近年、経済のグローバル化が急速に進み、海外市場への進出・優位性確保のために、海外における権利取得が重要性を増しています。海外で特許を取得するためには、その国に対して直接、特許出願を行うことが原則ですが、特許を取得したい全ての国に対して個々に特許出願を行うことは、とても手間がかかります。
特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願制度は、各国への直接出願の煩雑さ、非効率さを改善するための枠組みです。運営開始以来、PCT出願の件数は、金融危機の影響を受けた2009年を除き、毎年伸び続けていることから、その利用価値が大きく高まっていることが分かります。
では、何故、PCT国際出願制度の利用価値が高まっているのでしょうか?
それは、PCT国際出願制度には、外国への直接出願に比べて、種々のメリットがあるからです。
特に、PCT加盟国における出願日を確保しつつ、市場動向や技術動向等を考慮しながら、権利取得を図る国をじっくりと検討できる点は、皆様の国際的な知的財産戦略を深化させるにあたり、大きなメリットになります。
一方で、PCT国際出願制度の利用者からは、国際段階における手続きが複雑であるという問題点が指摘されています。この点は、条約及び規則の改正が重ねられ、利用し易い制度に変わりつつありますが、それでもなお専門的な知識が必要とされます。
当特許事務所 は、
①PCT国際出願制度を利用するために必要な専門知識や長年の経験に基づくノウハウを兼ね備え、
②PCT国際出願制度に関するあらゆる手続きに精通したスペシャリストが常駐し、
③高度な語学力を有するスタッフと外国人スタッフとの連携により、特許を取得したい外国の代理人とのコミュニケーションも的確に図ることができます。
私どもは、PCT国際出願制度に関する専門知識の向上に向けた不断の努力によって、皆様に満足して頂けるサービスを提供できるよう常に心がけております。
PCT国際出願制度に関し、ご相談等がございましたら、ご遠慮なく私どもPCT支援室までご連絡ください。スタッフ一同、迅速かつ適切に対応させて頂きます。
PCT支援室室長 湯口 拓成
目次
はじめての方へ
発明を財産権として保護するための法制度として特許法という法律があり、特許権という財産権が発明を保護します。ただし、特許権の効力は、特許を取得した国の領域にのみ及ぶものであり、特許を取得した国の領域を超えて海外にまで及ぶものではありません。そのため、特定の国で特許を取得したい場合には、原則として、その国の特許庁に対して、個別に特許出願を行う必要があります。したがって、特許を取得したい国が多ければ多いほど、特許出願にかかる労力・時間・費用は多大なものになります。
そこで、海外で特許を取得したい出願人、及び、各国特許庁の労力を軽減し、特許の取得を簡易かつ経済的なものとすることを主目的として、国際的な条約であるPCT(Patent Cooperation Treaty: 特許協力条約)が締結されました。
PCTに基づく国際出願制度を利用すると、母国語(受理官庁が日本国特許庁の場合は日本語又は英語)で作成した一つの出願書類を一つの特許庁(受理官庁)に提出することによって、PCT加盟国である全ての国(2012年10月現在146か国)に出願したのと同じ効果を得ることができます。
このように、PCTに基づく国際出願制度は、国際的に統一された特許出願手続きの制度であり、特許を取得したい国が多い場合に有効な制度なのです。
PCT国際出願とは
ある発明に対して、特許されるか否かは、各国それぞれの特許法に基づいて判断されます。そのため、ある発明に基づいた事業を外国で展開する際には、外国で特許権を得て発明を保護し、模倣品を排除すること等が重要となります。特許権の付与の判断は、各国によりそれぞれの特許法に基づいて行われ、その効力は、特許権を取得した国の領域内に限られます(属地主義)。したがって、特定の国で特許を取得するためには、その国に対して直接、特許出願を行うことが原則です。
また、発明は一日も早く出願することが重要です(先願主義)。しかし、特許を取得したい全ての国に対して個々に特許出願を行うことはとても手間がかかります。
PCT国際出願制度は、様々な様式・言語による各国への出願という直接出願の煩雑さ、非効率さを改善するために利用できる国際的な特許出願制度です。PCT国際出願は、国際的に統一された一つの出願書類をPCT加盟国(2012年10月現在146か国)である自国の特許庁に提出することによって、全ての加盟国に同時に出願したことと同じ効果が得られます。
つまり、PCT国際出願制度は、①一つの出願書類を、②母国語(受理官庁が日本国特許庁の場合は日本語又は英語)で作成し、③自国の特許庁に提出することによって、④その日の時点で有効な全てのPCT加盟国に対して、⑤PCT国際出願と同日に国内特許出願をしたことと同様の効果が得られる、という制度です。
なお、PCT国際出願はあくまでも出願手続きであり、最終的な特許性の判断は、各国特許庁の審査に委ねられています。
PCT国際出願を利用するメリット
一つの出願で全ての加盟国での「出願日」を確保できる
PCT国際出願に与えられた出願日(国際出願日)は、全てのPCT加盟国における出願日となります。
手続きが容易で効率的
PCT国際出願を行うことによりPCT加盟国全ての国に国内出願したことと同様の効果があります。さらに、国際段階の手続きのほとんどを自国特許庁である、受理官庁に対して行うことができます。そのため、各国言語で各国へ手続きを行う直接出願と比べて手続きが容易で効率的です。
出願時に権利化を進める国を決める必要がない
PCT国際出願は、国内移行手続を行うまでに、優先日から30ヶ月(一部例外あり)の猶予期間があります。このパリ条約の優先期間(12ヶ月)よりも長い時間を有効に活用することによって、特許性、市場動向、規格標準化動向などを見極めることができますので、真に必要な国のみへ国内移行を行うことができます。これに伴い国内移行に係る費用を最小限に抑えることができます。
特許性判断のための材料が提供される
全てのPCT国際出願は、その発明に関する先行技術があるか否かを調査する「国際調査」の対象となります。国際調査の結果は、国際公開される前に国際調査報告及び国際調査見解書として出願人に提供されます。また、出願人の希望により、特許取得のための要件についての予備的な審査(国際予備審査)を受けることも可能です。これらは、発明を評価する材料として有効に利用することができます。
優先期間直前でも母国語(受理官庁が日本国特許庁の場合は日本語又は英語)で出願が可能
すでに出願した国内出願を基礎として優先権を主張すれば、12か月以内に外国へ出願することで優先権の利益を享受できますが、特許を受けたい国が多数ある場合、翻訳が間に合わないことがあります。PCT国際出願であれば、母国語(受理官庁が日本国特許庁の場合は日本語又は英語)で出願できるため、優先権主張期限の直前でも出願可能です。
特許審査ハイウェイ(PCT-PPH)
PCT国際出願制度を活用することにより、特許審査ハイウェイ(PPH)の利用が可能となります。
PPHは、海外での早期権利化を容易にするとともに、審査負担を軽減して質の向上を図ることを目的とした枠組みです。第1出願国で特許可能と判断された発明を有する出願について、出願人の申請により、第2出願国において簡易な手続で早期審査が受けられます。
日本国特許庁は、PCT国際出願の国際段階成果物を利用する特許審査ハイウェイ(PCT-PPH)プログラムを試行的に運用しています。PCT-PPHプログラムでは、PCT-PPHのガイドラインに示す一定の要件を満たす場合に、特定の国際調査機関が作成した見解書や特定の国際予備審査機関が作成した国際予備審査報告を利用して、早期審査を申請することができます。
PCT-PPHは、早期権利化が必要となる技術の保護する場合に有効です。早期権利化を目指す場合はPCT-PPHを活用し、一方、国内移行の判断に時間をかけたい場合はPCT-PPHを活用せずに優先日から30ヶ月の猶予期間を利用するという選択が可能です。
PCT国際出願の主な手続き
PCT国際出願と手続期間の概要
国際出願
国際出願制度は、母国語(受理官庁が日本国特許庁の場合は日本語又は英語)で作成した一つの出願書類を一つの特許庁に提出することにより、PCT加盟国である全ての国に出願したのと同じ効果を与える制度です(条約第3条等)。
国際出願の書類
国際出願は、願書、明細書、請求の範囲、必要な図面及び要約を含むものです(条約第3条(2))。各書類は、所定の様式要件を満たす必要があります。
また、国際出願は、提出先である受理官庁が認める言語で行う必要があります(条約第3条(4)、第11条(1)(ii))。日本国においては、出願書類は日本語または英語で作成しなければなりません。
国際出願の提出先
国際出願は、その出願人が締約国の居住者又は国民である場合、当該締約国の国内官庁(受理官庁)に提出することができます(条約第9条、第10条)。日本国においては、国際出願の出願人のうちの少なくとも1人が日本国民又は居住者であれば、国際出願を日本国特許庁(受理官庁)にすることができます。
また、WIPO国際事務局は、すべてのPCT加盟国の国民又は居住者からの国際出願を受理官庁として受け付けています。
国際出願日の認定
受理官庁は、国際出願がPCT条約・規則に従って作成されている場合、国際出願日を認定します。国際出願日の認定の要件は、条約第11条(1)(i)~(iii)に限定的に列挙されています。
国際出願日が認定された国際出願は、国際出願日から各指定国における正規の国内出願としての効果を有し、国際出願日は、各指定国における実際の「出願日」とみなされます(条約第11条(3),(4))。これにより、出願人は、一つの国際出願を一つの受理官庁にすることによって、各指定国に直接出願したのと同じ利益を得られます。
なお、国際出願日が認定された国際出願は、その出願日の時点で有効なすべてのPCT加盟国を指定したものとみなされます(みなし全指定)。
手数料
国際出願の出願人は、出願から1ヶ月以内に、①国際出願手数料(WIPO国際事務局が出願書類を処理するための手数料)、②送付手数料(出願書類を受理官庁が処理し、必要書類をWIPO国際事務局、国際調査機関へ送付するための手数料)、③調査手数料(国際調査のための手数料)を受理官庁に対して支払う必要があります。
日本国受理官庁へ国際出願する場合、すべての手数料を日本円で支払う必要があります。
国際調査
国際調査制度は、国際出願日が認定されたすべての国際出願について、請求の範囲に記載された発明に関連のある先行技術を発見することを目的として、管轄国際調査機関が調査を行う制度です(条約第15条~第19条等)。
国際調査報告
国際調査機関は、関連があると認められた先行技術、または関連技術が記載された文献のリスト、発明の分類(国際特許分類)、調査を行った技術分野、発明の単一性の欠如に関する情報などを記載した国際調査報告を作成し、出願人に送付します(条約第18条(2))。国際調査報告は、国際出願を続行すべきか否かを判断したり、指定国の取下げを検討する一助となります。
なお、国際調査報告は、国際調査機関における調査用写しの受領から3ヶ月又は優先日から9ヶ月のいずれか遅い方が経過するまでに作成されます。
国際調査機関による見解(国際調査見解書)
国際調査機関は、国際出願の請求の範囲に記載された発明が特許性(新規性、進歩性、産業上の利用可能性)を有するものと認められるかどうか(それぞれの要件の特許性判断は、優先日が基準日)の審査官の見解を示した国際調査見解書を作成し、出願人に送付します。国際調査報告と同様に、国際調査見解書は、国際出願を続行すべきか否かを判断したり、指定国の取下げを検討する一助となります。
なお、国際調査見解書に示された特許性についての見解は、予備的かつ拘束力のないものであるため、最終的な特許性の判断は、各指定官庁に委ねられています。
なお、国際調査見解書は、国際調査報告と同様に、国際調査機関における調査用写しの受領から3ヶ月又は優先日から9ヶ月のいずれか遅い方が経過するまでに作成されます。
補充国際調査
上記の国際調査に加えて、出願人の任意の請求により、別の国際調査機関による国際調査を提供する補充国際調査があります。
補充国際調査を依頼することによって、国際段階でさらなる先行技術を把握することができますので、国内段階で新たな先行技術文献が発見される可能性を減少させることができます。
補充国際調査を請求する場合、出願人は、優先日から19ヶ月までにWIPO国際事務局に対して、請求書(PCT/IB/375)の提出と所定の手数料の納付を行う必要があります。補充国際調査が請求された場合、補充国際調査機関は、優先日から28ヶ月までに補充国際調査報告を作成します。
国際公開
国際公開制度は、原則として優先日から18ヶ月を経過後に、国際事務局が、所定の言語及び方式で統一的に国際出願等の内容を公表する制度です(条約第21条)。この国際公開は、第三者に対して技術情報を提供する役割を果たしています。なお、出願人は、優先日から18ヶ月の期間満了前に、国際公開(早期公開)の請求を行うことも可能です(条約第21条(b))。
国際公開の内容
国際公開される内容は、①書誌ページ(国際出願日、国際出願番号、出願人、指定国、要約等が記載されたフロントページ)、②明細書、請求の範囲及び図面の全文、③国際調査報告、④条約第19条補正があった場合には補正後の請求の範囲等です(条約第21条(3)、(4))。なお、国際調査見解書は、優先日から30ヶ月経過後に閲覧可能となります。
国際公開の言語
「日本語、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、スペイン語、韓国語、ポルトガル語」で出願された国際出願については、その言語で国際公開が行われます。これら以外の言語で出願された国際出願は、出願人が翻訳した公開言語のうちの1言語で国際公開が行われます。
なお、国際出願が英語以外の言語であっても、発明の名称、要約書、国際調査報告については、当該言語および英語の翻訳文の双方が公開されます。
効果
国際公開は、すでに出願されている発明を国際的に公表することに加え、各指定国において、審査を経ていない国内出願の強制的な国内公開について当該指定国の国内法令が定める効果と同一の効果をもたらします(条約第29条)。
例えば、国内出願の公開によって「仮保護」を認める指定国の国内法の下では、国際公開された国際出願に対しても同じ保護が認められます。
日本国においては、日本語国際出願が国際公開された場合(外国語特許出願については国内公表された場合)には、補償金請求権が発生します(特許法第184条の10)。
国際予備審査
国際予備審査制度は、出願人の請求により、国際出願の請求の範囲に記載された発明の特許性(新規性、進歩性、産業上の利用可能性)に関する予備的かつ拘束力のない見解を、管轄国際予備審査機関が示す制度です(条約第33条~第35条等)。国際予備審査では、国際調査よりも一歩進んだ実体的内容についての見解が示されます。
国際予備審査の請求
国際予備審査を請求する場合、出願人は、国際調査報告および国際調査見解書が出願人に送付された日から3ヶ月又は優先日から22ヶ月のうちいずれか遅い方が経過する前に、国際予備審査の請求書の提出および手数料を支払う必要があります。
その他の効果
国際予備審査を請求することによって、①明細書、図面、請求の範囲の補正(条約第34条)を行うこと、②答弁書を提出すること、などが可能となります。
補正
PCTでは、出願日を確保したのちに発明の内容を改善するための補正を認めています。そのため、出願人は、例えば、①市場動向、②国際調査、国際予備審査で指摘された事項、③国際標準の動向、等を、出願内容に反映させるように補正することが可能となっています。
PCTでは、国際段階において、条約第19条に基づく補正、および、条約第34条に基づく補正を認めています。さらに、国内移行手続後の補正を認めています。
19条補正、34条補正
国際調査報告を受領した出願人は、条約第19条に基づき、国際出願の請求の範囲を補正することができます。また、出願人は、必要により補正の内容を説明した簡単な説明書を提出することができます。
また、国際予備審査を請求した出願人は、国際予備審査報告書が作成される前の所定期間内であれば、条約第34条に基づき、国際出願の明細書、請求の範囲、及び図面を補正することができます。
条約第19条に基づく補正、および、条約第34条に基づく補正を比較すると、以下のとおりです。
条約第19条に基づく補正 | 条約第34条に基づく補正 | |
補正できる者 | 国際調査報告を受領した出願人 | 国際予備審査を請求した出願人 |
補正の対象 | 請求の範囲のみ | 明細書、請求の範囲、及び図面 |
補正の回数 | 1回に限られる | 回数に制限はない |
補正の範囲 | 原則として、出願時の開示範囲 を超えることはできない |
原則として、出願時の開示範囲 を超えることはできない |
補正の時期 | 国際調査報告の送付の日から 2ヶ月又は優先日から16ヶ月 のうちいずれか遅くが満了する 期間内 |
国際予備審査報告書が作成される前の 所定期間内。 (なお、条約の規定では「特許性に関する 国際予備報告(第Ⅱ章)」の作成が開始さ れる前まで補正書の提出が可能ですが、 確実に34条補正を踏まえた国際予備審査 を実施してもらうために、国際予備審査 の請求時に1回目の34条補正を提出する ことをお勧めします。) |
補正書の提出先 | WIPO国際事務局 | 国際予備審査機関 |
補正書の言語 | 原則として国際出願の言語 | 原則として国際出願の言語 |
国際公開の対象 | なる | ならない |
国内移行後の補正
国内移行を行った出願人は、条約第28条(及び第41条)に基づき、各指定官庁において補正することができます。ただし、この場合の補正の対象、期間、手続等は、各指定国の国内法令に従います。日本国においては、特許法第17条の補正がこれに該当しますので、国際出願が特許庁に係属している限り、補正を行うことができる原則となっています。
国内移行
国際出願は、一つの出願を一つの受理官庁に提出することにより、多数国へ同時に出願したのと同じ効果を有します。しかしながら、PCTは、実体的要件については各指定国の国内法令に委ねており、特許を付与するか否かの最終的判断は各指定国が行います。そのため、各指定国において特許の付与を求めようとするには、手続を、国際段階から各指定国の国内段階へ移行させる手続を行わなければなりません。
移行期限
権利を取得したい指定国への国内移行は、条約で決められた期間内に行う必要があります(条約第22条(1)、39条(1)(a))。
条約で決められた期間は、原則優先日から30ヶ月以内ですが、欧州では31ヶ月以内と規定されています。また、ルクセンブルク、ウガンダ、タンザニアについては、国際予備審査請求をしない限り、優先日から20ヶ月(又は21ヶ月)以内と規定されています(2010年3月現在)。
手続
国際出願を国内段階に移行させる手続は、以下の手続を指定官庁に対して行います。ただし、③については、日本も含め、実際に要求する国は少なくなっています。
国際出願が作成された言語が、国内移行したい指定国が認める言語でない場合、国際出願を認められた言語への翻訳が必要です。
指定国の国内法令が定める場合、国内手数料の支払いが必要です。
指定国が、国際出願の写しをWIPO国際事務局から未だ入手していない場合に、必要となる場合があります。
効果
所定の期間内に国内移行手続を行った場合には、国際出願は、国内移行があった指定国の国内出願と同等に取り扱われます。したがって、国内移行後は、それらの国が定める国内法令に従って手続を行う必要があります。
なお、ほとんどの指定官庁が、在外者が特許庁に対して直接手続することを制限しているため、指定国内の代理人を選任した上で国内手続を遂行することを国内法令で定めています(日本国においては、特許法第184条の11)。
一方、出願人が、所定の期間内に国内移行手続を行わない場合、国際出願は、国内移行がなかった指定国に関して、当該国における国内出願の取下げと同一効果をもって消滅します(多くの場合、その国際出願は取り下げられたものとみなされます)(条約第24条)。
その他固有の手続き
国際調査手数料の一部返還手続き
国際調査機関が国際調査報告を作成するにあたり、優先権主張の基礎である国内出願の審査結果・国際出願の調査結果の相当部分を利用することができた場合、国際調査手数料の一部の返還を受けることができます(規則16.3)。
1.国際出願時に、願書に「先の調査の利用請求」を記載します。
2.国際調査機関の審査官が、先の調査結果を利用できると判断した場合、その旨の通知書を出願人に発行します。
3.出願人は「国際調査手数料の一部返還請求書」を日本国特許庁(国際調査機関)提出します。
4.国際出願時に納付した国際調査手数料の一部(2012年4月1日以降の出願については、国際調査手数料70,000円のうち28,000円)が出願人に返還されます。
なお、先の国内出願の審査結果の利用を請求する場合は、国際調査の開始前のできるだけ早い段階で、①先の国内出願の審査請求、および、②国際出願における日本の指定の取下げ、の手続きを行っておく必要があります。
また、先の国際出願の調査結果の利用を請求する場合、先の国際出願を調査する国際調査機関が日本国特許庁でなければなりません。
国際調査機関が欧州特許庁である場合は、WIPOの関連サイトをご確認ください。
http://www.wipo.int/pct/guide/ja/gdvol1/annexes/annexd/ax_d_ep.pdf
名義変更手続き
出願人名・発明者名・宛て名等の出願人に関する情報は、名義変更届を提出することにより、国際段階で変更することができます(規則92.2の1)。
名義変更届の提出先は、日本国特許庁(受理官庁)、または、WIPO(国際事務局)です。日本国特許庁に提出した場合は、日本国特許庁からWIPOに送付されます。
なお、名義変更届は最終的にWIPOにて受理されますので、WIPOに直接提出する方が、名義変更を早く反映させることができます。特に、発行が迫っている国際公開公報に名義変更後の情報を掲載させたい等の場合には、WIPOへ直接提出することをお勧めします。
国際段階で名義変更を行えば、一回の手続きだけで、変更後の内容が各移行国に通知され、また、公証人の認証や委任状の提出は必要ありませんので、移行国毎に名義変更を行う場合に比べて、手続きが簡便なものとなります。
情報提供
国際出願が国際公開された後、優先日から28ヶ月以内に、WIPO(国際事務局)提供の電子システムを通じて、国際出願に係る発明の新規性および進歩性に関する情報提供を行うことができます。なお、情報提供は、新規性および進歩性に関する情報に限られますが、審査の迅速性および適格性に役立ちます。
提供された情報は、各国際機関(国際調査報告作成前の管轄国際調査機関及び国際予備審査報告作成前の管轄国際予備審査機関)へ送られ、公衆が閲覧可能となります。
なお、出願人は、提供された情報に対するコメントを、WIPO(国際事務局)に提出することができます。
みなし取下げの回避
国際出願は、原則として、全てのPCT締約国を指定したものとみなされます(みなし全指定)。日本の国内出願を基礎とする優先権を主張して国際出願を行うと、国内優先権を主張したことになり、先の国内出願は、先の出願日から1年3ヶ月後に取下げられたものとみなされます(特許法第41条、第42条)。
そのため、日本において先の国内出願で権利化を進めたい場合は、下記のいずれかの方法により、先の国内出願のみなし取下げを回避する必要があります。
方法1:日本の指定の除外
国際出願の願書(第Ⅴ欄)に設けられたチェックボックスにチェックを入れることで、日本の指定を除外することができます。この結果、国際出願は、日本を指定しないものとなりますので、国内優先権の基礎となる先の国内出願はみなし取下げにはなりません。
だし、このチェックボックスにチェックを入れて指定国の指定を除外した場合、その後に当該指定国の指定の復活をさせることはできませんので、ご注意ください。
方法2:日本の指定の取下げ
先の国内出願がみなし取下げとなる、先の出願日から1年3ヶ月より前に、「指定国の指定取下書」を受理官庁に提出することで、日本国の指定が取下げることができます。その結果、国際出願は、日本に対して国内移行できないものとなりますので、国内優先権の基礎となる先の国内出願はみなし取下げにはなりません。
方法3:国内優先権主張の取下げ
先の国内出願がみなし取下げとなる、先の出願日から1年3ヶ月より前に、「上申書」を受理官庁に提出することで、国内優先権の主張の取下げることができます。その結果、国内優先権の基礎となる先の国内出願と、国内移行した国際出願との両方が、優先権に関係なく、ともに日本の国内手続に係属することになります。
優先権の回復
優先権主張を伴う国際出願が優先期間である12ヶ月を超えてなされた場合であっても、国際出願日が優先期間の満了の日から2ヶ月以内である場合には、直ちに無効とはされず、国際段階の間、優先権主張は維持されます(規則26の2.2)。
ただし、このように維持された優先権主張について、国内段階移行後において有効なものとするためには、出願人は受理官庁としての日本国特許庁および国際事務局または各指定官庁に対し優先権の回復請求を行う必要があります(第49規則の3)。
(2015年4月1日より受理官庁である日本国特許庁に優先権回復請求をできることになりました。)
優先権の回復が認められるためには、下記の条件を満たす必要があります(規則26の2.3)。
- 国際出願が、優先期間である12ヶ月の満了日から2ヶ月以内になされていること
- 優先期間を遵守できなかった理由について、各官庁が採用する「回復のための基準」を満たすこと(例えば、「故意でない場合」、「状況により必要とされる相当な注意を払ったにもかかわらず生じた場合」など)
- 優先権の回復請求、優先期間内に国際出願がされなかった理由及びその理由を裏付ける証拠のいずれもが、優先期間満了の日から2月以内に提出されていること。
「相当な注意」基準を採用している受理官庁としての日本国特許庁が回復を認めた優先権は、PCT 規則49 の3.1 の規定を留保していない指定国において、原則その効力を有します(規49 の3.1(a)(c)(d))。
なお、「故意ではない」基準を採用している受理官庁としての国際事務局に優先権の回復請求を行う場合は、国際出願を国際事務局に対して行う必要があります。
韓国、中国は経過措置の適用を受けていますので注意が必要です。※1
経過措置を適用する国の最新情報については、WIPOの関連サイトをご確認ください。
http://www.wipo.int/pct/en/texts/reservations/res_incomp.html
- 受理官庁における経過措置の適用を宣言している国は、ベルギー、ブラジル、コロンビア、キューバ、チェコ、ドイツ、アルジェリア、ギリシャ、インドネシア、インド、イタリア、韓国、ノルウェー、フィリピンの14ヶ国。
- 指定官庁における経過措置の適用を宣言している国は、ブラジル、カナダ、中国、コロンビア、キューバ、チェコ、ドイツ、アルジェリア、インドネシア、インド、韓国、メキシコ、ノルウェー、フィリピン、トルコの15ヶ国。
優先権主張の訂正(補充)・追加
国際出願時に誤って主張した、あるいは主張し損ねた優先権主張を訂正・追加することができます(規則26の2)。
優先権主張の訂正・追加は、原則として国際出願日から4ヶ月以内に行うことが可能です。ただし、下記(A)または(B)のうち早く満了する日が原則(国際出願日から4ヶ月)より遅く満了するのであれば、原則は適用されず、(A)または(B)のうち早く満了する日まで訂正・追加が認められます。
(A)願書に主張された優先日から16ヶ月
(B)優先権主張の訂正・追加により変更される、新しい優先日から16ヶ月
手続きは、日本国特許庁(受理官庁)またはWIPO(国際事務局)に対して行います。日本国特許庁に手続きする場合、優先権主張の表示に誤りがあった場合は「手続補正書」を、優先権主張を追加する場合は「優先権主張の追加申請書」をそれぞれ提出します。
なお、WIPOに手続きする場合は、書面の形式が定められていませんので、書簡の形式で提出します。
優先権主張の取下げ
出願人は優先日から30ヶ月が満了するまでの間、優先権の主張を取下げることができます(規則90の2.3)。2以上の優先権を伴う場合には、いずれか又は全てについて取下げることができます。
手続きは、日本国特許庁(受理官庁)、WIPO(国際事務局)、または条約39条(1)が適用される場合の日本国特許庁(予備審査機関)、欧州特許庁(予備審査機関)に対して行います。日本国特許庁に手続きする場合、「優先権の主張取下書」を提出します。
なお、WIPOまたは欧州特許庁に手続きする場合は、書面の形式が定められていませんので、書簡の形式で提出します。
国際出願の取下げ
出願人は優先日から30ヶ月が満了するまでの間、国際出願を取下げることができます(規則90の2.1)。
手続きは、日本国特許庁(受理官庁)、WIPO(国際事務局)、または条約39条(1)が適用される場合の日本国特許庁(予備審査機関)、欧州特許庁(予備審査機関)に対して行います。日本国特許庁に手続きする場合、「国際出願取下書」を提出します。
なお、WIPOまたは欧州特許庁に手続きする場合は、書面の形式が定められていませんので、書簡の形式で提出します。
国際出願を取下げた場合、指定国における国内出願の取下げと同じように国際出願の効果が消滅します(条約第24条(1)(i))。
なお、国際出願の取下げを有効に活用すると、国際調査の結果を得ながら、その発明の内容を国際公開させないことが可能となります。この場合、優先日から16ヶ月( WIPOに提出する場合は17ヶ月)以内に国際出願を取下げる必要があります。
明細書等の欠落補充
受理官庁が認める国際出願の欠落部分または欠落要素については、国際出願日の付与後であっても、遅れて提出することにより、国際出願に含めることができます(規則20.3、20.5)。
・欠落要素とは、条約第11条(1)(iii)(d)または(e)に規定する国際出願の要素です。
欠落補充を行う場合、「手続補完書」を国際出願として提出された書類を受理官庁が最初に受理した日から2ヶ月以内に、受理官庁に提出する必要があります。
ただし、その提出によって国際出願日はその提出がされた日に改められる点に注意が必要です。出願日の後ろ倒しが出願人に不利な場合は、その欠落補充を無視するよう受理官庁に請求することもできます(規則20.5)。
なお、優先権主張を伴う国際出願の基礎出願に、欠落部分または欠落要素が完全に含まれることを受理官庁が認める場合、国際出願日が後ろ倒しになることなく、欠落補充を行うことができます(規則20.6)。これを「引用補充」といいます。
国際調査・国際予備審査
国際調査
国際調査制度の概要
国際出願日が認定された全ての国際出願は、国際調査機関によって国際調査が行われ、国際調査報告及び国際調査機関の見解書が作成されます(条約第15条~第18条等)。
国際調査は、国際出願の請求の範囲に記載されている発明が新規性、進歩性を有するかどうかを判定するにあたり、関連のある先行技術を発見することを目的として行われます。
関連のある先行技術とは、世界のいずれかの場所において書面による開示(図面その他の図解を含む。)によって公衆が利用することができるようにされており、かつ、請求の範囲に記載されている発明が新規性を有するもの及び進歩性を有するもの(自明のものではないもの)と認められるかどうかを決定するにあたって役立ち得る全てのものをいいます(規則33.1(a))。
また、国際調査機関の見解書により、請求の範囲に記載されている発明が、新規性を有するものと認められるかどうか、進歩性を有するもの(自明のものではないもの)と認められるかどうか、産業上の利用可能性を有するものと認められるかどうか、等についての見解が示されます。
国際調査機関は、受理官庁によって特定され、日本国特許庁が受理した国際出願の国際調査機関は、日本語出願については日本国特許庁、英語出願については日本国特許庁又は欧州特許庁(出願人が選択)となります。
国際調査の対象は、以下の〔国際調査機関が調査をすることを要しない対象〕と、〔国際出願が発明の単一性を満たしていない場合〕の例外を除き、原則として、全ての国際出願です。
(ⅰ)科学及び数学の理論
(ⅱ)植物及び動物の品種又は植物及び動物の生産の本質的に生物学的な方法。ただし、微生物学的方法及び微生物学的方法による生産物については、この限りでない。
(ⅲ)事業活動、純粋に精神的な行為の遂行又は遊戯に関する計画、法則又は方法
(ⅳ)手術又は治療による人体又は動物の体の処置方法及び人体又は動物の体の診断方法
(ⅴ)情報の単なる提示
(ⅵ)コンピューター・プログラムのうち国際調査機関が当該プログラムについて先行技術を調査する態勢にある範囲外のもの
〔国際出願が発明の単一性を満たしていない場合〕
・国際出願が発明の単一性を満たしていない場合、国際調査機関から追加手数料の支払いを求められます。この求めに対し、追加手数料を支払わなかった場合、請求の範囲に最初に記載されている発明(「主発明」)に係る部分のみについて国際調査報告が作成されます。なお、国際調査機関からの追加手数料支払いの求めに対し、追加手数料を支払った場合、追加手数料が支払われた発明に係る部分についても、国際調査報告は作成されます(条約第17条(3)(a))。
・単一性の判断基準は、PCT規則により規定されています。国際出願が発明の単一性を満たしているか否かの判断基準は、日本国特許庁の特許審査基準の判断基準とほぼ同じものと考えることができます。
<単一性の判断基準>
・国際出願は、一の発明又は単一の一般的発明概念を形成するように連関している一群の発明についてのみ行う(規則13.1)。
・一群の発明が同一の国際出願の請求の範囲に記載されている場合には、これらの発明の間に一又は二以上の同一の又は対応する特別な技術的特徴を含む技術的な関係があるときに限り、規則13.1に規定する発明の単一性の要件は満たされる。「特別な技術的特徴」とは、請求の範囲に記載された各発明が全体として先行技術に対して行う貢献を明示する技術的特徴をいう(規則13.2)。
・一群の発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関しているかの判断は、これらの発明が別個の請求の範囲に記載されているか単一の請求の範囲に択一的な形式によって記載されているかを考慮することなく行う(規則13.3)。
国際調査機関の見解書(ISA見解書、ISO)
国際調査機関の見解書は、国際調査機関によって作成され、請求の範囲に記載されている発明が、新規性を有するものと認められるかどうか、進歩性を有するもの(自明のものではないもの)と認められるかどうか、産業上の利用可能性を有するものと認められるかどうか、等についての見解書です。
また、国際調査機関の見解書には、請求の範囲、明細書及び図面の明りょう性、又は請求の範囲が明細書によって十分に裏付けられているか否かの問題に関する所見が記載される場合があります。
国際出願の出願人は、各国の国内段階に移行する前に、国際調査機関の見解書により、請求の範囲に記載されている発明の新規性、進歩性、産業上の利用可能性についての国際調査機関の見解を得ることができます。
(2-1)新規性の判断基準
PCT条約及び規則には、請求の範囲に記載されている発明は、先行技術のうちに該当するものがない場合には、新規性を有するものとする、と規定されています(条約第33条(2)、規則43の2.1(b))。
ここでいう「先行技術」とは、基準日前に世界のいずれかの場所において書面による開示によって公衆が利用することができるようにされているすべてのものをいい(規則64.1(a))、「基準日」とは、国際出願日、又は国際出願が先の出願に基づく優先権の有効な主張を伴う場合には先の出願の日です(規則64.1(b))。
(2-2)進歩性の判断基準
PCT条約及び規則には、請求の範囲に記載されている発明は、所定の基準日に当該技術分野の専門家にとって規則に定義する先行技術からみて自明のものではない場合には、進歩性を有するものとする、と規定されています(条約第33条(3)、規則43の2.1(b))。
ここでいう「自明」とは、技術の通常の進歩の範囲を超えず、先行技術から明らかに、かつ、論理的に得られることを意味します。
また、進歩性の判断にあたって適用される基本的考察事項は以下のとおりです。
(ⅱ)引例は全体として考察されなければならず、かつ、当業者がクレームされた事項に到達できるように、当該文献の教示を組み合わせることを動機づけられ又は促されなければならない。
(ⅲ)引例は、クレームされた発明によりもたらされる、許されざる後知恵の恩恵を用いずに検討されなければならない。
新規性および進歩性に関するより具体的な判断基準は、「PCT 国際調査及び予備審査ガイドライン(日本語仮訳)第Ⅲ部 国際調査機関及び国際予備審査機関に共通する審査官の考慮事項」(特許庁)に記載されています。
国際調査報告を受けた後の対応
(3-1)条約第19条の規定に基づく補正
出願人は、国際調査報告の送付の日から2か月の期間または優先日から16か月の期間のいずれか遅く満了する期間内に請求の範囲について1回に限り補正(19条補正)をすることができます(条約第19条、規則46.1)。
条約第19条の規定に基づく補正は、出願時における国際出願の開示の範囲を超えてすることはできません(条約第19条(2))
条約第19条の規定に基づく補正がされた場合は、補正後の請求の範囲は国際公開されます(規則48.2(f))。また、補正後の請求の範囲は国際事務局から指定官庁へ送達されます(条約第20条(2))。
条約第19条の規定に基づいて国際段階で請求の範囲を補正することで、国内段階移行後の補正手続きを事前に行うことができ、補正後の状態で国内段階に移行することができます。そのため、明らかな不備などについては、国際段階で補正をするメリットがあるといえます。
(3-2)非公式コメントの提出
出願人は、国際調査機関の見解書に対しては正式な反論はできませんが、国際調査機関の見解書に対する非公式コメントを国際事務局に提出することができます。
非公式コメントは、国際事務局が指定官庁に転送されますが、これを参酌するかどうかは各国特許庁審査官の裁量に委ねられます。
(3-3)国際予備審査の請求
出願人は、国際予備審査の請求をすることで、国際出願について国際予備審査を受けることができます。国際予備審査の請求は、国際調査報告及び国際調査機関の見解書又は国際調査報告を行わない宣言の送付の日から3月、又は、優先日から22月のうちいずれか遅く満了する期限までにする必要があります(規則54の2.1(a))。
国際予備審査
国際予備審査制度の概要
出願人が所定の期間内に国際予備審査の請求を行うと、国際予備審査機関によって国際予備審査が行われ、国際予備審査機関の見解書及び国際予備審査報告が作成されます(条約第33条~第35条等)。なお、国際予備審査の請求は、国際調査報告及び国際調査機関の見解書又は国際調査報告を行わない宣言の送付の日から3月、又は、優先日から22月のうちいずれか遅く満了する期限までにしなければなりません(規則54の2.1(a))。
国際予備審査は、請求の範囲に記載されている発明の新規性・進歩性・産業上の利用可能性について、予備的なかつ拘束力のない見解を示すことを目的としています(条約第33条(1))。なお、条約第19条の規定に基づく補正がなされている場合には、当該補正は、国際予備審査において考慮されます(規則66.1(c))。
国際予備審査機関は、受理官庁によって特定され、受理官庁としての日本国特許庁が受理した国際出願の管轄国際予備審査機関は、日本語出願については日本国特許庁、英語出願については日本国特許庁又は欧州特許庁(出願人が選択)となります。
国際予備審査報告は、1又は2以上の見解書及び場合によっては国際予備審査機関とのその他の連絡の後、作成されます。
国際出願が発明の単一性の要件を満たしていない場合、国際予備審査機関から追加手数料の支払い又は請求の範囲を減縮することを求められます。出願人がこの求めに応じない場合、国際出願のうち主発明であると認められる発明に係る部分について国際予備審査報告が作成されます(条約第34条(3)(a))。
なお、国際予備審査における単一性、新規性、及び進歩性の判断基準は、国際調査における判断基準と同様です。
国際予備審査を受けるメリット
・新たな見解書
出願人は、国際予備審査報告により国際調査機関の見解書よりも一歩進んだ見解が得られるため、選択国の国内段階へ移行するか否かについての判断をより適切に行うことができます。
・補正
請求の範囲、明細書及び図面について補正(34条補正)をすることができます(条約第34条(2)(b))。さらに、国際調査機関の見解書に対して答弁書を提出する機会が与えられます(条約第34条(2)(d))。このとき、国際予備審査機関の審査官と面談などのやり取りをすることもできるため、審査官に対して出願人の意見を的確に主張することができます(規則66.6)。
・国際予備審査報告
出願人は、見解書に対して答弁書を提出し、または補正をすることで、特許性を肯定する旨の国際予備審査報告を入手することができます。
・その他
国際予備審査報告には拘束力はありませんが、特に新興国などは、国際調査や国際予備審査の結果を重要視する傾向があるため、特許性を肯定する旨の国際予備審査報告を入手することで、国内段階移行後の権利化の可能性が高まります。
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