国内意匠制度

意匠の先使用権について

意匠の先使用権について

(1) 意匠の先使用権の概要

(1-1) 通常実施権

先使用による通常実施権(いわゆる先使用権)は通常実施権の一種ですが、通常実施権には、許諾による通常実施権、法定通常実施権、裁定による通常実施権の3つがあります。先使用権は、このうちの法定通常実施権の一種です。

法定通常実施権とは、意匠権者の許諾がなくても公益上の必要性や当事者間の衡平のために、法律の規定によって発生し、法律で定めた範囲内において、業としてその登録意匠を実施することができる権利です。

先使用権は、他人の登録意匠を他人の出願前から製造・販売等していた者は、所定の要件のもと、無償で製造・販売等を継続できる権利です。

(2) 先願主義と先使用権:先使用権制度の趣旨

(2-1) 先願主義

日本をはじめとする多くの国では、先願主義が採用されています。これは、先に意匠出願を行った者(先願者)だけが意匠権を取得できるという制度です。

先願者が意匠権を取得すれば、先願者よりも先にその意匠を実施していた者であっても、先願者(意匠権者)の許諾を得ないでその登録意匠を実施すれば、差止や損害賠償請求等の権利行使を受けます。

(2-2) 先使用権制度の趣旨

しかし、先願主義を徹底すると、先願者の意匠出願前から、先に製造・販売していた者であっても、事業を続けられなくなり、公平性に反します。先使用権制度は、意匠権者と先使用権者との間の公平を図るために、先願主義の例外規定として定められました。

また、製造・販売を続けられなくなくなると既存の設備が荒廃してしまうことになりますので、既存の設備を保護する観点からも有益な制度といえます。

(3) 先使用権の要件

先使用権の要件は、以下の通りです。

1) 意匠出願に係る意匠を知らないで自ら意匠を創作した、又は、知らないで意匠を創作したものから知得した
2) 意匠出願の際に日本国内で意匠の実施である事業をしている者、またはその事業の準備をしている者

字句の解釈を以下に説明します。

(3-1) 知らないで

1)意匠出願に係る意匠を知らないで、自らその意匠若しくはこれに類似する意匠を創作したこと
2)意匠出願に係る意匠を知らないで、その意匠若しくはこれに類似する意匠を創作した者から知得したこと

つまり、真似したわけではなく自ら創作した者、または自ら創作した者から教えてもらった者のことです。

これは、他人の出願時点で知っていたか否かという時期的なことは問題とせず、あくまでその意匠を知った経路が正当か否か(つまり登録意匠の模倣でないこと)が問題となります。

(3-2) 出願の際

厳密にいうと、出願日のうちの時刻も問題となりますが、実際には時刻が問題となることは、ごくまれだと思われます。

(3-3) 日本国内で

外国で使用していたとしても、先使用権は認められません。日本国内で使用していることが必要です。

(3-4) 意匠の実施である事業をしている者、またはその事業の準備をしている者

事業の準備とは、即時実施の意図があり、その意図が客観的に認識される程度、態様において表明されていることが必要です。

つまり、準備であることが客観的に認められることが必要であって、単に頭の中で計画していたにすぎない場合や、機械購入のために銀行に融資の申込をしたという程度では、事業の準備と認められません。

事業の準備と認められるためには、例えば、事業に必要な機械を発注して既に出来上がっている、雇用契約を結んで相当宣伝活動をしていること等が必要です。

(4) 先使用権の効果

実施または準備をしている意匠および事業の目的の範囲内において通常実施権を有します。
範囲外での実施は認められませんが、事業が同一であれば、事業の規模を拡大することは認められます。

(5) 先使用権の立証

このように有益な先使用権ですが、先使用権は立証できなければ認められず、その立証は簡単では有りません。

例えば、他人の意匠出願時に、事業として実施または準備をしていたことの客観的な資料、独自に創作したことが客観的に証明できる資料等が必要です。また、たとえ資料があったとしてもその資料に日付がない場合や、納品書があってもその意匠に係る製品の納品書であることが記載されていない場合等は、証拠として認められません。

先使用権を主張する可能性がある場合、このような資料は大事に保管しておくことが重要です。

おわりに

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