目次
6月号【法務】ニュースレター
2024年4月施行の改正不正競争防止法について
令和5年第211回通常国会において、不正競争防止法の改正を含む「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(法律第51号)が可決成立し、以下の3つを柱に、不正競争防止法を中心に、商標法、意匠法、特許法、実用新案法等の一部が改正された。
(1)デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
(2)コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
(3)国際的な事業展開に関する制度整備
主な改正項目と施行日
このうち、不正競争防止法の主な改正項目は以下のとおりであり、2024年4月1日から施行されている。
▪ デジタル空間における模倣行為の防止
→商品形態の模倣行為について、デジタル空間における他人の商品形態を模倣した商品の提供行為も不正競争行為の対象とし、差止請求権等を行使できるようにする。
▪ 営業秘密・限定提供データの保護の強化
→不正競争防止法について、ビッグデータを他者に共有するサービスにおいて、データを秘密管理している場合も含め限定提供データとして保護し、侵害行為の差止め請求等を可能とする。また、損害賠償請求訴訟で被侵害者の生産能力等を超える損害分も使用許諾料相当額として増額請求を可能とするなど、営業秘密等の保護を強化する。
▪ 外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充
→OECD外国公務員贈賄防止条約をより高い水準で的確に実施するため、自然人及び法人に対する法定刑を引き上げるとともに、日本企業の外国人従業員による海外での単独贈賄行為も処罰対象とする。
▪ 国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化
→不正競争防止法について、国外において日本企業の営業秘密の侵害が発生した場合にも日本の裁判所に訴訟を提起でき、日本の不正競争防止法を適用することとする。
本レターでは、特に、知財実務にも密接に関連するデジタル空間における模倣行為の防止について紹介する。
デジタル空間における模倣行為の防止
【不正競争防止法2条1項3号(改正後)】
他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し又は電気通信回線を通じて提供する行為
不正競争防止法では、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争と規制することによって(不正競争防止法2条1項3号)、商品のデザインの保護を図っているところ、メタバース等のデジタル空間における取引が活発化するなど、従来の事業のデジタル化が進む中で、不正競争防止法2条1項3号に対しては、フィジカル/デジタルを交錯する模倣事例に対応できないのではないかといった課題が指摘されていた。
そこで、改正前の不正競争防止法2条1項3号では、「譲渡」や「貸し渡し」等の有体物を前提とした行為のみが不正競争として規定されていたところ、「電気通信回線を通じて提供する行為」を不正競争として規定することにより、ネットワークを介して行われる形態模倣商品の提供行為も不正競争として捉えることができるよう改正が行われた。
なお、デジタル空間における商品形態の模倣行為を不正競争として捉えるためには、「商品」(不正競争防止法2条1項3号)に無体物(データなど)を含むことが前提とも考えられるところ、この点については、法改正ではなく、逐条解説(2024年4月1日施行版)において、「商品」に無体物を含むことが明確化された。
また、従来は明確には不正競争として捉えてこなかったデジタル空間における模倣行為を不正競争としてこらえることに伴い、事業者の予見可能性等にも配慮する必要性から、デジタル空間におけるどのような行為が「模倣」といえるかのかについても、逐条解説で明確化された。
参考URL:
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/kaisei_recent.html
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/hokaisei/sangyozaisan/fuseikyousou_2306.html
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/Chikujo.pdf
新たな保護対象についての意匠登録出願動向
特許庁HPに、改正意匠法(2020年4 月1日施行)に基づく新たな保護対象について出願動向が公表された。これによると、新たな保護対象となった「画像」、「建築物」、「内装」の意匠、また、関連意匠制度の拡充により本意匠の意匠公報発行後(基礎意匠の出願から10年を経過する日前まで)の関連意匠の出願件数は以下のとおりである(ハーグは除く)。 特許庁HPによると、これらの意匠の出願状況については、多くの企業等から高い関心が示されているとのことで、当所のニュースレターにおいても、引き続き掲載していきたい。
新たな保護対象についての意匠登録出願件数
( )内の数字は前回(約3月前)から増加した件数
画像 | 建築物 | 内装 | |
意匠登録出願件数 | 5,688 (336) | 1,583 (114) | 1,027 (48) |
(2024年5月9日時点で取得可能なもののみ)(特許庁HPより)
新たな保護対象についての登録件数
( )内の数字は前回(約3月前)から増加した件数
画像 | 建築物 | 内装 | |
登録件数 | 3,983 (331) | 1,136 (128) | 729 (88) |
(2024年5月9日時点で取得可能なもののみ)(特許庁HPより)
上記1.の意匠登録出願件数には現に審査中のものも含まれており、上記登録件数/上記意匠登録出願件数が登録率となるわけではありません。
関連意匠についての意匠登録出願件数
( )内の数字は前回(約3月前)から増加した件数(特許庁HPより)
本意匠の公報発行前の出願 | 13,474 (861) |
本意匠の公報発行後の出願 | 3,343 (241) |
(2024年5月9日時点で取得可能なもののみ/本意匠の公報発行前の出願については、2020年4月以降の出願を計上。)
特許庁:商標の活用事例集「事例から学ぶ 商標活用ガイド」
2024年4月3日、特許庁は2019年に公表した、「事例から学ぶ 商標活用ガイド」について5年ぶりに刷新し、新たに「事例から学ぶ 商標活用ガイド2024」を公表した。本ガイドでは、ビジネスにおける商標の活用方法や権利化に関するメリット等を実際の事例を通じて紹介するとともに、「商標を取っていなかったがために起きてしまったこと」などを失敗事例として紹介している。本稿では一部のみ紹介、詳細は下記サイトで確認可能。
失敗事例の紹介(1)国内でのトラブル
〇店名を商標登録しないまま長年使用していたところ、突然警告書が送られてきた。相手が商標登録したのは私たちの開店よりずっと後なのに、私たちが店の名前を変えざるを得なくなり、使用していたパンフレットや看板の変更が必要になった。
〇とある名称を商標登録しないまま、商品に付して販売していたところ、その商品の評判が高まって消費者に知られるようになった。そのせいか、その名称を他社に商標登録されてしまい、商標権を根拠に法外な使用料を請求されてしまった。
〇新しく提供予定のサービスについて商標出願をしないでプレスリリースを出したところ、私たちが商標出願する前に、他社にそのサービスの名称を出願・登録されてしまった。
>>>他社の先取りを防ぐため、大切な商標は速やかに(可能であれば公表前に)出願・登録したほうがよいでしょう。
〇他社にライセンスしていた商標権を権利放棄してしまった。発覚後急いで再度出願した。幸い登録できたが、ヒヤリとした。
〇商標権の更新を失念し権利を失効させてしまった。権利失効後、他人が同じ名称を商標登録し、その後、私たちにその商標の使用中止を求めてきたので、仕方なく商標を変更した。
>>>商標権は10年ごとに更新が必要です。更新要否を判断する際は、自社の使用状況はもちろんのこと、他社へのライセンス状況等も確認する必要があります。
〇登録商標と大きく異なるロゴを表示したカタログを大量に作ってしまった。リスクを軽減するため、そのロゴでの出願・登録を再度行うという対応が必要になった。
>>>登録商標と大きく異なるロゴマークの使用は、登録商標の権利範囲には含まれない可能性が高く、他社の権利を侵害する可能性など大きなリスクも生じます。商標を使用する際は、権利取得した登録商標を確認し大きく異なる態様での使用は控えましょう。
失敗事例の紹介(2)海外でのトラブル
〇海外において、自社名義で所有していると社内整理していた商標権を調べたところ、実は現地法人や代理店が所有していることが判明した。商標権が自社名義でないと、権利行使の際に柔軟な対応が取れなくなる可能性があった。過去の担当者による商標権の内容確認が不十分であったためと思われる。
〇海外の現地法人や代理店が、私たちに断りなく登録商標を変更した形で使用していた。
>>>海外における商標権の取得や商標の使用態様については、現地法人・代理店としっかり意思疎通のうえ、コントロールする必要があります。
〇海外に商品を輸出したところ人気が急上昇し、急いでその国で商標出願したが、その半年前に他人によって出願されており、結果、商標登録するのに非常に苦労した。
>>>海外では、他人がその商品の名称を先に商標出願してしまうケースが多く見られます。可能であれば早期の出願を行う、他人の出願をモニタリングする、他人の出願を見つけたら登録を阻止する方策を取る、仮に既に登録されている場合は、その登録の無効審判請求を検討する、などの対応が必要です。
[参照]
https://www.jpo.go.jp/support/example/trademark_guide2024.html
Newsletter translated into English
Revised Unfair Competition Prevention Law to be Enforced in April 2024
During the 211th ordinary session of the National Diet in 2023, the “Law for Partial Amendment of the Unfair Competition Prevention Law, etc.” (Law No. 51) was passed and enacted, which included amendments to the Unfair Competition Prevention Law and partially amended the Trademark Law, Design Law, Patent Law, and Utility Model Law, with respect to the following three main points and with the focus on the Unfair Competition Prevention Law.
(1) Strengthening protection of brands, designs, etc., in light of the diversification of business activities associated with digitalization
(2) Improvement of intellectual property procedures, etc. in response to the coronavirus pandemic and digitalization
(3) Institutional development for international business development
Major revisions and effective date
The main revisions to the Unfair Competition Prevention Law are as follows. These revisions came into effect on April 1, 2024.
▪ Prevention of counterfeiting in the digital space
→With respect to acts of imitation of product forms, the act of providing products in the digital space that imitate the product forms of others shall also be subject to acts of unfair competition, and the right to demand an injunction, etc. may be exercised.
▪ Strengthening of protection of trade secrets and shared data with limited access
→Regarding the Unfair Competition Prevention Law, in the case of services that share big data with others, data should be protected as shared data with limited access, including in cases where the data is managed confidentially, and it should be possible to demand an injunction against infringement, etc. In addition, the protection of trade secrets, etc. will be strengthened by making it possible to claim an increase in the amount equivalent to the license fee for damages that exceed the infringed party’s production capacity, etc. in litigations claiming damages.
▪ Strengthening and expansion of penalties for bribery of foreign public officials
→In order to accurately implement the OECD Convention against Bribery of Foreign Public Officials at a higher level, the statutory penalties for natural and legal persons should be increased, and the act of sole overseas bribery by a foreign employee of a Japanese company should be made punishable.
▪ Clarification of procedures in international trade secret infringement cases
→ Regarding the Unfair Competition Prevention Law, if infringement of a Japanese company’s trade secret occurs outside of Japan, a Japanese court can be used to file a lawsuit, and the Japanese Unfair Competition Prevention Law shall apply.
In this newsletter, we will focus in particular on the prevention of counterfeit acts in the digital space, which is also closely related to IP practice.
Prevention of counterfeiting in the digital space
[Article 2(1)(iii) of the Unfair Competition Prevention Law (as amended)]
(iii) the act of transferring, leasing, displaying for the purpose of transfer or lease, exporting or importing, or providing through a telecommunication line goods that imitate the form of another person’s goods (excluding that which is indispensable to its functioning);
The Unfair Competition Prevention Law protects product design by regulating the act of transferring goods that imitate the form of another’s goods as unfair competition (Article 2(1)(iii) of the Unfair Competition Prevention Law). However, with the increasing digitalization of traditional businesses, such as transactions in digital spaces such as the metaverse, it has been pointed out that Article 2(1)(iii) of the Unfair Competition Prevention Law may not be able to respond to cases of imitation where physical/digital aspects intersect.
Article 2(1)(iii) of the Unfair Competition Prevention Law before the amendment stipulated that only acts that presuppose a tangible object, such as “assignment” or “leasing,” were considered as unfair competition. The amendment was made so that acts of providing counterfeit goods over a network can also be regarded as unfair competition by regulating “the act of providing through a telecommunication line” as unfair competition.
In order to consider the act of imitating the form of a good in the digital space as unfair competition, it is considered a prerequisite that the “good” (Article 2(1)(iii) of the Unfair Competition Prevention Law) includes intangible objects (e.g., data). The Commentary to the Law (version effective April 1, 2024) clarified that “goods” includes intangible objects.
In addition, the commentary clarifies what acts in the digital space can be considered “imitation” in light of the need to take into consideration the foreseeability of business operators, etc., in connection with treating imitation in the digital space as unfair competition, which had not been clearly defined as unfair competition in the past.
Reference URL:
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/kaisei_recent.html
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/hokaisei/sangyozaisan/fuseikyousou_2306.html
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/Chikujo.pdf
Trends in Design Registration Applications for Objects Newly Subject to Protection
The JPO website has published a report on application trends for objects newly subject to protection under the revised Design Law (enforced on April 1, 2020). According to this report, the number of design applications for “graphic images,” “buildings” and “interiors”, which are newly protected, and the number of applications for related designs after the publication of the design gazette of a design (before the expiration of 10 years from the filing of the basic design) due to the expansion of the related design system are as follows (excluding Hague designs).
According to the JPO website, many companies and others have shown a high level of interest in the status of these design applications, and we will continue to publish this information in our newsletters.
Number of applications for design registration for objects newly subject to protection
( ) Figures in parentheses indicate the increase in the number of cases since the last report (approx. 3 months prior).
Graphic Images | Buildings | Interiors | |
Number of applications for design registrations | 5,688 (336) | 1,583 (114) | 1,027 (48) |
(Only those available as of May 9, 2024) (Source: JPO website)
Number of registrations for objects newly subject to protection
( ) Figures in parentheses indicate the increase in the number of cases since the last report (approx. 3 months prior).
Graphic Images | Buildings | Interiors | |
Number of registrations | 3,983 (331) | 1,136 (128) | 729 (88) |
(Only those available as of May 9, 2024) (Source: JPO website)
The number of design registration applications in 1. above also includes those currently under examination, so the above number of registrations divided by the above number of design registration applications does not necessarily represent the registration rate.
Number of design registration applications for related designs
( ) Figures in parentheses indicate the increase in the number of cases since the last report (approx. 3 months prior).
Applications filed prior to publication of the basic design in the Gazette | 13,474 (861) |
Applications filed after publication of the basic design in the Gazette | 3,343 (241) |
(Only those available as of May 9, 2024. For applications filed prior to the publication of the Design Gazette, applications filed in April 2020 or later are counted.) (Source: JPO website)
JPO Publishes “Learning from Case Studies: A Guide to Trademark Use”, a Collection of Examples of Trademark Use
On April 3, 2024, the JPO renewed the guide “Learning from Case Studies: A Guide to Trademark Use” five years after its publication in 2019, and newly published the guide “Learning from Case Studies: A Guide to Trademark Use 2024”. This guide introduces methods of trademarks use in business and the advantages of obtaining rights through examples of actual cases, and also introduces “things that happened because we did note obtain a trademark” as examples of failures. This article introduces only a part of the guide, and details can be found at the URL indicated at the end of the article.
Introduction of Failure Examples (1) Trouble in Japan
▪ After many years of using the name of our store without registering it as a trademark, we suddenly received a warning letter. Even though the other party registered their trademark long after we opened our restaurant, we were forced to change the name of our restaurant and had to change the pamphlets and signs we were using.
▪ We sold a product without registering its name as a trademark and the product gained a reputation and become known to consumers. Maybe for that reason, the name was registered as a trademark by another company, and the company charged an exorbitant royalty fee based on the trademark right.
▪ When we sent out a press release without filing a trademark application for a new service we were planning to offer, another company applied for and registered the name of that service before we filed our trademark application.
It is advisable to apply for and register important trademarks promptly (before announcement, if possible) to avoid preemption by other companies.
▪ We allowed the trademark rights that we had licensed to another company to become abandoned. After discovering this, we hurriedly filed another application. Fortunately, we were able to register it, but it was a close call.
▪ We forgot to renew our trademark right and let the right lapse. After the expiration of the right, someone else registered a trademark consisting of the same name and later asked us to stop using the trademark, so we had no choice but to change our trademark.
Trademark rights must be renewed every 10 years. When deciding whether or not to renew, it is necessary to check not only the status of your own use of the trademark, but also the status of licensing to other companies, etc.
▪ We produced a large number of catalogs displaying a logo that differed significantly from the registered trademark. In order to mitigate the risk, we had to take action to file and register again under that logo.
Use of a logo mark that differs significantly from the registered trademark is likely to fall outside the scope of the registered trademark rights and has a great risk of infringing on the rights of other companies. When using a trademark, check the registration for which rights have been acquired, and refrain from using the trademark in a manner that is significantly different.
Introduction of Failure Examples (2) Trouble overseas
▪ An investigation into overseas trademark rights that were treated internally as being registered in the company’s name revealed that they were in fact owned by a local subsidiary or distributor. As the trademark rights were not in our company’s name, there was a possibility that we would not be able to take flexible measures when exercising rights. This may have been due to inadequate confirmation of the contents of the trademark rights by the person in charge in the past.
▪ Overseas subsidiaries and distributors were using the registered trademark in a modified form without informing us.
The acquisition of trademark rights overseas and the manner in which the trademark is used must be thoroughly communicated with the local subsidiary or distributor and controlled.
▪ When we exported a product to another country and it rapidly rose in popularity, we rushed to file a trademark application in that country. However, an application had been filed by someone else six months earlier, and as a result, we had great difficulty in registering the trademark.
Overseas, it is often the case that someone else files a trademark application for the name of the product before you do. It is necessary to take measures such as filing an early application if possible, monitoring applications of others, taking measures to prevent registration if an application of another party is found, and if the application has already been registered, considering requesting a trial for invalidation of the registration.
[See also]
https://www.jpo.go.jp/support/example/trademark_guide2024.html