目次
1.はじめに
マレーシア(Malaysia)は、東南アジアに位置し、マレー半島南部およびボルネオ島北部からなる連邦立憲君主制国家です。イギリス連邦加盟国のひとつで、タイ、インドネシア、ブルネイと陸上の国境線で接しており、シンガポール、フィリピンと海を隔てて近接しています。ASEANの一員です。
- 面積:約33万平方キロメートル(日本の約0.9倍)
- 人口:約3,200万人(2017年マレーシア統計局)
- 首都:クアラルンプール
- 民族:マレー系(約69%),中国系(約23%),インド系(約7%)
(注:マレー系には中国系及びインド系を除く他民族を含む)
2.保護対象
(1) 意匠の定義
意匠は「工業的方法又は手段により物品に適用される形状、輪郭、模様又は装飾の特徴であって、完成した物品において視覚に訴え、視覚によって判断されるものをいう」と定義されています。三次元又は二次元の形状も含みます。
(2) 画像の意匠
アイコン、グラフィックユーザインターフェース(GUI)は、意匠法に定義されていませんが、登録意匠が存在することから、実務上意匠の保護対象となり得ます。
3.登録要件
(1)「物品」であること
物品とは、何らかの製造物品又は手工業品を意味します。個別に製造・販売される場合は、それらの一部も「物品」に含みます。
(2) 新規性
マレーシア国内又は外国において新規性を有していること。
2013年改正法により世界主義が採用され、国内公知から世界公知へ改正されました。
(3) 公序良俗
公の秩序又は道徳に反する意匠でないこと。
4.不登録事由
以下に該当するものは意匠登録を受けることができません。
- 構造についての方法若しくは原理
- 物品が果たすべき機能によってのみ決定づけられる、物品の形状若しくは輪郭の特徴
- 他の物品における必須部分の外観により定まる、物品の形状若しくは輪郭の特徴
- 2000年集積回路配置法にいう集積回路若しくは集積回路の一部又は当該集積回路を作成するために用いられるマスク
5.存続期間
2013年改正法により、最長15年から25年に延長されました。出願日(優先日)から5年の存続期間が与えられ、更新により最長25年まで延長することができます(5年ごとに4回まで更新可能)。
6.意匠制度
(1) 多意匠一出願
二以上の意匠は、国際意匠分類の同一クラスに係るか,又は同一の組物若しくは同一の物品構成に係る場合に限り,一出願とすることができます。
各意匠は、創作者や優先権主張の基礎出願が相違しても構いませんが、出願人は同一である必要があります。
一出願に含めることができる意匠の数に制限はありませんが、意匠毎の庁費用について割引はありません。
意匠毎に出願番号が付され、個別に審査が行われます。
(2) 部分意匠
部分意匠制度は採用されていません。上述したように、物品の部分が個別に製造・販売される場合は、部品として出願することができます。
(3) 組物の意匠
数個の物品であって、同一の一般的な特徴を有し、かつ、通常同時に使用又は販売されるものは、「組物」として一出願することができます。
7.新規性喪失の例外
出願日前6ヶ月以内に、以下に該当する場合、公衆に開示されたとみなされません。
- (1) 公式又は公認の博覧会に展示された場合、又は、
- (2) 出願人又は当該出願人の前権利者以外の他人による不法行為の結果として、開示された場合
新規性喪失の例外適用を受ける場合は、出願と同時に所定の書面をマレーシア特許庁に提出する必要があります。
8.提出書類
特に、新規性の陳述と、図面について説明します。
(1) 新規性の陳述(Statement of Novelty)
出願書類に新規性の陳述を含める必要があります。新規性の陳述とは、意匠が適用される物品の図面に関連する説明で、新規性が主張されている部分の特徴を示すものです。
(2) 図面
①破線・シェイディング
破線又はシェイディングは、それが意匠の新規な部分を区別するために使用されている場合、マレーシア特許庁の慣例において許容されています。
一般的に、破線又はシェイディングは、マレーシア以外の国で認められている部分意匠制度において、意匠登録を受けようとする部分とその他の部分を区別するために使用されるものです。しかし、上述したように、マレーシアの意匠法では、部分意匠は採用されておらず、破線又はシェイディングは、意匠の新規な部分を区別するための使用に厳密に制限されています。
②色彩
色彩は、2013年改正後においても認められていません。したがって、図面は白黒のみで作成しなければなりません。通常、線図による図面が提出されます。現在のところ、色彩のバリエーションを認めるかについては協議もされていません。
③写真
写真は白黒で提出すべきですが、写真の提出は一般的にお勧めできません。白黒写真は、大体において十分明瞭でないからです。
9.審査
方式要件の審査のみで、実体審査は行われません。
(1) 新規性
実体審査がないため、方式審査において実体審査の一部(国内登録意匠とのクロスチェックによる新規性の審査)が行われます。
(2) 物品名
方式審査において、優先権証明書と物品名や図面の数などが相違するとき、出願は拒絶されます。しかし最近においては、特に物品名を決定する場合に、基礎意匠とは独立した出願として物品名が決定されています。
審査官は、よりふさわしいと思う物品名を提案し、出願人に修正するよう求めます。物品名が有する権利範囲が広すぎたり、漠然とした物品名の場合は、より明確なものに修正するよう求められます。審査官から提案された物品名について、出願人がふさわしくないと考えた場合、審査官と協議することができます。
10.登録までの期間
審査終了後、順調にいけば、出願日から9~12ヶ月以内で登録されます。
11.公開
(1) 公報に関する規定の改正
2013年改正法により、登録後、意匠登録に関する公告は、「官報(Gazette)」ではなく登録官が発行する「公報(Official Journal)」で行うよう規定されました。公報は、MyIPOのウェブサイトから簡単にアクセスして、印刷することができます。
(2) 公開延期
公開延期の規定は採用されていません。
12.異議申立制度及び無効審判
異議申立制度は採用されていません。今後、近いうちに採用される予定もありません。
しかし、登録後、無効審判により意匠権が無効にされる場合があります。
13.意匠権の譲渡
2013年改正法において、意匠権者変更の登録は、変更から6ヶ月以内にしなければならないことにご留意ください。もしそうでなければ、当該期間内に変更登録をすることが現実的でなく、その理由がなくなった後直ぐに変更登録されたことが認められなければ、裁判所は、新権利者に対して侵害事件の賠償額の裁定をするのを拒絶します。