権主張する場合、基礎出願の出願日、出願番号、国名)
②意匠の説明書
意匠の説明書は、外国語(日本語)で作成したものでも認められるが、ロシア語の翻訳文を後に提出する必要がある(民法1374条2項)。
2014年10月1日の改正法前の出願では、意匠の本質的特徴を記載したクレームの提出が求められていたが、改正により提出は不要となった。
③図面
線画、写真、CG画像等の提出が可能
④優先権証明書
出願日から3か月以内に提出
⑤委任状
要求された場合、提出が必要
認証は不要
審査期間
方式審査と実体審査があり平均的な審査期間は6か月である。2013年度の統計によると出願の8割以上が登録されている。
方式審査では、書誌的事項の審査の他に、以下に示す意匠の単一性要件の審査が行われる。
存続期間
2014年改正後、存続期間は5年、更新(5年を超えない期間)が4回まで可能となり最大25年間保護されることになりました。(2015年1月1日以降の出願に適用)
登録要件-新規性・独自性
「意匠が、その本質的特徴において、新規かつ独自である場合に、当該意匠に対し法的保護が付与されるものとする。」(第1352条)と規定されており、主に新規性と独自性が判断されます。なお、2014年改正法によって判断される先行意匠の範囲が拡大され、世界中で入手可能なすべての情報と、ロシアの発明、実用新案、意匠、商標に関するすべての出願が含まれることになりました。
新規性喪失の例外
2014年改正法によって、新規性喪失の例外規定が適用される期間が6か月から12か月に延長されました。創作者、出願人、その他の者によって開示された情報について、情報の開示から12か月以内に出願された場合に新規性喪失の例外規定を適用することができます。(第1352条第3項)
パリ条約に基づく優先権の主張
パリ条約に基づく優先権の主張をする場合は、優先期間内に出願書類を提出し、出願日から3か月以内に優先権書類の謄本を提出することが必要です。
多意匠一出願
以下の単一性の要件を具備する場合には、一出願に多意匠を含めることができると規定されており、多意匠一出願が可能である。
一出願に複数の意匠を含めることができるが、意匠出願は、1件の意匠または単一の創作的概念を形成するように密接に関連付けられた一群の意匠に関連するものでなければならない(民法1377条1項)
①完成品と部品の場合
部品が完成品の使用時に視認可能であって、かつ、ロカルノ分類の同じサブクラスに属する場合には、単一性の要件を具備するため、一出願することが可能です。
(例1) ペンとペンのキャップ及びペンのクリップ
ロカルノ分類の同じサブクラス(19-06)に属し、ペンの使用時にキャップ及びクリップは視認可能であるため、一出願することが可能です。
(例2) プリンターとプリンターの内部のインクカートリッジ
ロカルノ分類の同じサブクラスに属する製品ですが、プリンターの使用時にインクカートリッジを視認できず、単一性の要件を具備しないため、一出願することはできません。
(例3) 自動車と自動車用ヘッドライト
自動車の使用時にヘッドライトは視認可能ですが、ロカルノ分類の異なるサブクラスに属し、単一性の要件を具備しないため、一出願することはできません。
②組物とその構成物品の場合
完成品と部品の場合と同様に、単一性の要件を具備すれば、一出願することが可能です。つまり、ロカルノ分類の同じサブクラスに属し、かつ、組物の使用時にその構成物品が視認可能なものは、一出願することができます。(なお、組物は、日本とは異なり特別に定められていません。)
③同一の製品に係る複数意匠の場合
複数の意匠の本質的特徴が共通し、単一の創作的概念を形成しているものと認められる場合には、変形意匠として一出願することができます。
※変形意匠は、基本意匠と本質的特徴を共通することを条件に認められるものであって、我が国の関連意匠に近い制度ですが、認められる範囲が異なります。日本で関連意匠として認められないものであっても、ロシアでは変形意匠として認められる場合もあります。
部分意匠
部分意匠の保護は、部分意匠制度としては存在しませんが、運用上認められています。提出図面において物品の全体図を示し、そのうち保護したい部分を実線で表し、保護を求めない部分を破線で示すことができます。
関連意匠
関連意匠制度はありません。
秘密意匠
秘密意匠制度はありません。公開を遅らせたいときは、意図的に創作者の住所等を記載しないなどOAを誘発することによって公開の時期を遅らせることが可能と言われています。
提出図面
物品の外形をすべて詳細に表現する図面を提出しなければならないとされていますが、提出枚数の制限はありません。写真を提出することもできます。
ロシアのハーグ協定加盟(更新:2018年3月27日)
2017年11月30日、ロシア政府は、意匠の国際登録に関するハーグ協定の1999年ジュネーブ改正協定の加盟書を、世界知的所有権機関(WIPO)事務局長に寄託した。これによって、ロシアはジュネーブ改正協定の53番目の加盟国、及びハーグ制度の67番目の加盟国となった。
ジュネーブ改正協定は、ロシアにおいて2018年2月28日に発効し、これ以後、ロシアを指定国とする国際意匠出願が可能となった。
加盟書は、ジュネーブ改正協定及び共通規則に基づく以下の宣言を含む。
① 個別指定手数料 (第7条(2))
ロシアを指定する国際出願及び国際出願から生じる国際登録の更新に関する所定の指定手数料を、個別指定手数料に置き換える旨の宣言。
② 公表の延期を認めない (第11条(1)(b))
ロシア国内法令が意匠の公表の延期について、規定していない旨の宣言。
③ 拒絶の期間を12か月に延長 (第12条(2)及び共通規則第18規則(1)(b))
国際登録の効果の拒絶を通報するための6月の期間を、12月に置き換える旨の宣言。
④ 意匠の単一性 (第13条(1))
ロシア国内法令に基づき、同じ国際出願の対象である二以上の意匠が、創作コンセプトの単一性要件を満たさなければならない旨の宣言。
⑤ 保護の付与の効果 (第14条(2)(a)及び共通規則第18規則(1)(c)(i))
拒絶の期間の満了の日から6月以内のロシア官庁がWIPO事務局に保護の付与を通知する日から、国際登録に1999年改正協定第14条(2)(a) (拒絶通報が可能な期間内に当該通知をしないまま当該期間が満了すると、指定締約国における保護の効果が発生するという規定)に規定する効果が生じる旨の宣言。
⑥ 所有権の変更の手続(第16条(2))
国際登録簿における国際登録の所有権の変更の記録は、ロシア官庁が権利の移転に対応する書類を受理するまで効果を有しない旨の宣言。
⑦ 保護の存続期間 (第17条(3)(c))
ロシア国内法令に定める意匠の最長の保護の存続期間は、25年である旨の宣言。
⑧ 安全保障調査 (共通規則第13規則(4) に基づく宣言)
ハーグ協定の1999年改正協定及び1960年改正協定に基づく共通規則第13規則(3)に定める、ロシア官庁を通じてされた国際出願の転送のための1月の期間を、安全保障調査のため6月の期間に置き換える旨の宣言。
商標
保護法
2014年3月12日に改正された2008年1月1日施行の民事法典第4部に規定されている。
保護対象
法人又は個人事業主の商品を識別することが可能な標章、および、法人又は個人事業主が遂行した業務又は提供したサービスを識別することが可能な標章が保護される。
商標として保護される対象は限定されておらず、登録される客体についての主な基準は、商品又は役務の識別性及び同一性である。
※保護される商標
文字、図形、立体、若しくはその他標識又はその組合せ
「色彩のみ」又は「色彩の組合せ」、「音響」、「動画」、「ホログラム」等も商標として登録できる。
審査
① 方式審査と実体審査
方式審査を経て、実体審査(不登録事由、新規性、先登録または先願との類似性)が行われる。絶対的拒絶理由により、自他商品・サービス識別力を要求している。また、相対的拒絶理由により、先願先登録商標と同一または類似の混同を生じさせる商標との関係で拒絶される。
② 審査期間
出願がなされると1か月以内に方式審査がなされ、方式が整っていると出願日が付与される。実体審査は約12か月である。
* 2018年3月より、早期審査制度が導入された。
申請書類(早期審査申請書、オフィシャル・サーチ申請書)の提出と、庁費用(オフィシャル・サーチ費用:約165,000円)の支払いをした出願人は、早期審査制度を利用可能。
文字と図形の結合商標の場合、別々に費用が必要。
オフィシャル・サーチは、当該出願の指定区分だけでなく、45すべての区分に関して請求しなければならない。調査期間は10営業日。
早期審査を申請した場合は、2ヵ月以内に審査結果が通知されることになっている(通常の審査では、8~9ヵ月。但し、2ヵ月以内という期間は、公的に保障されたものではない)。
一商標多区分出願
一商標多区分出願が採用されている。
出願公開制度
出願は、公衆の閲覧のために公開される。
異議申立について
異議申立制度はないが、出願が公開された後に、何人も商標の登録性に関する自己の意見を特許庁に提出することができる。なお、当該提出者は、いかなる手続的権利も有さない。
存続期間
商標権の存続期間は出願から10年であり、更新により10年間延長することができる。存続期間の更新の回数制限はなく、何度でも更新することができる。なお、更新の際には登録商標の使用証明は不要である。
商標の存続期間が満了した場合でも、商標権者は6⽉の「猶予」期間を有しており、満了から6⽉以内であれば、「罰⾦」および更新料を⽀払うことによって、登録商標を復活させることができる。
不使用取消制度
出願時には商標の使用義務はないが、登録後3年以上継続して登録商標を指定商品・役務について使用しない場合、不使用であることを理由に商標登録の取消を請求することができる。利害関係人のみ請求可能である。請求先は、特許紛争評議会である。審決に対して不服がある場合には、仲裁裁判所に提起することができる。
ロシアが加盟する多国間国際協定
・標章の国際登録に関するマドリッド協定
・標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書
・標章の登録のための商品およびサービスの国際分類に関するニース協定
・TRIPS協定
・商標法条約
・商標法に関するシンガポール条約
・オリンピック・シンボルの保護に関するナイロビ条約
参考
- (1) ロシア連邦特許庁HP:http://www1.fips.ru/wps/wcm/connect/content_ru/ru
- (2) ユーラシア特許庁HP:http://www.eapo.org/en/
- (3) 国際通貨基金(IMF) HP:http://www.imf.org/external/index.htm
- (4) 日本貿易振興機構(JETRO) HP:https://www.jetro.go.jp/indexj.html
- (5) 新興国等知財情報データバンク(特許庁)HP:http://www.globalipdb.jpo.go.jp/
- (6) 外国産業財産権侵害対策等支援事業HP:http://iprsupport-jpo.go.jp/
- (7) 特許ニュース(財団法人経済産業調査会発行 No. 12900)
- (8) 「ロシア、中南米及び中東における知的財産権制度及びその運用状況に関する調査研究報告書」(特許庁)
- (9) 特許ニュースNo.12955(平成23年3月30日発行)
- (10) 特許ニュースNo.12956(平成23年3月31日発行)
- (11) 特許ニュースNo.13012(平成23年6月23日発行)
- (12) パテントセミナー2011(主催 日本弁理士会近畿支部) セミナー資料より
弁理士/特定侵害訴訟代理人 八木下 葉子