国内意匠制度

部分意匠制度について

部分意匠制度について

部分意匠制度とは?

従来、意匠法が対象とする「物品」とは、市場で流通する有体物であり、独立して取引の対象となり得ない物品の部分は、意匠法上の「物品」ではないものとして扱われ、物品の部分に係る意匠は保護対象とはなっていませんでした。しかし、独創的で特徴ある部分を取り入れつつ意匠全体で侵害を避ける巧妙な模倣が増加し、十分にその投資を保護することができないものとなっていたことから、平成10年の一部改正において、「物品の部分」が意匠の構成要素として新たに加えられ、物品の部分に係る意匠(部分意匠)も意匠登録の対象となるように改正されました。

以下、部分意匠制度について、部分意匠特有の登録要件及び出願書類(願書及び図面)を中心に、概要をご説明します。

部分意匠特有の登録要件

意匠法第3条第1項柱書は、工業上利用することができる意匠の創作をした者が、その意匠について意匠登録を受けることができることを規定しています。

意匠法第3条第1項柱書の規定から導き出される要件は、以下の三つです。

(1)意匠法上の「意匠」を構成するものであること(「意匠該当性要件」)
(2)意匠が具体的なものであること
(3)工業上利用することができるものであること

(1)について、部分意匠の場合、「意匠登録を受けようとする部分」は、意匠に係る物品全体の形状等の中で、他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分、すなわち、当該意匠の外観の形状等の中に含まれる一つの閉じられた領域でなければなりません。また、意匠登録を受けようとする部分とその他の部分の境界が明確でなければなりません。

(2)について、部分意匠の場合、以下の①~③についての具体的な内容が直接的に導き出されなくてはなりません。

①「意匠登録を受けようとする部分」の用途及び機能
②「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲
ただし、「その他の部分」全体が示されていない場合であっても、物品の性質に照らし、意匠登録を受けようとする部分の位置、大きさ、範囲を導き出することができる場合は、具体的な意匠と認められる。
③「意匠登録を受けようとする部分」と「その他の部分」の境界

(3)について、部分意匠の場合、当該部分が工業上利用することができるものであるか否かが判断されるのではなく、出願された意匠の意匠に係る物品等全体が、本要件を満たすものであるか否かが判断されます。

部分意匠と公知意匠との類否判断

意匠権の効力は登録意匠とそれに類似する意匠に及びます。よって、登録意匠とそれ以外の意匠とが類似するかどうかの判断が重要になります。

判断主体

類否判断の判断主体は、需要者(取引者を含む)です。
類否判断は、人間の感覚的な部分によるところが大きいですが、その判断を行う際は、創作者の主観的な視点を排し、需要者(取引者を含む)が観察した場合の客観的な印象をもって判断されます。

判断手法

意匠は、物品等と形状等が一体不可分のものであるから、対比する両意匠の意匠に係る物品等が同一又は類似でなければ意匠の類似は生じません。
したがって、出願された部分意匠と公知意匠とが以下の全てに該当する場合に限り、両意匠は類似すると判断されます。

① 出願された意匠と公知意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似であること
② 出願された意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の用途及び機能が同一又は類似であること
③ 出願された意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品等の全体の形状等の中での位置、大きさ、範囲と、公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の当該物品等の全体の形状等の中での位置、大きさ、範囲とが、同一又は当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであること
④ 出願された意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の形状等が同一又は類似であること
(注)「その他の部分」の形状等のみについては対比の対象とはされません。

なお、上記①から④が全て同一の場合、両意匠は実質的に同一と判断されます。

部分意匠の意匠登録出願の願書及び図面の記載

願書の記載

■【部分意匠】の欄
【部分意匠】の欄は、2019年5月1日以降の出願については、願書項目ではなくなりました。

■ 【意匠に係る物品】の欄
【意匠に係る物品】の欄には、物品等の全体としての「物品の区分」を記載します。したがって、例えば、カメラの創作において当該グリップ部分の意匠登録を受けたい場合は、「カメラ」と記載します。「カメラのグリップ部分」などと記載しないよう注意してください。

■【意匠に係る物品の説明】の欄
「意匠登録を受けようとする部分」の用途及び機能も、重要な判断要素となりますので、図面のみでは「意匠登録を受けようとする部分」の用途及び機能がわかりにくいと思われるときには、当該部分の用途及び機能の説明も記載します。(その説明に代えて【参考図】で明らかにすることも可能です。)
なお、【意匠に係る物品】が、「別表第一」の「物品の区分」のいずれにも属さない場合に、その物品の使用の目的・状態等物品の理解を助けることができるような説明を記載することは、全体意匠と同様です。

■【意匠の説明】の欄
図面の記載のみでは意匠登録を受けようとする部分を特定することができない場合は、当該部分を特定する方法を【意匠の説明】の欄に記載します。図面において、例えば、「意匠登録を受けようとする部分」を実線で描き、「その他の部分」を破線で描く場合は、【意匠の説明】の欄に「実線で表した部分が、意匠登録を受けようとする部分である。」と記載します。また、「意匠登録を受けようとする部分」と「その他の部分」の境界を一点鎖線で描いた場合は、「一点鎖線は意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す線である」のように記載します。同様に、「意匠登録を受けようとする部分」と「その他の部分」を彩色によって区別する場合等も、例えば「○○色(出願の意匠に含まれない単一色)で着色された部分以外の部分が、意匠登録を受けようとする部分である。」のように記載します。

図面の記載

「意匠登録を受けようとする部分」が物品等の全体の中のどこの部分であるかが分かるようにする必要があります。その方法としては、「意匠登録を受けようとする部分」を実線で描き、「その他の部分」を破線で描くことにより、意匠登録を受けようとする部分を特定します。また、「意匠登録を受けようとする部分」と「その他の部分」を彩色等によって区別することで「意匠登録を受けようとする部分」を特定すること等も可能です。

引用元:特許庁公表「意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引き」

 

部分意匠の具体例

部分意匠は物品の特徴的な部分を保護することができる有用な制度のため、広く活用されており、特に、携帯電話やテレビなど電化製品の分野では多くの部分意匠が取得されています。

一例として、以下にiPhoneの全体意匠と部分意匠の例を以下に示します。

左図は全体意匠であり、右図はiPhoneの画面やボタン部分を除いた外側の丸みのある部分のみを権利範囲とした部分意匠です。

全体意匠が実線のみで描かれているのに対し、部分意匠は権利を取得したい部分のみを実線で描き、それ以外の部分は破線で描いている点が異なります。

右図のような部分意匠を取得することにより、携帯電話のボタン部分が視覚に変更された模倣品が販売されていたとしても、その部分は破線であって権利範囲ではないため、携帯電話の外側の部分が模倣されていれば、意匠権に基づいて販売を差し止めたり、損害賠償請求をしたりすることができます。

部分意匠のメリットとデメリット

メリット

・特徴部分について登録を求めるものですので、その特徴部分と類似関係にある先行意匠がない以上、登録になります。
・全体形状がありふれたものである場合、全体を登録対象とするよりも、登録対象を部分的なものにすることで、権利化しやすくなります。
・デザインの特徴部分が類似していればいいので、侵害品の特定が容易で、侵害行為に対する差止めをしやすいです。

デメリット

・特徴あるデザイン部分のみが権利として登録されるわけではなく、あくまで全体意匠の中でのある部分という権利になります。つまり、全体意匠の中で特徴的な部分の位置関係や、どのくらいの大きさなのか等が考慮されます。
 よって、例えばある特徴的な部分が似ていたとしても、全体意匠の中での位置関係が全然違ったり、大きさが全然違ったりすると、似ていないということになって権利行使ができなくなります。
・全体を登録対象とした場合に比べ、特徴部分のみの登録ですので損害賠償額の算定で寄与度が小さいと判断されることがあります。

部分意匠の保護範囲

部分意匠を模倣された場合、当該部分以外の形状が全く似ていなくても、意匠権侵害を構成するといえるか否かについて、当該部分のみが独立して権利の対象であって、当該部分以外の形状が似ていなくてもよいとする考え方もありますが、判例は、当該部分は物品全体の要部にすぎず、物品全体の形状をも見て類否判断すべきとしています。

具体的には、「部分意匠制度は,独創的な創作がなされた物品の部分に係る意匠を保護する必要性から立法されたものである(意匠法2 条1 項参照)が,部分といっても,あくまでベースとなった物品の形状全体との関係における部分であるから,部分意匠の形態のみならず,物品全体の位置,大きさを勘案しながら部分意匠の類似の範囲を判断すべきである」(平成22年(ネ)第10014号「マンホール用蓋受枠」事件)と判示されています。

したがって、部分意匠同士が類似していても、物品全体における位置や大きさがまったく異なるような場合には、意匠権侵害と言えない可能性があります。

部分意匠と損害賠償

部分意匠は、物品の一部を対象とするものであるため、部分意匠の意匠権侵害に基づく損害賠償請求について、裁判所は、当該部分意匠の寄与度を考慮し、損害賠償額を認定することが多いようです。一般的に、部分の占める割合が大きければ寄与度が大きく、購入の際に注意しないような部分に関する部分意匠の場合は寄与度は低くなります。

部分意匠を取得した後に全体意匠も取得したり、関連意匠制度を活用するなど、他の意匠登録制度と併用することで、より保護の範囲及び損害賠償の範囲を広くすることも可能になります。

意匠登録をご検討中の方は、費用のお見積りを含め、当所までお気軽にご相談下さい。
当所では、特徴的なデザインの保護、及び、大切な商品のブランド力と価値の保護について、確かなお手伝いをさせていただきます。

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