目次
意匠の出願変更について
意匠登録出願への変更制度は、出願人が特許出願や実用新案登録出願を意匠登録出願に変更することができる制度です。この制度は意匠法第13条に規定されており、例えば以下の場合における出願人の救済を目的としています。
- 出願人が出願形式の選択を誤った場合
- 新しい形状の発明を特許出願しようとしたが拒絶された際、その美的な面について意匠登録を受けようとする場合
本記事では、意匠登録出願への変更制度の要件や効果について解説します。
出願変更の要件について
まず、意匠登録出願への変更が適法なものとみなされるためには、以下のすべての要件を満たさなければなりません。
① | 特許出願から意匠登録出願への変更の場合は、もとの特許出願が特許庁に係属していること(ただし、もとの特許出願について拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があった場合は、当該謄本の送達日から3ヶ月以内であること) |
② | 実用新案登録出願から意匠登録出願への変更の場合は、もとの実用新案登録出願が特許庁に係属していること |
③ | もとの特許出願について仮専用実施権を有する者がいる場合は、その者の承諾を得ていること |
④ | 変更による新たな意匠登録出願の出願人と、もとの特許出願人/実用新案登録出願人とが同一であること ※もとの特許出願人/実用新案登録出願人から新たな意匠登録出願人へ、意匠登録を受ける権利の承継が適法になされている場合は、出願人が同一であると判断される |
⑤ | もとの特許出願や実用新案登録出願の最初の明細書及び図面中に、変更による新たな意匠登録出願の意匠が明確に認識し得るように具体的に記載されていること |
⑥ | 変更による新たな意匠登録出願の意匠が、もとの特許出願や実用新案登録出願の最初の明細書及び図面に表された意匠と同一であること |
実用新案登録出願については、出願が特許庁に係属している限りは、特許出願のような制限(拒絶査定があった場合の例外)なく意匠登録出願への変更が可能です。
また、もとの特許出願について仮専用実施権者がいた場合は、その者の承諾を得る必要があります。
一方で仮通常実施権者については、特段の承諾は必要無く、当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内で、新たな意匠登録出願について仮通常実施権が設定されたものとみなされます(意匠法5条の2第3項において準用する特許法34条の3第9項)。
部分意匠への変更について
全体意匠だけではなく、部分意匠への出願変更も可能です。
部分意匠への出願変更の要件はほとんど同じで、①特許出願や実用新案登録出願の最初の明細書及び図面に、変更による新たな物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠が明確に認識し得るような具体的な記載があり、②出願の変更の前と後の内容が同一と認められ、③その他上記1~4の要件も満たしていれば、変更による新たな意匠登録出願が適法なものとみなされます。
適法な出願変更の効果について
変更による新たな意匠登録出願が上記の要件を満たす適法なものであった場合、その意匠登録出願には以下の効果が発生します。
- もとの特許/実用新案登録出願は取り下げられたものとみなされる
- 変更による新たな意匠登録出願は、もとの特許出願/実用新案登録出願のときにされたものとみなされる(出願日の遡及)
適法な出願変更と認められない場合について
逆に、意匠登録出願への変更が適法なものと認められない場合の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- もとの特許出願や実用新案登録出願の最初の明細書及び図面中に、変更による新たな意匠登録出願の意匠が明確に認識し得るような具体的な記載がない場合
- 変更による新たな意匠登録出願の意匠が、もとの特許出願や実用新案登録出願の最初の明細書及び図面に明確に認識し得るような具体的な記載により表された意匠と同一でないと認められる場合
- 変更による新たな意匠登録出願の意匠が、もとの特許出願や実用新案登録出願の最初の明細書及び図面の記載以外のものを付加した場合
1、2番目の例は出願変更の要件の鏡写しですが、3番目の例の通り、もとの特許出願/実用新案登録出願になかった要素を付加した場合も適法な出願変更とはみなされませんので、注意が必要です。
適法な出願変更と認められなかった場合について
上述の例に該当する等して、意匠登録出願への変更が適法なものと認められなかった場合、新たな意匠登録出願については、もとの特許出願/実用新案登録出願のときにしたものとはみなされず、出願変更手続のときにしたものとして取り扱われます。
つまり、適法でない出願変更については、出願日が遡及しないことを意味します。出願日の遡及の有無は非常に大きいため、出願変更の際には要件を満たしているか十分に注意するようにしましょう。
まとめ
以上、意匠登録出願への変更制度に関する要件や効果について解説しました。
出願形式を誤ってしまった場合や、特許出願が拒絶された場合でも、意匠登録を受けることが可能な場合があることを理解しておくことが大切です。
しかしながら、手続を行う上で適切な要件が満たされていなければ、新たな意匠登録出願の出願日は遡及せず、これにより新規性や先願等の面で不利益を被る恐れもあります。意匠登録出願への変更制度は、出願人にとって重要な救済手段ではありますが、手続の不備等によって利益を十分に享受できないといった事態を避けるためにも、手続の要件について適切に理解しておくことが重要です。
弊所では、意匠制度についての高度な知識や経験を備えた専門家が在籍しており、上記の出願変更のような案件にも対応可能です。費用のお見積りは無料です。「お問い合わせフォーム」などからお気軽にお問い合わせください。