目次
意匠の早期審査とは
意匠の早期審査制度とは
早期審査請求は、出願から審査結果が通知されるまでの待ち時間を短縮させるための制度です。
意匠出願と同時又は出願後に早期審査を申請することで、3~5ヵ月程度、審査結果を早く知ることができます。
多くのメリットがある制度なのですが、早期審査を受けるためには一定の条件を満たす必要があります。以下で順に解説いたします。
早期審査のメリット
審査期間の短縮
通常、意匠出願後、審査結果(拒絶理由通知又は登録査定)が届くまでに、6~8ヵ月程度かかります。早期審査請求を行った場合は、早期審査の申し出から3ヵ月以内で審査結果が届くことが多いです。
令和2年に公開された特許庁の年度内達成目標でも、「早期審査の対象案件について、早期審査の申出がなされてから一次審査通知までの平均期間について、「3ヵ月以内」とする。」と記載されています。
ライフサイクルの短い商品の早期権利化
傘など、梅雨の時期に販売を開始したいような季節性の商品であったり、服など、デザインの移り変わりが激しい商品については、早期権利化が重要となります。そのデザインが廃れる前に意匠権を取得することで、流行時に独占してその意匠権に係る商品を販売することができるからです。
その時期を逸してしまえば意味がないような物品について、早期審査制度は非常に有用と言うことができます。
法的リスクの早期察知
新製品の製造や販売開始前に、法的リスクがあるのかどうかを知るために、早めに審査結果が欲しい時にも有用です。
仮に、先行意匠があるという理由で拒絶理由通知が届いたとしても、拒絶理由となる先行意匠が分かっているので、別出願や別デザインを検討し始めることが可能です。他者の権利侵害となる意匠を用いた製品を販売することがないよう、リスクヘッジにもなります。
早期権利行使
その意匠を無断で実施している人に対して、意匠登録前に権利行使をすることはできません。
特許や商標であれば、特許登録前・商標登録前であっても、出願公開や警告などの一定の条件が揃うと、無断での実施・使用者に対し、金銭の請求が可能な場合があります。
しかし、意匠はその制度上、意匠の内容が公表されるのが登録後となっています。無断実施者が、自身が実施している意匠が他人の意匠出願に係る意匠であると認識できるのは意匠登録後となることから、意匠登録前の金銭請求はすることができません。
従って、無断実施者の存在を認識した際には、特に意匠については早期権利化が重要となります。早期権利化によって、早期に権利行使が可能となり、その分損害も減るためです。
ライセンス契約の基礎
意匠法上、登録前の状態でも、ライセンスの予約のようなもの(仮通常実施権)を行うことが可能です。しかし、意匠が登録にならなかった場合にはこの仮通常実施権は消滅します。
ライセンスの対象が消滅してはライセンスの結び損となるため、権利が成立してからライセンス契約を行うことが一般的です。このため、ライセンス契約をお急ぎの場合も、早期審査が有用と言うことができます。
外国出願要否の判断
日本の意匠出願を基礎に、外国出願時に優先権主張を行う場合、優先期間は日本出願日から6ヵ月となります。早期審査制度を活用することで、優先権主張期限の6ヵ月より前に、審査結果を得ることができます。
つまり、日本の審査結果を知ってから、出願先国を選ぶことができます。日本意匠出願が拒絶されてしまった場合であっても、その審査結果・拒絶理由に応じて、外国出願の要否を考えることができるため、外国出願に掛かる費用の無駄を抑えることが可能です。
費用
特許庁への早期審査申請費用はかかりません。代理人に早期審査請求を依頼した場合には、代理人費用が掛かります。
早期審査のデメリット(注意点)
改良意匠の障害となる可能性
意匠は、登録後に意匠公報に掲載され、全世界に公開されます。早期審査により登録査定が早期に確定し、意匠が公開されると、その意匠はその後に出願する改良意匠に対する先行意匠の関係になります。
つまり、早期審査によって登録となった意匠を理由として、改良意匠の新規性・創作非容易性が否定され、拒絶理由通知を受領することになります。
これを避けるために、改良意匠を出願する際には、関連意匠制度を活用するかの検討が必要になります。
対象外の出願形式に注意
令和元年より可能になった、複数意匠一括出願制度を用いた意匠出願であって、意匠ごとに出願番号が付与されていないものの場合は、早期審査の対象外です。
意匠ごとに出願番号が付された出願番号通知を受け取った後に、意匠ごとに早期審査請求を提出できるようになります。
複数意匠一括出願とは、1つの願書に複数の意匠を記載した出願のことで、出願番号通知を受け取る前は、意願〇〇〇〇ー3〇〇〇〇〇の手続番号が付与されています。
また、同じく令和元年より保護対象となった建築物に係る意匠と画像の意匠、内装の意匠については、特許庁が審査する際に時間を掛けた慎重な判断が必要となりますので、これらも早期審査の対象外とされています。
早期審査の対象となる意匠出願
次に挙げている(1)または(2)に該当する意匠出願が、早期審査の対象となります。
(1) 権利化について緊急性を要する実施関連出願
- 出願人またはその実施権者(ライセンシー)が、
- 意匠を既に実施しているか、又は実施の準備を相当程度進めており、
- 以下の(ア)~(ウ)のいずれかに該当する、権利化について緊急性を有するものであること
(ア)第三者が許諾なく、その意匠もしくはその意匠に類似する意匠を実施しているか、又は実施の準備を相当程度進めていることが明らか
(イ)その意匠の実施行為又は実施準備行為について、第三者から警告を受けている場合
(ウ)その出願の意匠について、第三者から実施許諾を求められている場合
つまり、他者との関係で、急いで審査結果を知りたいという人が対象です。
ここでいう「意匠の実施」とは、日本国内で意匠に係る物品を製造し、使用し、譲渡し、貸渡し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をする行為のことです(意匠法第2条第3項)。
また、「実施の準備を相当程度進めている」とは、意匠に係る物品の製造等の準備作業が、具体的な計画に基づいて開始されていることを言います。
(2) 外国関連出願
- 出願人がその意匠を、日本以外の国・地域へ出願していること
ハーグ条約に基づく国際意匠登録出願であって、日本と日本以外の国を指定して出願したものも、この条件を満たします。
申請に必要な書面
早期審査に関する事情説明書
(1) 権利化について緊急性を要する実施関連出願であることを理由に、早期審査の適用を受けようとする場合
i) 実施状況説明
・実施行為(実施準備行為)の特定:出願人又はライセンシーの実施行為が、意匠に係る物品の製造、使用、譲渡、貸渡若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)のいずれに該当するかを記載。
・開始時期:実施行為(実施準備行為)がいつからなされているかを記載。
・その資料:例えば、意匠が掲載されているカタログなど。
ii) 緊急性を要する状況の説明
上で説明しました(ア)~(ウ)のいずれに該当するかの状況を詳細に説明します。
iii) 先行意匠調査
日本の登録意匠公報および公知意匠について、その出願の意匠に係る物品が属する意匠分類の範囲で、類似している意匠が無いか、先行意匠調査を行う。
調査で見付かった先行意匠の公報又は公知資料を証拠として提出する(公報はその登録番号を記載すれば、提出省略可)。
もし、調査で先行意匠が見付からなかった時は、その出願の意匠の背景となる一般的な意匠の水準を示す意匠資料を添付する。
(2) 外国関連出願であることを理由に、早期審査の適用を受けようとする場合
i) 日本以外の特許庁への出願の表示
・外国特許庁名:日本で出願した意匠と同一の意匠を出願した外国特許庁名を記載(例:米国特許庁)。
・出願日:外国特許庁への出願日を記載。
・出願番号:外国特許庁への意匠出願の出願番号を記載。早期審査請求時に正式な出願番号が分からない時は、省略することができるが、その後出願番号が分かり次第、「早期審査に関する事情説明書」を提出する。
・証拠の表示:外国特許庁が発行した公報や出願受領書などの書類名を記載し、証拠として提出。
ii) 先行意匠調査
上の(1) iii)と同じ。
その他、出願人名、代理人名、自己の意匠登録出願中の意匠の記載(その出願の出願日と同日に出願した自己の他の意匠登録出願であって、その出願の意匠に係る物品が属する意匠分類の範囲のもの)等を記載する必要があります。
早期審査に関する事情説明補充書
もし、提出した「早期審査に関する事情説明書」の補充を行いたい場合は、「早期審査に関する事情説明補充書」をもって行います。
委任状
代理人に依頼する場合であって、早期審査請求から代理人を利用する場合には、代理人への委任状が必要になります。
出願も代理人を通して行った場合で、その出願代理人が早期審査請求をするのであれば、委任状は不要です。
国際意匠登録出願の早期審査申請
日本国特許庁にされた意匠登録出願とみなされた国際出願(国際意匠登録出願)、つまり、日本を指定してハーグ条約に基づく国際意匠登録出願を行った時についても、国内出願の場合とほぼ同様の条件下で、早期審査の対象とすることができます。
主に気を付けるべき点としては、以下があります。
- 早期審査の申請は、国際公表以後でなければ行うことができない。
- 早期審査請求を代理人を通してしたい場合は、委任状が必要。
- 国際意匠登録出願の審査結果はWIPO国際事務局を通じて出願人等に通知されるため、通常の国内出願よりも審査結果の通知が遅くなる。
- 早期審査の申請手続きがオンラインですることができず、持参か郵送となる。その場合、特許庁側で対象案件の選定までに通常より時間がかかり、通常の国内出願であれば3ヵ月以内に審査結果が出るところが、3ヵ月以上掛かる場合がある。
- 即時公表を選択した時以外で早期審査申請する場合等には、タイミングに注意する必要がある。
詳細を知りたい時の参考サイト
特許庁ホームページに詳細情報が掲載されていますので、ご参照ください。
- 制度概要を知りたい方
意匠早期審査・早期審理制度の概要
国際意匠登録出願に対する早期審査の運用について
- 早期審査に関する事情説明補充書などの記載内容を詳しく知りたい方
なお、審査スケジュール表が特許庁ホームページで公開されています。
早期審査申請の際の参考として下さい。
お困りの方へ
早期審査制度を活用してみたいけれど、対象となるのか不安。
早期審査を受けたいが、その対象になるようにアドバイスが欲しい。
先行意匠調査まで手が回らない。
書面の記載事項が難しくてよく分からない。
等々の色々なご相談をいただきます。その際は、弊所にて適切なアドバイス、手続をさせていただいております。
ぜひ、早期審査請求でお困りの時は、お気軽に弊所へご相談ください。