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ナイジェリアの概要
ナイジェリア連邦共和国(以下「ナイジェリア」と略す)は、アフリカ西部にあり、日本の約3.2倍の領土を有している。人口は2億1340万(2021年)で、アフリカ大陸の中で最も多い。首都はアブジャ、公用語は英語、通貨はナイラである。
日本に対する輸出は、約733.25億円で、液化天然ガス、ごま、アルミニウムおよびアルミニウム合金等が主要な品目である。輸入は、約305.21億円で、乗用車、鉄鋼、人造繊維、魚介類等が主要な品目である(2020年)。日本からの進出企業もある(47社、2021年1月時点)。
2021年のGDPは約4,415億ドル(世界第32位、アフリカ第1位)であり、また、NEXT11にも数えられており、経済規模はアフリカ有数である。教育水準は比較的に高く、特に電子機器などに関する教育も盛んである。
ナイジェリアは、自他共に認めるアフリカのリーダー国の1つであり、G7諸国のみならず、新興国との結びつきも強いため、今後、高成長が見込める。
従って、ナイジェリアにおいて、今後、積極的に知的財産権に関する出願を行うメリットがある。
出願件数 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |
特許 | 全数 | 1008 | 1104 | ||
(内 外国出願) | 598 | ||||
(内日本から) | |||||
(内 PCTルート) | 589 | 828 | |||
意匠 | 全数 | 1216 | |||
(内 外国出願) | 200 | ||||
(内日本から) | |||||
商標 | 全数 | 9324 | |||
(内 外国出願) | |||||
(内日本から) | |||||
登録件数 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |
特許 | 全数 | 1107 | 1086 | 1081 | 8118 |
(内 外国出願) | |||||
(内日本から) | |||||
(内 PCTルート) | 805 | ||||
意匠 | 全数 | 1138 | 1213 | ||
(内 外国出願) | 138 | ||||
(内日本から) | |||||
商標 | 全数 | 2420 | |||
(内 外国出願) | |||||
(内日本から) |
(出典:WIPO IP Statistics)
ナイジェリアの知的財産権の概要
各法域の概要について記載する。特許権と意匠権は「Patents and Designs Act」という法律に規定され、商標権は「Trade Marks Act」という法律に規定されている。わが国の実用新案権に相当するものはない。
特許 | 意匠 | 商標 | |
現地代理人の必要性 | 要 | 要 | 不明 |
出願言語 | 英語 | ||
実体審査制度 | 無 | 無 | 有 |
存続期間 | 出願から20年 | 出願から5年(5年ごとに2回延長可) | 出願から7年(次回から14年ごとに延長可) |
異議申立 | 無 | 無 | 公開から2月 |
無効審判 | 無(無効は裁判所に提訴) | 無(無効は裁判所に提訴) | 有 |
また、ナイジェリアは、パリ条約(1963.9.2)、特許協力条約(2005.5.8)、ベルヌ条約(1993.9.14)、特許法条約(2005.4.28)、TRIPs協定(1995.1.1)などに加盟している(括弧内は加盟年月日)。
特許権について
存続期間
・出願から20年である。
保護対象
・産業上利用できるものが対象となる。
・自然法則の発見、公序良俗に反するもの、植物・動物の新種は対象から除かれる。
出願
・パリ条約に加入しているため、日本の特許出願に基づく優先権の主張が可能である。
・PCTに加盟しているため、PCT出願においてナイジェリアを指定することができる。
・願書、明細書(図面含む)、特許請求の範囲、その他所定の書面を提出する。
・所定の手数料、発明者の宣言書(優先権を主張する場合は、年月日、出願の番号、国名、出願人の氏名を記載したものを付け加える)、委任状も必要である。
・優先権主張の場合は、出願から3ヶ月以内に、先の出願が行われた国の工業所有権庁(又は同等の機関)が正確なものとして認証した先の出願の写しを提出しなければならない。出願が英語以外の言語による場合は、当該言語の名称を添えた翻訳文に出願人又はその代理人が署名し、それを認証された出願に添付するものとする。
・オンラインによる出願も可能である。
審査
・審査請求制度はなく、方式(必要な書類と手数料が揃っているか)と発明の単一性についてのみ審査が行われる。
・単一性を満たさない場合は、その旨の通知から3ヶ月以内に限り、分割することができる。
・記載要件、新規性、公序良俗違反、優先権主張の有効性等の実体審査はされない。
・出願公開制度はないが、登録後直ちに公報が発行される。
・異議申立制度はない。
⇒実体審査が行われず、無効の裁判で対処されるため、出願前の自己調査が重要となる。
実施義務
・登録日から3年、又は出願日から4年の何れか遅い方が経過するまでに実施しなければならない(使用していない場合には、強制実施権設定の対象となる)。
無効審判制度
・無効は、裁判所に提訴することができる。
・請求項ごとに判断される。
・新規性は内外国公知・内外国刊行物を基準とする。
・グレースピリオドは、公認の国際博覧会における展示の日から6ヶ月以内である。
その他
・知財庁に支払う特許維持年金は、1年あたりUSD265.65(20年目まで同額)である。
なお、特許維持年金の納付期限は、出願日の周年応当日である。但し、追加料金の支払いを条件として、6か月の納付猶予期間が認められる。
一方、特許維持年金が6カ月の猶予期間満了時に支払われなかった場合、当該特許は失効し、回復不能となる点に注意が必要である。
・特許出願から登録までかかる時間は、24ヶ月~36ヶ月である(一般社団法人 日本国際知的財産保護協会 AIPPI・JAPANの「アフリカ諸国における知的財産権制度運用実態及び域外主要国による知財活動に関する調査研究報告書」による)。
統計
・2016年における特許出願は約900件であり、90%以上が在外者による。
・特許出願の技術分野(2002~2016年)のトップ3は、電子機器・装置・エネルギー(約20%)、医療技術(約12%)、医薬(約11%)である。
意匠権について
出願ルート
・パリルートでの出願が可能。
※ハーグ協定未加盟
出願言語
英語
保護対象
線もしくは色彩又はその双方の組合せ、及び立体(色彩と関連しているか否かを問わない)は、創作者がそれを工業的方法によって複製されるひな形または模様として用いることを意図しており、技術的結果を得ることのみを意図していないもの。
意匠に関係する複数の製品が同一の種類に属している場合や、所定の分類で同一の区分に属している場合には、単一の意匠が多数の工業意匠に関係している場合もあるが、その上限は50個である。
一出願複数意匠制度
採用している。
出願に必要な書類
- ①当該意匠の登録を求める願書。
- ②出願人の完全名称及び宛先、並びに当該宛先がナイジェリア外である場合は、ナイジェリアにおける送達宛先。
- ③当該意匠の見本、又は写真若しくは図形による当該意匠の表示及び当該表示を作成するのに用いた版木その他の複製手段。
- ④該意匠の使用対象である製品の種類(又は、分類が定められている場合は製品の類)の表示。
- ⑤委任状。
- ⑥優先権主張する場合は、政府等が発行した優先権証明書の謄本。
出願公開
出願公開制度はないが、登録された意匠は速やかに公開される。
異議申立制度
異議申立制度はない。
審査
・審査請求制度なし。
・以下について審査が行われる
- (1) 公序良俗違反がないか
- (2) 出願書類が方式を満たしているか
- (3) 一出願複数意匠制度の利用に際しては、意匠が関係する製品が同一種類のものであるか、又は分類が定められている場合において同一類のものであるか
- (4) 優先権主張時には、宣言書の方式が満たされているか、先の出願の謄本の提出がなされているか
無効審判制度
・無効は、裁判所に提訴することができる。
・無効になるのは以下①②③のいずれかの場合である。
- ①公序良俗に違反する意匠である
- ②新規なものでない意匠である
- ③意匠登録を受ける権利の帰属に瑕疵がある
意匠権の存続期間
出願から5年であり、5年間の延長が2回できる(最長15年)。
秘密意匠制度
出願から12月以内の指定した期間、意匠の内容を秘密にすることを請求できる。
商標権について
出願ルート
・パリルートでの出願が可能。※マドプロ未加盟
出願言語
英語
商標の種類
文字商標、図形商標、記号商標、結合商標
保護対象
商品・役務・証明商標・防護標章
なお、医薬品や食品に関して使用される商標は、必ず商標として登録しなければならない
※2023年2月14日、商標法が改正された。商品の定義が修正され、商標の使用対象に役務が含まれることが明確になった。
商標分類
ニース協定に基づく国際分類を採用している。
出願に必要な書類
- ・願書:出願人(名称・住所)/商標・指定商品(※)
- ・優先権の情報
- ・委任状(認証不要)
- ・優先権証明書
(※)ー出願ー区分制度を採用
出願公開
商標登録出願が認容された場合、公報において公告される。
異議申立制度
出願公告日から2月以内。※期間延長不可
出願人に答弁書を提出する機会(1月)が与えられる。答弁書を提出しなければ出願は取り下げられる。
審査
・方式審査および実体審査が行われる。
・先願主義と先使用主義とが併存する。
・不登録事由:以下の商標は登録できない
- ①誤認または混同を生じさせる恐れがある商標。
- ②公序良俗に反する商標。
- ③スキャンダラスなデザイン。
無効審判制度
無効審判制度がある。
不使用取消制度
登録日から5年以上継続して使用をしていなかったときは、不使用取消の対象となる。
商標権の存続期間
出願から7年であり、次回から14年間ごとに更新ができる。
その他
機関
Federal Ministry of Trade and Investment
Trademarks, Patents and Designs Registry
http://www.iponigeria.com
特許・意匠法「Patents and Designs Act」
http://www.nigeria-law.org/Patents%20and%20Designs%20Act.htm
http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/pdf/nigeria/tokkyo_isho.pdf(特許庁による日本語仮訳)
商標法「Trade Marks Act」
http://www.nigeria-law.org/Trade%20Marks%20Act.htm
http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/pdf/nigeria/shouhyou.pdf(特許庁による日本語仮訳)
弁理士 スペシャリスト 鷲見 祥之