マレーシア

マレーシア:特許法・施行規則改正(2022年3月18日施行)(2022年7月26日更新) new

 

 

マレーシアの概要

マレーシアは、マレー半島とボルネオ島の2つの領域からなる国家であり、タイ、インドネシア、ブルネイといった国々と接している。また、ASEANの一員でもある。

世界的に有名なペナン島といったリゾート地が多く存在する一方、近年急速な経済成長を遂げた国でもあり、先進的なデザインのペトロナスツインタワーはその象徴と言える。

マレーシアの首都はクアラルンプール、公用語はマレーシア語、通貨はリンギット(MYR)であり、国別コードトップレベルドメインは「.my」である。

また、日本男子サッカー代表チームがイラン代表に勝利し、はじめてワールドカップ本選出場を決めた試合は「ジョホールバルの歓喜」と呼ばれているが、「ジョホールバル」はその試合が行われた都市の名称で、マレーシアの主要都市の一つである。

マレーシアではゴム、錫等の農産物や鉱物の生産が盛んであるが、これらの輸出や観光業のみに依存するのではなく、インフラの整備や重工業の充実といった経済政策で一定の成果をあげており、同国は2020年には先進国入りする目標を掲げている。

 

 

マレーシアの知的財産権の概要

各法域の概要について記載する。

  特許 実用新案 意匠 商標
現地代理人の必要性
出願言語 英語又はマレーシア語
実体審査制度
存続期間 出願から20年 出願から10年(5年ごとに2回延長可) 出願から5年(5年ごとに4回延長可) 出願から10年(10年ごとに延長可)
異議申立 出願の公告から2月
無効訴訟
(裁判所で判断)

また、マレーシアはパリ条約、WTO協定、特許協力条約 (PCT)、ニース協定、マドリッド協定議定書などに加盟している。

 

特許権について

存続期間

出願から20年である。

 

保護対象

産業上利用できるものが対象となる。

科学的理論、数学的方法、植物又は動物の変種、生物学的方法などは対象から除かれる。

 

出願

パリ条約に加入しているため、日本の特許出願に基づく優先権の主張が可能である。

PCTに加盟しているため、PCT出願においてマレーシアを指定することができる。

願書、明細書、特許請求の範囲、必要な図面、その他所定の書面を提出する。

所定の手数料、委任状(出願から6月以内に追完可能)が必要である。

優先権証明書は、マレーシア特許庁より優先権証明書の提出指令があった場合に、提出が必要となる。

 

審査

まず方式的要件が満たされているかにつき審査が行われ、その後予備的な審査(明細書の形式や用紙サイズ等のチェック)が行われる。

審査請求には2種類あり、通常の実体審査請求と、修正実体審査請求がある。

(1)通常の実体審査請求(Substantive Examination)とは、マレーシア特許庁が独自に審査を行う形態をいう。しかしながら、実際はマレーシア以外の国の特許庁に行った出願の情報や審査結果は、資料として提出すると審査において参酌されるため、実体審査請求と同時にそれら所定の書類を審査官に提出すべきと考えられている。

(2)修正実体審査請求(Modified Substantive Examination)とは、マレーシア特許出願と対応する外国出願が、所定の官庁で特許になっている場合に、その内容にマレーシア特許出願の明細書の内容を一致させ、特許する審査の形態をいう。
そのため、修正実体審査請求には、対応する外国出願が所定の官庁で特許になったことを示す特許証の提出が必要となる。尚、審査請求時に対応する外国出願の調査・審査の結果を入手できない場合や、特許に至っていない場合もあるため、そのような場合には、出願日から5年、審査請求期限(通常は出願日から18月以内)の延長が可能である。

異議申立制度はない。

 

実施義務

登録日から3年、又は出願日から4年の何れか遅い方が経過するまでに実施しなければならない。

 

修正実体審査請求のための認証

日本国特許に基づいてマレーシアで修正実体審査請求を行う場合、特許公報の認証を受けた翻訳を提出する必要はありません。

但し、以下の書類を提出することが必要です。

  • 日本国特許庁が認証した特許公報
  • 特許公報の英訳
  • 翻訳者による宣誓書

オンラインIP検索ツール

下記のURLから、マレーシアのIPについて、英語のUIで検索が可能なオンライン検索ツールにアクセスすることができます。

http://iponline2u.myipo.gov.my/myipo/www/

 

 

実用新案権について

存続期間

出願から10年であり、5年間の延長が2回できる(最長20年)。

 

保護対象

実用新案は「形状・構造・組合せにより、実用性を有する新規な器具、道具、物又は方法」と定義される。特許に適用される進歩性の要件は実用新案には適用されない。

 

審査

実体審査請求制度があり、請求時に所定の費用を支払う。

異議申立制度はない。

 

 

意匠権について

存続期間

出願から5年であり、5年間の延長が4回できる(最長25年)。

 

保護対象

意匠は「工業的生産過程において物品に応用される形状・模様若しくはパターン特徴」と定義される。公序良俗違反に該当する意匠は登録できない。組物の意匠は登録可能である。

 

出願

パリ条約に加入しているため、日本の意匠登録出願に基づく優先権の主張が可能である。

ヘーグ協定は締結していない。2015年にヘーグ協定に加盟予定。

願書には、意匠に係る物品及び国際意匠分類を記載し、写真又は図面のいずれかを提出する。また、所定の手数料、委任状が必要である。

創作者から出願人への意匠登録を受ける権利の移転の態様を示す書面(譲渡若しくは職務創作)の他、新規性に関する説明書が必要である。

複数の意匠を一の出願とすることが可能である。

 

審査

方式的要件のみ審査され、実体的要件に関しては審査されない。

全ての方式的要件を満たしていると判断された場合には、登録原簿に登録された後、登録証が発行される。

異議申立制度はない。

 

 

商標権について

存続期間

出願から10年であり、10年間ごとに更新ができる。

 

保護対象

商品・役務についての商標が対象となる。識別力を欠く商標、他人の登録商標と類似する商標は除かれる。

公序良俗に反するものは対象から除かれる。

通常の商標登録出願、新しいタイプの商標(色彩、音、ホログラム等)、連合商標出願、連続商標出願、防護標章出願、証明標章出願も可能である。

 

出願

パリ条約に加盟しているため、日本の商標登録出願に基づく優先権の主張が可能である。

外国人が出願する場合に、自国において事前に商標登録されている必要はない。

マドリッド協定議定書に加盟しているため、マドプロ出願においてマレーシアを指定することができる。

出願には商標見本、区分、商品/役務等の記載が必要である。また、出願商標にローマ字、英語、マレー語以外の言語が含まれる場合には、その語が何語であるか、また、当該語の翻訳及び音訳が求められる。

一出願多区分制を採用。一つの出願で複数の区分を指定可能。
→これとの関係で、出願の分割、複数の出願の統合が認められることとなった。

 

審査

出願後、方式審査を経て実体審査が行われる。

出願の公告から2月以内に第三者は異議申立ができる。

 

※拒絶理由の概説

【絶対的拒絶理由(法23条)】

識別力に関するもの 参考:日本商標法
(1) (a) 写実的に表示することができず,かつ,ある事業の商品又はサービスを他の事業の商品又はサービスから識別することができない標識。
(b) 識別性を欠いている商標。 3条1項各号
(c) 商品若しくはサービスの種類,品質,数量,用途,価格,原産地,その他の特徴又は商品の製造若しくはサービスの提供の時期を指定するために取引上用いることができる標識又は表示のみから成る商標。 3条1項3号
(d) その領域の現行言語において又は誠実かつ確立した取引慣行において慣例となった標識又は表示のみから成る商標。 3条1項2号
(2) (1) (b),(c)及び(d)にかかわらず、登録出願の日前に,商標がその使用の結果として実際に識別性を獲得している場合は,登録官は,商標出願の登録を拒絶してはならない。 3条2項
機能確保のために不可欠な形状に関するもの 参考:日本商標法
(3) (a) 商品自体の性質から生じる形状。 4条1項18号
(b) 技術的成果を得るために必要な商品の形状,又は
(c) 商品に実質的な価値を与える形状。
国名、地理的表示に関するもの 参考:日本商標法
(4) (a) 商標が国名のみから成る場合,又は 4条1項6号
(b) 商標が承認された地理的表示を含むか又はそれから成る場合。 4条1項6号
品質誤認・公序良俗に関するもの 参考:日本商標法
(5) (a) 商標の使用が公衆に誤認若しくは混同を生じさせる虞があり又は成文法に反する場合。 4条1項15号、17号
(b) 商品又はサービスの性質,品質又は原産地に関して公衆に誤認又は誤解を生じさせる性質を有する場合。 4条1項16号
(c) 商標が公共の利益又は道徳に反すること。 4条1項7号
(d) 商標が中傷的若しくは侮辱的な事項を含むか若しくはそれから成り又はその他裁判所による保護を受けるのに適格でないこと。 4条1項7号
(e) 商標が,登録官の意見において,国の利益又は安全を害し又は害する虞がある事項を含むこと。 4条1項7号
(f) 商標が,生存者であるか死亡者であるかを問わず,他人の名称又は表示を含むか又はそれから成ること。ただし,出願人が,生存者については本人の又は死亡者については本人の代理人の同意を登録官に提出した場合はこの限りでない。 4条1項8号
(g) 商標が国の旗章,国章,記章,勲章又は王室の紋章を含むか又はそれから成ること。ただし,出願人が,第78条又は場合により第79条に定める所轄当局又は政府間国際機関の許可を登録官に提出した場合はこの限りでない。 4条1項1号
(h) 商標が,混合物とは区別される単一の化学物質若しくは単一の化合物の認められている名称であり若しくは当該名称として普通に使用される語又は世界保健機関により国際一般名として宣言されている語若しくは当該名称と誤認を生じさせる程に類似の語を含むか又はそれから成ること。ただし,次の場合はこの限りでない。(i) ブランドのみを表示するために又は商標の所有者若しくはライセンシーが製造した物質若しくは化合物を他人が製造した物質若しくは化合物と区別させるために使用される場合,かつ,(ii) 公衆の使用に供されている適当な名称又は表示と組み合わせて使用される場合,
(i) 商標が,次の何れかの標識又は次の何れかの標識と誤解される虞がある程にその標識と類似する標識を含むか又はそれから成ること(i) 何れの言語によるかを問わず,「特許」,「特許された」,「国王特許証」,「登録された」,「登録意匠」及び「著作権」の語又はこれらに類似する趣旨の語,又は(ii) 所定の標識 商標法4条1項7号、
16号、2~6号

 

 

【相対的拒絶理由(法24条)】

(1) 商標が先の商標と同一であり,かつ,商標の出願に係る商品又はサービスが,先の商標の商品又はサービスと同一である場合は,登録官は,当該商標の登録を拒絶する。 4条1項11号
(2) 次の場合において,公衆において混同の虞が存在するときは,登録官は,商標の登録を拒絶する。
(a) 商標が先の商標と同一であり,かつ,先の商標と類似の商品又はサービスについて登録を受けようとしている場合,又は 4条1項11号
(b) 商標が先の商標と類似であり,かつ,先の商標と同一又は類似の商品又はサービスについて登録を受けようとしている場合 4条1項11号
(3) (a) 商標がマレーシアにおいて登録されていない周知商標と同一又は類似であり,かつ,周知商標の所有者と同一の商品又はサービスについて登録を受けようとしている場合,又は 4条1項10号
(b) 商標がマレーシアにおいて登録されている周知商標と同一又は類似であり,かつ,周知商標の登録に係る商品又はサービスと同一でない又は類似でない商品又はサービスについて登録を受けようとしている場合において,(i) それらの商品又はサービスに関する当該商標の使用が,それらの商品又はサービスと周知商標の所有者との間の関係を示唆することになるとき(ii) 当該使用を理由として,公衆において混同の虞が存在するとき,かつ,(iii) 周知商標の所有者の利益が当該使用により害される虞があるとき 4条1項12号

 

その他
・コンセント制度あり:24条(1)~(3)の拒絶理由については、先行商標または先行する権利者の同意があれば、公共の利益及び公衆における混同の虞を考慮したうえで、登録を認めることができる(24条(7))
・先行商標の存続期間の考慮:24条の適用上、先行商標の存続期間が満了した場合、登録官は当該商標につき満了後12ケ月の間は先行商標として考慮する(24条(8))

 

不使用

3年間使用しない場合は、不使用取消審判の対象となる。

 

登録後

登録官の証印付きの登録通知のみが登録時に発行され、出願日が登録日となる。

登録証は発行されないが、所定の費用を払うことで発行の申請が可能である。登録証は、登録通知と同じ価値である。

多区分出願が認められたこととの関係で、以下が認められることになった。
①登録の分割
②複数の登録の併合

存続期間満了後、6ヶ月以内に更新が可能である。

一部又はすべての区分での更新が可能である。

更新可能期間内に手続きがなされなかった場合、抹消とみなされるが、抹消から6ケ月以内であれば回復の申請が可能。

 

 

最新情報

マレーシア:特許法・施行規則改正 (2022年3月18日施行)

 マレーシア特許法および施行規則が改正されました。主な改正項目の概要を紹介します。

1.委任状

委任状のフォーマットが新しくなりました。施行日以後に提出する委任状は、新しいフォーマットに従って作成することが要求されます。

2.配列表

配列表の提出が、出願日の認定の要件となりました。テキスト形式等のPCTで許容されているデジタルフォーマットとPDF形式との2種類のフォーマットの配列表の提出が必要です。

3.PCT国内移行

以下のいずれかを用いてマレーシア国内移行することが可能です:
 (i)PCT出願時の明細書
 (ii)19条/34条補正されたPCT明細書
 (iii)予備補正/訂正した明細書

(iii)については、所定の庁費用の支払いと共に、予備補正/訂正の申請書の提出が必要です。

4.優先権の回復

過失により優先権が消失した場合に、所定の費用を支払うことにより優先権の回復を請求することができます。
国内出願について、優先権の回復を請求できる期限は、優先権主張期限後2ヶ月です。国内移行出願について、優先権の回復を請求できる期限は、国内移行期限又は早期審査請求後1ヶ月です。

5.公開

PCT以外の出願が官報に公開されます。公開時期は、出願日又は最先の優先日から18か月後です。早期公開請求も可能です。

6.第三者情報提供

第三者による情報提供が、新規性及び進歩性を理由とするものに限って認められます。
国内出願に対する情報提供の提出期限は公開から3ヶ月以内です。国内移行出願に対する情報提供の提出期限は国内移行から3ヶ月以内です。

7.審査請求

実体審査請求について、対応外国出願の審査結果、関係書類などの提供が任意となりました。実体審査請求の請求期限の延長請求は認められなくなりました。実体審査を期限内に請求できない場合には、その出願は自動的に放棄/取り下げとなります。
修正実体審査請求については、審査請求期限の延長請求が可能です。当該延長請求は、修正実体審査請求に係る出願に関連する対応外国出願の審査結果待ちの場合にのみ認められます。
なお、修正実体審査請求の延長後、延長期限内に修正実体審査請求できない場合には、延長後の期限から3ヶ月以内に実体審査請求することができます。

8.分割出願

自発的な分割出願の出願期限は、最初の拒絶報告の送達日から3ヶ月以内であり、延長はできません。

9.出願変更

特許と実用新案との間の変更出願の期限は、最初の審査報告の送達日から3ヶ月以内であり、延長はできません。

10.拒絶理由を含む審査報告に対する応答期限

拒絶理由を含む審査報告に対する応答期限は、送達日から3ヶ月以内です。当該応答期限の延長は1回に限り認められ、最大で6ヶ月延長可能です。

11.特許付与後の訂正

特許付与後の訂正は、明白な誤記の訂正に加えて、再審査請求することにより実体的な訂正も可能です。

12.特許の回復

失効した特許の回復は、官報における消滅通知の公開から12か月以内に限り請求することができます。

13.特許庁費用

10を超えるクレームに対して、クレーム超過料金が発生します。
  クレーム11~20の各項につき RM20
  クレーム21~30の各項につき RM30
  クレーム31~40の各項につき RM40
  クレーム41~の各項につき   RM50

14.ブタペスト条約への加盟

微生物の寄託に関するブタペスト条約に、2022年3月31日付で加盟しました。

 
 
 
 

 

 

 

 

 

その他

マレーシア特許庁URL:http://www.myipo.gov.my/

 

 

弁理士 スペシャリスト  村橋 麻衣子


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