目次
外国意匠出願の留意事項
1.意匠とは(保護対象)
日本で意匠権を取得すると、ほとんどの方は「素晴らしいデザインだと国からお墨付きを頂いた。」と思って、外国でも意匠権を取得できるだろうと考えると思います。
ところが、そのデザインがどんなに素晴らしく新規なものであっても、外国では意匠権を取得できない場合があります。なぜなら、意匠権の保護対象である「意匠」についての定義が、国によって違っているからです。例えば、日本で「意匠」として新たに認められた画像のみの意匠は、中国では認められていません。また反対に、日本では「意匠」として認められていない模様そのものや、キャラクター、ロゴなどを「意匠」として認めている国もあります。
外国に意匠出願しようとする場合、その意匠が、その国で「意匠」として認められているかについて出願前に十分確認する必要があります。
2.出願時期
日本で出願/登録した意匠を外国に出願する際には、日本での出願/登録意匠を基礎としてパリ条約上の優先権を主張して出願するのが通常です。優先権が認められると、日本での出願日を基準として新規性、創作非容易性などの登録要件が判断されるので、審査上有利になるからです。
しかしながら、出願国において優先権を主張できる時期は基礎出願日から6ヶ月とパリ条約により定められています。外国出願する際には、この時期的要件を満たしているか確認する必要があります。※特許では優先権を主張できる期間が最初の出願から1年となっています。意匠は特許より期間が短いので注意が必要です。
3.審査の有無
日本では意匠出願されると、意匠登録される前に、審査官によってその意匠が登録要件を満たしているか否か審査されます。つまり、出願された意匠が新規なもの(新しいもの)か、容易に創作できたものでないか、など検討されるわけです。例えば、出願された意匠が出願前からあった意匠と類似していると判断されると、その意匠は意匠権を取得できません。
ところが、国によってはこの実体審査がほとんどない国、または登録要件の一部についてのみを審査する国、あるいは物品の種類によって審査したり、審査しなかったりする国もあるのです。実体審査が無いと方式要件を満たしていれば登録されますが、登録後に登録要件を満たしていないことがわかると、無効審判で意匠権を取り消される場合もあるので権利的には不安定になります。
また、審査の有無によって、登録されるまでの期間が変わってきますし、意匠の登録可能性も変わってきますので、出願しようとする国の審査制度について確認する必要があります。
4.新規性について
意匠は物品等の外観ですので、人目にふれるとすぐに新規性を失ってしまいます。また、デザインは流行性があるので売れ行きを打診するために展示会を開く場合も多く、展示会等でデザインを公開すると新規性を失って意匠権を取得できなくなってしまいます。こうした場合の救済措置として、日本では新規性喪失例外という規定があるのですが、一定の要件を満たせば新規性を喪失しても新規性を喪失しなかったものとして、審査されます。
ところが、日本で新規性喪失の例外規定の適用を受けて登録された意匠を、外国に出願する場合はどうなるのでしょうか。米国や欧州のように新規性を喪失してから一定期間内であれば、出願時に新規性喪失の例外の適用を受けるための特別な手続きを必要としない国もありますし、中国のように非常に厳格に新規性喪失の例外の適用について判断される国もあります。
そこで、日本で新規性喪失の例外規定の適用を受けて出願/登録された意匠であっても、外国に出願する場合には、出願予定の国の新規性喪失の例外規定の適用を受けることができるか確認する必要があります。
また、外国において新規性喪失の例外規定の適用を受ける場合、優先権の主張とは別の規定になりますので注意が必要です。
5.関連意匠について
日本で関連意匠として出願した意匠を外国出願するときに、その国に関連意匠制度があるか否かについて確認する必要があります。台湾や韓国では関連意匠制度がありますが、欧州では関連意匠制度がありません。中国では関連意匠制度はありませんが類似意匠制度があります。米国では意匠は意匠特許として特許法で保護されており、1つの発明概念に含まれるものであれば実施例として一出願に含めることができます。私たち日本人にしたら少し不思議な感覚ですね。
6.複数意匠一括出願について
日本においても、令和元年の改正意匠法により、令和3年4月1日から複数意匠一括出願が可能となりました。1つの出願に2以上の意匠を含めることができる制度を複数意匠一括出願といいます。欧州ではロカルノ分類が同一であれば、電子出願の場合99意匠まで一出願に含めることができます。また韓国にも複数意匠登録出願制度があり、同じ類に属する物品であれば100意匠まで1つの出願に含めることができます。(日本の場合は、上限100意匠までであれば、ロカルノ分類の同一性や、意匠の類似性などの意匠の範囲は無制限です)
複数意匠一括出願の要件を充足して一意匠一出願と比較してデメリットがない場合、出願費用が節約できる等のメリットがあれば、検討してみてもよいでしょう。
7.部分意匠について
米国や欧州には部分意匠制度がありますが、中国には部分意匠制度がありません。また、インドのように部分意匠の登録は実務的に認められているが、独立して製造・販売される部分に限られるなど、日本と異なる要件を要求する国も存在します。日本で部分意匠として出願した意匠を、部分意匠制度の無い国に出願する場合に、特徴ある部分を保護するためにどのような出願にするべきか検討しなくてはなりません。
また、部分意匠制度がない国に出願する場合、図面の破線部分で表した「その他の部分」を実線に修正する等して全体意匠として出願する方法があります。この場合でも、部分意匠制度がない大部分の国においては、優先権主張が認められるようですが、念のため、事前に優先権主張が認められるか確認した方が望ましいでしょう。
8.願書の記載について
日本出願時に願書に記載した【意匠に係る物品の説明】等を、そのまま外国出願の願書に記載するべきか、あるいは修正するべきか、または何も書かない方が良いのかについても、出願国の制度を確認して考えなければなりません。どのような記載にすれば十分な保護を受けられるか、あるいは権利範囲をなるべく広くできるか、検討する必要があるからです。
また、中国のように「創作の要点」を記載しなければならない国もありますし、欧州のように【意匠に係る物品】の名称が、意匠の権利範囲の判断に考慮されない国もあります。
9.提出図面について
提出する図面についても、国によって様々な決まりがあります。欧州は提出する図面の枚数に制限がありますが、比較的図面の表現は自由で、例えば店舗の特徴部分の写真等を提出することができます。また、台湾は意匠が立体の場合、斜視図の提出が必須となっています。米国は、透明部分をハッチングや薄墨等で示すことは認められませんし、断面図を提出すると権利範囲が狭くなってしまう場合があります。またインドでは、使用状態を示す参考図は認められません。
このように国によってかなりの相違がありますので、初めから外国出願が予定されている出願については、日本出願時からその国の規定に合わせて図面を作成しておくことが望ましいですが、そうでない場合は、外国出願前に検討が必要です。図面を修正すると意匠の同一性が認められなくなって優先権主張ができなくなるおそれがあるからです。その国の規定に合わせて修正した図面を提出して外国出願するべきか、あるいは日本出願時の図面のままで外国出願して、拒絶理由を受けた場合に図面を修正するべきなのかを考えなくてはいけません。米国では、意匠の同一性の判断は、優先権主張の判断時には比較的緩いと思われますが、補正時には厳しいと思われますので、米国出願時に図面を修正しておいた方が良いと考えられます。
10.写真やCGについて
日本で写真やCGで意匠出願した場合、外国出願する国が写真やCGの提出を認めているのかについても確認する必要があります。また、日本で写真やCGで意匠出願して、外国出願用に図面を作成して提出した場合に、優先権主張が認められるのかについても検討する必要があります。
以上のように、「意匠」と一口で言っても、国によって意匠の定義、保護対象が違いますし、保護される法律も、意匠法のほか米国のように特許法で保護されるなど様々です。部分意匠制度や、関連意匠制度など意匠制度も国によって異なります。このように国によって異なる保護制度の中で外国出願するときに、その国の意匠の登録要件を満たし、意匠の同一性を保ち、優先権主張の有効性を維持しなくてはいけません。そのために各国の法制度を十分確認して、どのような外国意匠出願とするか慎重に検討していく必要があります。
当所では、経験豊富な弁理士と様々な国の現地代理人との連携により、お客様の意匠を保護するのに最適な方法で、外国出願をサポートします。外国出願でお困りの際は、ぜひ当所へお問い合わせください。
外国意匠出願の必要性
1.製品の輸出・販売先の各国での実施を確保する
属地主義(各国の法律適用範囲はその国の領域に限定されるという主義)
意匠権は国ごとに成立し、原則として登録を受けた国に限り効力が及びます。日本で意匠権を取得した場合、効力が及ぶのは日本国内に限られます。したがって、中国やアメリカなどの外国で意匠の実施を確保するためには、それぞれの国において意匠権を取得していなければなりません。
意匠権が国ごとに独立して成立することから、日本で意匠権を取得している意匠であっても、外国で他人に自己の意匠と同一類似の意匠について意匠権を取得されてしまうと、当該意匠権を有する自己の製品を日本から外国へ輸出した場合、その国の他人の意匠権の侵害となってしまい、差止・損害賠償を請求される危険性があります。
各国意匠の独立
意匠権は各国の国内法令に基づいて審査*、登録されるため、日本で出願した意匠が拒絶・消滅したからといって、外国で出願・登録された意匠が無効・消滅することはありません。反対に、ある意匠について日本で意匠権が登録されたからといって、必ず外国でも登録されるとは限りません。
*欧州等無審査の国もあります
2.製品の輸出・販売先の各国で模倣品を排除する
外国で模倣品が製造販売されていることを発見しても、当該国における意匠権を取得していない場合、意匠権に基づく差止等を行うことができません。このような問題を防止するためには、製品を輸出する予定の国や模倣品が出回っている国において、意匠権を取得しておくことが必要となります。
主なルート
1.直接出願
意匠権を取得したい国ごとに直接出願することができます。
直接出願の場合、出願する国ごとに、その国の言語、出願様式で出願書類を作成しなくてはならないこと、出願後の管理(住所変更等の手続き、更新手続き等)も各国ごとにする必要がありますので、手間がかかるというデメリットがあります。
また、複数の国に意匠出願をする場合、出願後すぐに公開される国や地域(EU)に出願する場合はそこで新規性を喪失してしまうため、優先権の主張を前提に出願の計画を立てることが必要です。
2.ハーグ協定による国際意匠出願
ハーグ(ヘーグ)協定とは、各国別に発生する出願手続きを一元化し、国際事務局への一つの出願手続で、指定した国それぞれに出願した場合と同等の効果を得ることができる意匠の国際出願・登録システムです。
≪ メリット ≫
英語、フランス語、スペイン語から出願人が選択した単一の言語で出願できるため翻訳の負担を軽減できます。マドリッド協定の議定書による国際商標出願(以下、「マドプロ出願」という。)と同様、現地代理人を介して出願する必要がないため、コストを抑えることができます*1。無審査国であれば国際公表から6ヶ月又は12ヶ月までに登録、実体審査国であれば遅くとも12ヶ月で審査結果(登録又は拒絶)が出ます。また一括して登録の更新が可能であるため、更新管理が行いやすくなります。
*1 ただし、拒絶通報に応答する場合は現地代理人を指定する必要があります。
特許の国際出願(PCT)のように、国内移行手続きをする必要がなく、商標のマドプロ出願の様に、日本の出願を基礎とする必要がない点でも、手続きの簡略化が図られています。
≪ デメリット ≫
日本語で出願することができません。原則、国際登録の日から6ヶ月後(国により延長可、日本は最長30ヶ月*2)に国際公報で公表されるため、登録の可否にかかわらず、意匠が公表されてしまいます。この際、拒絶された願書の内容のみならず拒絶理由や引例となった類似先行意匠の内容も公表されるため、意匠出願の戦略上、大きなデメリットとなります(他方、日本出願では原則として登録になった意匠しか公開されません)。日本出願と異なり、秘密意匠制度(登録から最長3年間意匠を非公開)もありません。
*2 指定国の中に公表の延長を認めない国が含まれている場合は、当該国の指定を取下げない限り公表の延長は認められません。
ハーグ意匠出願について詳しくはこちらをご覧ください。
3.欧州共同体意匠制度による意匠出願
欧州共同体意匠制度に基づく出願を行うことで、1つの出願で欧州共同体全加盟国における権利を取得することができます。
権利が一元化されるため、登録が取り消された場合には欧州共同体全体について効力が失われる、一元化された権利を国別に譲渡することはできないというデメリットも存在しますが、国ごとに直接出願するよりも費用面で大幅に有利であり、更新管理等も行いやすくなるというメリットがあります。
欧州共同体意匠制度について詳しくはこちらをご覧ください。