これまで問題となっていた、欧州特許出願における優先権の移転に関する改訂についてご紹介します。
優先権の移転に関する実務の明確化
基礎出願の発明者の一部がPCT出願の出願人として記載されていないケースをどう取り扱うべきか。
特に、発明者が基礎出願の出願人として記載されており、PCT出願の出願人が企業である場合など、優先権が否定されることがあった。また、そもそもEPOが優先権の移転の有効性を判断すべきなのか、出願人国の国内法に委ねるべきなのか、問題となっていた。
今回の改訂により、拡大審判部の判決を受けて、出願人にとって有利な解釈が採用された。また、優先権を主張する権利を有するか否かについての判断がEPOの管轄であることが明確にされた。
改訂内容:拡大審判部の審決G 1/22、G 2/22を受けた改訂(A-III-6.1)
旧)優先権を含む出願(または優先権そのもの)の移転は、後の出願の前に、関係する国内法に照らして有効になされなければならない。
新)EPC88条(1)、規則52に従って優先権を主張する出願人は優先権主張の権利を有するという推論が適用される(ただし、実体的な証拠があれば反証可能)。
- EPOは、優先権を主張する権利について、いわゆるAll Applicants approachを採用しており、第1国出願が複数の出願人による共同出願である場合、後の出願も共同出願人が全員で出願する必要があり、もし、第1国出願の出願人の一部が後の出願の出願人として記載されていない場合、後の出願の前に、優先権を主張する権利が移転されていなければならないとしている。
- 例えば、国内出願がAとBによる共同出願であり、後のPCT出願の出願人としてAのみが記載されている場合、旧制度下では、異議申立において、PCT出願の出願前にAがBから優先権の譲渡を受けたことを証明する書面を提示できないとPCT出願の優先権が認められないことがあった。今回の改訂により、EP移行後の出願がEPC88条(1)、規則52の規定に適合していれば、Aが有効にBから優先権の譲渡を受けたと推定されることになる。
- 旧制度下では、当該出願について優先権を主張する権利を有することを出願人自身が証拠を提出して立証する必要があった。今回の改訂により、審査部、異議申立人、第三者などが、出願人が優先権を主張する権利を有していない証拠を提出するよう立証責任が転嫁された。