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意匠登録のメリットとは
意匠権にどのようなイメージをお持ちでしょうか。特許権や商標権、著作権と比べて馴染がないという方もいらっしゃるかもしれません。
しかし実は、意匠権取得には、特許・商標・著作権と比べても多くのメリットがあります。
ここでは、意匠登録のメリット・デメリットを説明いたします。
また、特許権、商標権、著作権との違いや、それらと比較した時のメリット・デメリットについても紹介いたします。
意匠登録のメリット・デメリット
メリット
1. 模倣品の抑制
他社が、登録意匠と同一・類似の意匠を業として実施した場合、意匠権侵害となります。
意匠権を侵害された時には、登録意匠を真似した商品の販売差止めや、損害賠償請求が可能です。
意匠は、物品の外観、つまり商品のデザインを保護するものです。商品のデザインは見た目で分かるので真似されやすく、良いデザインであればあるほど、直ぐに模倣品が製造されます。
そのような時、商品自体やホームページ等で「意匠登録第XXXXX号」と書かれていたり、意匠公報に掲載されていたりするだけで、模倣品には即座に権利行使を行える状態であることを示唆することができ、牽制効果を期待できます。
実際に模倣品が出回った場合、意匠権を取得していると、スムーズに訴訟を進行させることが可能です。
意匠権を取得していない場合には、不正競争防止法などの保護を求める必要がありますが、差止めや損害賠償を請求するための要件を立証することが困難なケースも多いです。そうしますと、模倣品を野放しにするしかなくなり、結果としてせっかく市場に投入した商品のデザイン変更を余儀なくされるといったトラブルに繋がります。
デザインを真似した模倣品への対策が重要となり、その際に意匠権の有無で対策の立て易さが変わるということが言えます。
さらに、外国から輸入される模倣品が問題となっている昨今、意匠権は税関での水際対策でも効果的です。
模倣品にマークが付いており、そのマークが登録商標である場合、商標権侵害品として輸入差止めが可能です。
しかし、マークを隠匿した巧妙な事例が増加傾向にあり、そのような場合は模倣品であっても商標権侵害品として取り締まることができません。意匠権を取得しておけば、商品の形態そのものを取り締まり対象にすることが可能になり、模倣品の輸入に対して実効的に対応することが可能です。
2. 市場競争力、信頼度・認知度の向上
他社は、登録意匠と同一・類似の意匠については権利取得ができなくなります。
意匠を早く出願することで他社による意匠の実施を阻むことができますので、その意匠が優れたものであればあるほど、他社と比べて市場競争力を向上させることが可能です。
また、意匠権を取得したということは、他にはない新規なデザインであるということであり、他社の意匠権を侵害している可能性が低いということでもあります。
優れたデザイン性を効果的に取引先等にアピールすることが可能です。
3. ライセンス収入
他社は、登録意匠と同一・類似の意匠を勝手に実施することはできません。
他社は、意匠権者に意匠実施の許諾を得ることで、その許諾の内容に応じた実施が可能になります。
これによって、意匠権者はライセンス料を得ることも可能です。
4. デザイン創作者の意欲向上
意匠法の目的の1つが、デザイン創作者の意欲を向上させ、より良いデザインを生み出すことです。
通常、商品のデザインは、多大な時間、コスト、労力を投じて創作されます。
意図しない拡散や模倣が許されるとすれば、デザインの創作者は開発費が回収できず、逆に開発費を投じていない模倣者等が効率的に多大な利益を得ることとなってしまいます。
意匠権を取得することで、模倣品を防ぎつつ、デザインを創作した人の権利を保護して創作意欲の減退を防ぐことも可能です。
デメリット
1.権利取得に費用がかかる
出願時の費用は、最低でも特許庁へ支払う出願料金の16,000円が掛かります。
代理人に依頼した場合、出願費用合計で100,000円程となることが多いでしょう。
登録時の費用は、最低でも特許庁へ支払う登録料金(1年分)の8,500円が掛かります。
代理人に依頼した場合、登録査定に伴い成功謝金を求める事務所もあります。
優先権主張を行ったり、早期審査制度や秘密意匠制度を活用したいとなると、さらに費用がかかります。
2.手続きが面倒
意匠出願は、出願書類の様式が独特であったり、図面が必要であったりと、全く意匠出願に関わったことがない方にとってはかなり難易度が高いものとなります。
スピーディーかつ簡単に出願するには、費用との兼ね合いですが代理人に依頼するのが良いでしょう。
3. 権利範囲の特定・侵害判断
特許権は権利範囲となる技術を文章で表します。そのため、特許製品とその模倣品との侵害判断においては、特許権の請求の範囲に、その模倣品が含まれるか否かの文言解釈が焦点となります。
それに比べ登録意匠とその模倣品との侵害判断は、外観の類否が焦点となるため、見た目同士を比べて相違点が顕著なものかどうかが問題となります。
意匠の物品の普及度や、相違点が需要者が注意を引く部分かどうか、その相違点が意匠全体に占める位置・大きさ・範囲等々で類否判断は左右されますので、権利範囲の特定や侵害に該当するか否かの判断が難しいことがあります。
特許権・商標権・著作権との比較
物品のデザインを保護しようと考えた時に、特許法、商標法、著作権法による保護も受けられる可能性があります。
下表で簡単に説明いたします。
意匠 | 特許 | 商標 | 著作 | |
---|---|---|---|---|
保護対象 | 物品の美的な外観 | 自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの | マークに化体した企業や商品の信用 | 文芸・学術・美術・音楽・建築などに関連して思想・感情を創作的に表現したもの |
物品のデザイン保護可能性 | そのデザインが新規かつ創作非容易なものである場合に可能 | そのデザインに新規かつ顕著な技術的効果がある場合に可能 | 著名(全国的に需要者・取引者に知られている)であれば可能 | 美術品・工芸品であれば可能。一品ものでないような大量生産される工業製品のデザインは保護不可 |
登録必要性 | 必要 | 必要 | 必要 | 不要(権利発生に登録手続き不要。権利者であること等を証明するために登録手続きを行うことは可能) |
登録までの期間 | 6~10か月程度 | 出願後3年以内に審査請求し、審査請求後1年程度で審査結果が通知される。そのため、早くて1年だが、2~5年かかることが多い | 8~12か月程度 | なし(著作物を創作すると同時に権利発生) |
存続期間 | 出願日から25年(維持のために各年分の年金を納付する必要有) | 出願日から20年(維持のために各年分の年金を納付する必要有) | 登録日から10年だが、更新費用を支払うことで半永久的に存続可能 | 原則、著作者の死後70年経過するまでの間。法人名義の著作物の場合、著作物の公表後70年 |
登録までの最低費用(自力の場合) | 出願時16,000円+登録時8,500円(1年分) | 出願時14,000円+審査請求時142,000円+登録時13,800円(1~3年分) | 出願時12,000円+17,200円(5年分) | なし |
登録率 | 比較的高め | 比較的低め | 比較的高め | なし |
権利範囲 | 図面で見たままが権利範囲となるので、狭く解釈されがちである。 | 文章で権利範囲を表現するため広く解釈されがちである。 | 基本的に商標が同一又は類似かつその指定商品・役務も同一又は類似の範囲に権利が及ぶ | その著作物を知って模倣している他者へ権利が及ぶ。著作権侵害における類似性判断は絶対的な基準というものは存在せず、権利範囲は意匠・特許・商標と比べ、不確かであると言える |
模倣品対策での効果 | 外観は一目瞭然であるため、税関水際対策を含めた模倣品対策に効果的 | 文章中心の技術的思想は読み解くのが難解な場合があり、税関水際対策では意匠商標に後れを取る | 模倣品に商標が付されている時や、模倣品のデザイン自体が商標と類似しているときに非常に効果的 | 上述の通り、権利範囲は意匠・特許・商標と比べて不確かであるため、意匠商標に後れを取る |
秘密運用可能性 | 登録後、3年間秘匿可能(秘密意匠制度) | 出願後1年6か月で公開される | 出願後公開される。商品やサービスに使うことで信用を蓄積していくものであるため、公開前提 | 公表しないことが可能 |
登録までの期間、登録率については、特許行政年次報告書2022年版を参考にしています。
特許権・商標権・著作権との比較まとめ
模倣品を放置しておくと、売上げの減少、粗悪品を購入した顧客からのクレーム、取引先とのトラブル、消費者側での事故、ブランドイメージの低下、折角創作したデザインの変更等々の不利益があります。
これらの損失を考慮すれば、製品の単価や流通量にもよりますが、意匠権取得のメリットは大きいことが分かります。
費用は特許に比べるとかなり安価であり、登録までもスピーディーであるため、侵害行為があった場合は速やかに権利行使できます。
物品のデザインを真似されたくない時には、まさにそのデザインを保護することを目的とした意匠法による保護が有用でしょう。
また、デザインに技術的効果がある時には特許権を取得することで、多角的に保護することも可能です。
その物品のデザインが、商品等表示として著名となっている場合には商標法による保護も考えられます。長期的に使用するデザインであれば、意匠権により独占的な実施を継続し、周知性を獲得した後に商標登録をするという手段も考えられます。
登録までの費用が問題となるのであれば、著作権法による保護も考えられます。但し、例えば、ペンや冷蔵庫、服、スマートフォンなどの市場に流通させる工業製品のデザインは、著作権法の保護対象外です。
また、不正競争防止法による保護という手もありますが、そのデザインを付した商品の販売から3年を経過していたら保護を受けられなかったり、デザインが商品等表示として周知・著名であることを立証する必要があったりと、差止めや損害賠償を請求するための要件を立証することが困難なケースが多いです。
意匠権、特許権、商標権、著作権といった権利を取得していない時の救済として考えた方がよいでしょう。
意匠出願をすべきか迷った時は
意匠権取得にメリットがあるのは分かるけれど、正直、費用対効果がとれるのかお悩みの方も多いかと存じます。
費用が安ければ出願するのに、という声も耳にすることがあります。
意匠調査や図面作成にはスキルが必要なので、弁理士事務所の中には、調査や図面作成はそれぞれ別の会社に委託している、というところも少なくありません。
これが事務所手数料の値上がりの一因になります。
当所には、意匠専門の弁理士やスタッフが在籍しており、意匠調査も自社内で行います。
また、図面作成のための部署を設けており、自社内で一から図面を作成しております。
意匠に従事するスタッフの人数も多いため、多くのご依頼・ご相談に早く対応することが可能です。
意匠出願を行うかどうかでお悩みのお客様、是非一度お見積りをお問い合わせください。