アフリカ知的財産機関(OAPI)

OAPIの概要

OAPIは、アフリカ知的財産機関(フランス語︓Organisation Africaine de la Propriété Intellectuelle)の略語であり、フランス語圏を中⼼とするアフリカ諸国からなる知的財産権に関する国際機関である。具体的には、特許、実⽤新案、意匠、商標、商号、地理的表⽰、著作権、不正競争、回路配置、植物品種登録に関する業務を⾏っている。なお、OAPIにおける使⽤⾔語は、英語⼜はフランス語である。

OAPIは、アフリカの旧フランス植⺠地の各国によって、「リーブルヴィル協定」に基づき、1962年9⽉に設⽴された「アフリカ及びマラガシイ知的財産局(OAMPI)」が、1977年3⽉に制定された「バンギ協定」に基づき改名された機関であり、本部は、カメルーン共和国のヤウンデに存在する。

現在の加盟国は、以下に⽰す17国である。

ベナン、ブルキナファソ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ共和国、コートジボワール、⾚道ギニア、ガボン、ギニア、ギニアビサウ、マリ、モーリタニア、ニジェール、セネガル、トーゴ、コモロ連合

OAPIは、世界知的所有権機関(WIPO)、パリ条約、特許協⼒条約(PCT)、ヘーグ協定の国際条約に加盟しており、2014年12⽉には、マドリットプロトコルに加盟し、2016年には商標登録に関するシンガポール条約に加盟した。

なお、商標登録の件数は順調に増加しており、2018年6月29日には、商標登録の件数が10万件に達した。

また、2017年12月の決定に基づき、知的財産を管轄する庁が、商標を管轄する庁と、特許を管轄する庁とに分離された。

バンギ協定は、2015年12月14日付にて改正されており、その改正されたバンギ協定が、OAPI加盟国の3分の2である12国にて批准されたことを受けて、地理的表示(付属文書6)、文学的及び芸術的財産権(付属文書7)、不正競争からの保護(付属文書8)および植物品種保護(付属文書10)に関する改正された規定が、2020年11月14日から施行している。また、商標(付属書3)、意匠(付属書4)、商号(付属書5)が2022年1月2日に施工された。

なお、特許(付属書 1)、実用新案(付属書2)は未施行である。上述の改正されたバンギ協定には、主に、以下に示す改正事項が含まれる。

なお、上述の改正されたハンギ協定には、主に、以下に示す改正事項が含まれる。

料金の納付繰り延べに関する規定
実体審査の導入
拒絶に不服がある場合の審判請求に関する規定
調停と仲裁に関する規定
模倣品取締り、法執行および水際対策の改善
デジタル化プロセスの継続
加盟国の民事裁判所は全ての知的財産権の有効性および所有権を判断する権利を有する旨の確認

特に、特許について、実体審査および異議申し立て制度が導入されることに留意する必要がある。

以下に示すようにOAPIは、加盟国における知的財産権を管轄する国内官庁の役割を担っており、PCT出願において、OAPIを指定した場合、自動的に全加盟国を指定したとみなされる。また同様に、OAPIは、加盟国の居住者及び国民に対して受理官庁の役割を担っている。

OAPIに対する出願は、欧州特許出願(EPC)と同様に広域出願である。しかし、OAPI加盟国は、知的財産権を管轄する特許庁等の特別の部局を有しておらず、OAPI自体が、加盟国における知的財産権を管轄する国内官庁の役割を担っている。よって、OAPIへの出願は、自動的に全加盟国に対する出願であると扱われ、特許権等の効力も加盟国全域に及ぶ。

OAPI加盟国を対象とする特許出願等を行う際は、上の記載したように、加盟国単独についての出願を行うことはできず、全加盟国に対する出願のみ可能であることに注意が必要である。同様に、PCT出願を行う際も、広域特許「OAPI」を指定することのみ可能であり、それぞれの加盟国の国内特許としての保護を求めることはできないことに注意が必要である。

<出願件数・登録件数の統計データ>

出願件数 2020年 2021年 2022年 2023年
特許 全数 754 833 873 806
(内 外国出願) 746 823 862 794
(内日本から) 49 29 34 12
(内 PCTルート) 705 791 833 754
実用新案 全数 15 18
(内 外国出願) 2
意匠 全数 87 85 127 105
(内 外国出願) 71 69 79 80
(内日本から) 3
商標 全数 342 510 672 765
(内 外国出願) 246 386 458 533
(内日本から) 2 2 5
登録件数 2020年 2021年 2022年 2023年
特許 全数 443 568 640 518
(内 外国出願) 442 567 639 516
(内日本から) 15 26 38 42
(内 PCTルート) 421 547 610 501
実用新案 全数 15 17
(内 外国出願) 1
意匠 全数 71 87 94 110
(内 外国出願) 61 76 68 87
(内日本から) 3 3
商標 全数 200 305 511 534
(内 外国出願) 162 245 377 420
(内日本から) 2 3

 

 

(出典:WIPO IP Statistics)

 

 

OAPIの四法の概要

OAPIにおける特許、実用新案、意匠、商標の四法について以下の表にまとめました。

  特許 実用新案 意匠 商標
現地代理人の必要性
出願言語 英語又はフランス語
実体審査制度
グレースピリオド
異議申し立て 公開から3か月 公開から3か月

*付属文書1に特許の実体審査の記載があるが、付属文書1はまだ施行されていない。
*商標審査は形式的な要件と絶対的拒絶理由について行い、相対的拒絶理由の審査は行われない。
*権利の無効を求める場合は、利害関係を有する者なら何人も、裁判所に権利の無効を求める訴訟を提起することができる。
*一方、出願や権利の保護期間の維持又は延長の請求に対する拒絶、および異議申し立てに関する決定に対する不服申立ては、OAPIの機関である審判高等弁務局に対して審判を請求して行う。

 


特許制度の概要

出願書類

出願時には、以下に記載の書類を提出します。

①願書
②出願に関する所定の手数料を納付したことを証明する書類
③委任状:認証は不用です。また、出願から6月以内に提出できます。
④明細書・クレーム・要約書・必要な図面(図面は任意です)
⑤微生物に関連する発明の場合、該当微生物の寄託を証明する受領書
優先権を主張する場合は、出願日から6月以内に以下に示す書類を提出します。
⑥基礎出願の出願日、出願番号、出願国、出願人の名称を記載した宣誓書
⑦基礎出願の正規の謄本
⑧基礎出願と出願人が異なる場合、優先件の譲渡等に関する授権書

手続言語は、英語又はフランス語です。

 

出願の形式

PCT出願、直接出願、パリ条約による優先件出願の何れも可能です。また、PCT出願を行う際の移行期限は、優先日から30か月です。また、英語又はフランス語の翻訳文が必要です。なお、OAPI加盟国各国にはいわゆる国内官庁が存在しませんから、出願は、OAPIに対して直接行います。

登録前ならば、実用新案登録出願への変更が可能です。また、同様に、実用新案登録出願を特許出願へ変更することも可能です。但し、1つの出願について2回以上変更すること(すなわち、出願形式を特許 → 実用新案 → 特許と変更すること)はできません。

特許権収得後、権利期間満了前に、特許発明の変更、改良又は追加を目的として、追加証に関する出願が可能です。

上記追加証に関する権利の存続期間は、その元である特許権の存続期間の満了と共に満了します。一方、その元の特許権、又は、同一の特許権の基づく他の追加証に関する権利が無効になった場合であっても、上記追加証に関する権利は存続します。

また、追加証に関する出願は、追加証付与前に、通常の特許出願に変更することも可能です。

 

出願から登録までの流れ

①出願公開制度、出願審査請求制度はありません。全ての出願は、順次、方式的要件、単一性、不特許事由についての方式審査を受けます。なお、ハンギ協定には、新規性・進歩性等の実体的要件についても、審査することができる旨記載されています(ハンギ協定付属書類1:特許 第20条)が、実際には、実体審査が行われたことはないようです。すなわち、OAPIにおいては、方式審査のみが行われ、要件を具備していれば登録されます。
 なお、上記不特許事由は、以下に示すような発明は特許を受けることができないというものです。

・公序良俗に反する発明
・科学的又は数学的理論
・微生物学的方法及びその方法にて得られた物を除く、動植物の品種及び動植物の繁殖のための本質的な生物学的方法
・ヒト又は動物の治療・診断の方法
・コンピュータ・プログラムそれ自体
・単なる情報の提示、等

②上記方式審査において、不備があると判断された場合は、不備があった旨が通知されます。その場合、上記通知をされた日から3月以内に出願書類の訂正が可能です。
 なお、単一性の違反が通知された場合には、通知日から6月以内に出願の分割が可能です。

③上記不備がない場合及び上記訂正等により出願書類の不備か解消された場合には、出願に対して、特許付与の決定がされます。上記特許権は、OAPI加盟国全域に効力が及びます。
 また、出願の拒絶が決定された場合、その決定に対する不服申し立てを、OAPIの審判高等弁務局に審判を請求して行うことができます。

 

特許権について

特許権の存続期間は、出願日から20年です。また、各年の特許料納付(手数料納付)期限は、各年の出願日です(6月の猶予期間、手数料納付期限日から2年かつ不責理由解消から6月以内の不責追納期間が存在します)。

また、OAPI加盟国における不実施を要件とする強制実施権の規定が存在します。

なお、利害関係人は、各国の民事裁判所に対して特許権の無効を求める訴訟を提起することができます。日本と異なり、無効審判の規定はありません。

 

手数料(単位は、フラン・シーファ(FCFA))

出願手数料:225,000~

年金:
   2-5年次(各年当たり):220,000~
  6-10年次(各年当たり):375,000~
 11-15年次(各年当たり):500,000~
 16-20年次(各年当たり):650,000~

 

注意事項

上述した通り、OAPIにおいては、方式的審査のみで出願は登録され、出願が実体的要件を満たしているか否かの判断は、出願人、特許権者の最終的責任となります。

実体的要件を満たさない場合、訴訟によって特許権を無効にされる恐れがありますから、OAPIに出願する場合、出願前に必ず、出願人自身が、先行文献等の調査を行っておいた方がよいと思います。

 

 

実用新案登録制度の概要

ほぼ特許制度と同様です。特許制度との主要な相違点について以下に記載します。

保護対象

実用新案制度の保護対象は、実用の対象となる作業用具若しくは物又はそれらの部分における、新規の構成、新規の配置又は新規の構成装置であって、産業上利用可能なものとされています。

出願書類

特許制度と同様の書類を提出して出願しますが、図面が必須である点が異なります。

新規性

特許制度における新規性は、海外も含む世界主義を採用しているのに対し、実用新案制度においては、OAPI加盟国内の刊行物に記載されておらず、OAPI加盟国内にて公然使用されていなければ、新規性を有するとみなされます。

存続期間

出願日から10年です。
また、各年の登録料の納付についての規定は、不責追納期間が、手数料納付期限日から1年であることを除いて、特許制度と同様です。

手数料(単位は、フラン・シーファ(FCFA))

■出願手数料:20,000~
■年金:
   2-5年次(各年当たり):20,000~
  6-10年次(各年当たり):35,000~

 

 

意匠制度

概要

一の出願で17ヵ国の加盟国全てを自動的に指定したことになる。

※特定の加盟国のみの指定はすることができない

出願ルート

パリルート、ハーグルートでの出願が可能。

出願言語

英語又はフランス語

一出願複数意匠制度

採用している。国際分類の同一類若しくは同一組又は範囲の物品に属する限り、一の出願に1~100の意匠を含むことができる。

出願に必要な書類

創作者の氏名・住所、出願人の名称・住所
図面又は見本
委任状(認証不要、出願日から6ヶ月以内に提出可能)
優先権証明書

出願公開

出願公開される。

異議申立制度

異議申立期間は、出願公開後3月である。

審査

方式審査が行われる

<不登録事由>

新規性がない意匠
公序良俗に反する意匠

無効審判制度

無効審判制度はない。ただし、無効は裁判所に提訴することができる。

意匠権の存続期間

出願日から5年である。更新により5年間につき2回更新することができる(最長15年)。

 

 

商標制度

概要

一の出願で17ヵ国の加盟国全てを自動的に指定したことになる。

※特定の加盟国のみの指定はすることができない

出願ルート

パリルート、マドプロルートでの出願が可能。

出願言語

英語又はフランス語

商標の種類

文字商標、図形商標、記号商標、結合商標、色彩商標、立体商標、音商標、連続商標、ホログラム商標

保護対象

商品、役務、団体商標

商品分類

国際分類(ニース分類)を採用している

一出願多区分制度

採用している。また、一の出願で商品区分と役務区分の双方を含めることが可能となった。

出願に必要な書類

  • 出願人の名称・住所、商品又は役務、商品又は役務の区分
  • 商標見本
  • 委任状(認証不要、出願日から6ヶ月以内に提出できる)
  • 優先権証明書

出願公開

出願は公開される。

異議申立制度

出願の公開日から3月以内。※期間延長不可

審査

方式審査および実体審査(2022年1月開始)が行われる。

<主な不登録事由>

  • ①識別力のない商標
  • ②他者の先行商標と同一・類似関係にある商標
  • ③商品等の品質等に関して公衆又は産業界を誤解させやすい商標
  • ④公序良俗又は法律に反する商標

無効審判制度

無効審判制度はない。ただし、利害関係人は、無効を裁判所に提訴することができる。

不使用取消制度の有無

登録日から5年間継続していずれかの加盟国の領域内で登録商標の使用をしていない場合は、不使用取消の対象となる。

商標権の存続期間

出願日から10年である(10年毎に更新可能)。

 

 

参考

・特許庁ホームページ 外国知的財産権制度情報(https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/mokuji.htm)
・アフリカ知的財産機関(OAPI)ホームページ(http://www.oapi.int/index.php)

 

 

弁理士 スペシャリスト  鷲見 祥之


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