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インカメラ手続等に係る特許法改正について

 
POINT
特許権の侵害は、侵害が容易であるうえ、立証が困難であり、さらには侵害を抑止しにくいという、特殊性を有しています。それ故、「侵害したもの勝ち」にならないように、適切な法整備を行う等の配慮が必要となります。
 今般の特許法改正では、上記に鑑み、特許訴訟制度の充実を図るためのいくつかの改正が行われました。その中で、今回は、インカメラ手続等に関連する法改正(インカメラ手続の拡充)について、ご紹介いたします。
 また、弊所においては、権利取得後にインカメラ手続を有効に活用し得るようなクレームドラフトのご提案など、積極的に取り組んでおりますので、ご相談等がございましたら、お気軽にお声がけ下さい。

 裁判所は、特許権侵害訴訟において、特許権者の申立てにより、被疑侵害者に対して、侵害の立証等に必要な書類等の提出を命じることができます(特許法第105条)。

 ここで、上記書類提出命令を裁判所に発令させるためには、特許権者が提出を求める書類の必要性を立証する必要があります(必要性要件)。

 しかし、上記の必要性要件は、一般に立証のハードルが高く、それ故、書類提出命令の申立ては、これまで十分に活用されてきませんでした。

 このような状況を鑑み、裁判所が書類の必要性の有無自体を判断するために、被疑侵害者に書類を提示させて、インカメラ手続により実際の書類を見分してから必要性を判断できる制度が導入されることになりました。

特許庁 平成30年度特許法等改正説明会資料

(出典:特許庁 平成30年度特許法等改正説明会資料 抜粋)
※赤字箇所(数字)は挿入。

<現行法>
 特許権者による書類提出の申立てに対して、裁判所が必要性を満たすと判断した場合には、被疑侵害者は、原則として、当該書類提出命令の対象となった書類を提出しなくてはなりません。
 但し、被疑侵害者は、提出を拒むことについて「正当な理由」がある場合に限り、当該書類の提出を回避することができます。
 現行法では、この「正当な理由」の有無を裁判所が判断するに際してのみ、裁判所が書類等を見る手続(すなわち、インカメラ手続)を用いることができます(表中①)。

<改正後>

 今般の法改正により、上記①の段階でのインカメラ手続に加えて、特許権者により申立てされた書類等が侵害の立証に必要であるか否かを裁判所が判断するに際しても、インカメラ手続を用いることができるようになりました(表中②)。

 

インカメラ手続への技術専門家の関与

近年は、技術の高度化・専門化が進展していることから、裁判所のみで特許技術の内容を適切に判断することが困難になってきています。

このような状況を鑑み、裁判所の判断を助けることを目的として、秘密保持義務を有する中立的な第三者の技術専門家(専門委員)をインカメラ手続に関与させることができる制度が導入されました。

特許庁 平成30年度特許法等改正説明会資料

(出典:特許庁 平成30年度特許法等改正説明会資料 抜粋)

<現行法>
 現行法では、証拠提出の必要性を判断するために、裁判所が対象となる書類の内容を見ることができません(表左)。
 したがって、裁判所は、主として特許権者からの申立書の内容のみを判断材料として、証拠提出の必要性を判断する必要があります。

<改正後>
 今般の法改正により、書類提出の必要性の判断に際しても、裁判所が実際の書類・検証物を見て判断できるようになっています(上記の1.インカメラ手続の拡充をご参照ください。)。
 ここで、裁判所が書類・検証物を見て必要性を判断する際に、専門委員のサポートを受けることができるようになりました(表右)。また、特許権者による「正当な理由」の申立てを判断するに際しても、同様に、専門委員のサポートを受けることができるようになりました。

※上記書類等の必要性判断におけるインカメラ手続の導入およびインカメラ手続への技術専門委員の関与に関する改正特許法の施行期日は、令和1年7月1日となっています。

※上記書類等の必要性判断におけるインカメラ手続の導入およびインカメラ手続への技術専門委員の関与に関する特許法の改正条文は、実用新案法(第30条)、意匠法(第41条)、商標法(第39条)にも準用されています。また、不正競争防止法においても、同様の改正が行われています(同法第7条)。

 

その他

 2019年5月の国会で、特許権侵害訴訟の審理における、専門委員による現地調査(査証)に関する法案が通過しました(特許法第105条の2)。

 具体的には、裁判所は、一定の要件(必要性、蓋然性、補充性、相当性)を満たす場合に、専門委員による現地調査(査証)を行わせて、その結果を裁判所に報告させることができるようになります。また、現地調査(査証)の結果得られた書類等を裁判所が見分することができるようになります。

 これにより、特許権侵害訴訟における証拠収集がさらに容易に行えるようになることが期待されます。

※なお、専門委員による現地調査(査証)に関する法律の施行期日は、交付の日から起算して1年6月以内となります。上記インカメラ手続とは、施行期日が異なることにご留意ください。

 

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