意匠の業種別ヒント

【意匠】自動車業界の皆様へ

自動車業界の皆様へ

(1)はじめに

改めて申し上げるまでもなく、自動車産業は裾野が広く、日本の国力を支えているという自負は、各種の統計数値を待たずに、十分ご認識のことと思います。

意匠の世界においても自動車のデザインは、プロダクトデザインとしての花形であることは間違いありません。

一方、100年に一度といわれる業界のパラダイムシフトに突入しており、当然今後のデザイン動向にも大きな影響を及ぼすこととなります。

これからの自動車関連製造業における苛烈な競争と急速な変化に対応していくためには、求められる機能に資する意匠の創作や、他者との差別化を明確にアピールできる外観コンセプトの展開など、デザイン力を一層高め、活用することが更に必要となることでしょう。

本項では、我が国の意匠分類におけるGグループ(運輸又は運搬機械)に含まれる車両(G2)の中から、特にG2-2に属する「自動車」を取り扱います。

「自動車」に関する意匠としては、例えば、以下の物品を登録することが可能です。

G2-2100 乗用自動車等
G2-29000 自動車部品及び付属品
G2-29100 自動車車体構成大型部品
G2-292 自動車駆動部品又は自動車用走行関係部品
G2-29300 自動車用運転操作関係部品及び付属品
G2-2940 自動車用保安部品及び付属品
G2-29500 自動車用外装部品及び付属品
G2-29600 自動車用内装部品及び付属品
G2-2970 自動車用照明器具

”HARAKENZO more では、我が国の基盤を支える自動車関連製造業の皆様の知財活動を応援したいと考え、このようなページを設けました。

(2)「自動車」の全体意匠

自動車のデザインと言って、まず真っ先に思い浮かぶのは、車両全体の意匠でしょう。完成車メーカーそれぞれに特徴があり、そのデザイン性に対して愛着を感じている消費者も数多く存在しています。一方、自動車デザインは規格や法規制によるデザイン制限の影響が大きい分野でもあります。また、近年では、部材のリサイクル対策や燃費対策など機能性の面からのデザイン開発要求が高まっています。

以下に挙げたのは、特に規格制約の厳しい軽自動車の登録意匠の例です。第三のエコカーとして、女性ユーザーが多いことも特徴で、限られた寸法の中で室内空間を確保しつつ、外観にもニーズを意識したデザインになっていることが窺えます。

【登録番号】意匠登録第1550817号
【意匠権者】スズキ株式会社
【登録番号】意匠登録第1549297号
【意匠権者】ダイハツ工業株式会社

(3)自動車の「部分意匠」と「部品」の意匠

自動車メーカー各社はブランディングの観点から、例えば、フロントフェイスを統一感のあるデザインにする、という戦略をとる傾向が見受けられます。フロント部分は車全体の正面視にあたることから、上記(2)で述べた全体意匠で登録すれば、当然に登録意匠の権利範囲として含まれることになります。しかし、仮に似たようなフロントデザインを有していても、自動車全体としては似ていないと感じさせるデザインを他者に実施されてしまうと、全体意匠のみでは十分な保護ができない場合があります。そのため、自動車全体の中で特徴的な部分の形状のみを、併せて「部分意匠」として意匠登録し、より強力なデザイン保護、ひいてはブランド保全を図る手法が用いられます。

【登録番号】意匠登録第1568234号
【登録番号】意匠登録第1568235号

いずれも【意匠に係る物品】乗用自動車 【意匠権者】マツダ株式会社
右図の意匠登録第1568235号が【部分意匠】であり、【意匠の説明】図面中ピンク色で示された部分以外の部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。

尚、上記の自動車の意匠に関しては、同様にフロントデザインに大きな影響を与えるフロントグリルについて、「部品」の意匠として別途、意匠登録されており、権利保護の意識の高さが感じられます。

また、このような意匠戦略は何も完成車に限ったことではなく、パーツ(部品)であっても検討する意義があると考えます。

【登録番号】意匠登録第1361771号
【登録番号】意匠登録第1361772号

いずれも【意匠に係る物品】内燃機関の排気管 【意匠権者】三菱自動車工業株式会社ほか
【意匠に係る物品の説明】本物品は、内燃機関と触媒コンバータやマフラーなどの排気系部品とを接続する排気通路に添加剤を供給する供給通路を備えた排気管である。    ※上記同様に右図が【部分意匠】

上記の例が示す通り、部品の意匠登録の重要性は、いわゆる外装品ばかりではありません。意匠は視認されることが保護対象となる条件の一つであるため、完成車にあっては外観に表れない部品については保護の対象外となります。しかし、このような車の構造・機能を支える「裏方」であっても、完成車に組み込まれる前は「物品(部品)」として市場を流通するわけですし、修理交換部品としてのニーズもあったりします。特に近年は、中国や東南アジア等において部品の模倣品が製造され、日本に流入する機会が増加していることから、今後新たな形状の部品を開発上市する際には、費用対効果などを総合的に勘案しつつ、意匠権による保護を検討する余地は大きいと考えます。また、パラダイムシフトの影響として、益々部品の共通化やモジュール化が進んでいく中で、「部品」の意匠を重層的に保護する価値は高まってくるものと思います。

(4)自動車の「画像意匠」

カーナビは標準装備としてすっかり定着した感があり、車載用液晶ディスプレイも、その機能的デザイン的存在感を増しています。更には、車がIoTの情報端末であるコネクテッドカ―となることで、カー・テレマティクスという統合通信情報システムを有するようになり、GUI(グラフィカルインターフェイス)は内装の美観や操作性を決定する重要な領域となっています。平成28年4月1日に改訂された意匠審査基準により、いわゆるバージョンアップやインストールされた画像についても、その他の条件を満たすことにより保護が受けられるようになりました。そして、令和元年の意匠法大改正を受けて、令和2年4月1日より、更に画像意匠の保護範囲が拡大し、物品と離れた画像そのものが保護されるようになりました。これにより、フロントガラスに投影される表示画像等(HUD)などについても意匠登録が可能になります。自動車産業分野においても、画像意匠の重要性は間違いなく高まっていくものと考えられます。

【登録番号】意匠登録第1576603号
【意匠に係る物品】車載用情報表示機
【登録番号】意匠登録第1516341号
【意匠に係る物品】車載用ディスプレイ付き車載機器用操作器

【意匠権者】パナソニックIPマネジメント株式会社ほか【意匠権者】株式会社デンソー
いずれも【部分意匠】
※意匠登録第1576603号については、電子情報入出力機器(H7)に属する小型データ表示機H7-6243に分類されている。

(5)特許や商標との知財ミックス

知財戦略を重視する企業では、技術的優位性を「特許」と「意匠」、ブランディングを「商標」と「意匠」等の異なる保護法域をクロスオーバーさせて検討することが、定常化しています。本項での詳しい説明は控えますが、例えば上記(3)の内燃機関の排気管に関する意匠出願について、同社では同時期に多数の排気浄化装置に関する特許出願も行っており、其々の法域における保護対象を理解した上で、相互補完するようなベストミックスを実施していることが窺えます。

個々の具体的ケースにおけるベストミックスを、知財の専門家と共に検討することで、企業の成長の根幹となり得る知財の効果的な保護活用を、是非とも実践して頂きたいと思います。

(6)グローバル展開時代における出願の判断と時期

我が国輸出額の2割を超える基幹産業であり、世界各拠点でも開発・製造・販売を行う自動車関連製造業においては、完成車・部品に拘わらず、グローバルな展開がごく一般的になっています。このことは、どの国にどのような意匠をどのタイミングで出願するか(否か)を慎重に検討する必要性があることを意味します。各国の意匠制度は、特許や商標と比べると国際ハーモナイゼーションが進んでいないため、先進国・途上国とを問わず、日本国内の意匠制度とはかなり異なった制度や運用がされていることに留意すべきです。展開先が多岐にわたることにより、デザイン発表のタイミングや、出願順序の決定、各国における各種制度の活用の可否について、しっかりとした検討をする必要があります。例えば、日本では認められている「秘密意匠」制度が存在しない国や、そもそも実体的審査が行われずに、出願後まもなく意匠が公開されるような国も存在します。また、上記(3)のような、内燃機関の排気管については、欧州においては、通常使用時に使用者が目視し得ないものであるため、保護が認められません。場当たり的な対応では必要な権利化が適わなかったり、十分でない結果を惹起する可能性があることから、外国の意匠制度に精通した専門家の意見も交えて、十分に検討することが必要と考えます。

(7)その他(組物意匠・関連意匠・秘密意匠)

組物意匠

日本の意匠法では、「一物品一意匠」出願による保護が原則となります。一方、例外として同時に使用されるセットの物品群を、「組物の意匠」として一出願で保護可能と規定しております。例えば、自動車用シートカバーセットや、自動車用ペダルセット等、組物全体として統一があるときは、一意匠として出願が可能です。

関連意匠

【登録番号】意匠登録第1324978号【本意匠】
【登録番号】意匠登録第1325367号【関連意匠】

いずれも【意匠に係る物品】一組の自動車用シートカバーセット 【意匠権者】株式会社ホンダアクセス

上記の二つの登録意匠は、同一権利者による「本意匠」と「関連意匠」の関係にあります。登録意匠の権利は、同一のみならず類似する範囲にまで及びますが、関連意匠制度を有効活用することにより、更に広い権利範囲網を構築することが可能となります。

令和元年意匠法の改正により、基礎意匠の出願日から10年以内であれば、関連意匠の出願が認められることになりました。また、関連意匠にのみ類似する意匠についても連鎖的に関連意匠出願が可能となりました。これにより、基本モデルや改良モデルの公開後も継続して関連意匠出願が可能となりました。※但し、海外ではこのような関連意匠制度がありませんので、関連意匠とするかどうかの選択は慎重に行う必要があります。

秘密意匠

以下の一覧は、平成29年12月1日付意匠公報を最新とする、トヨタ自動車株式会社(共願を含む)の直近登録意匠10件を挙げています。

ご覧いただいた通り、10件中4件は、意匠図面も物品名も公表されておりません。

これは上記(6)でも言及した「秘密意匠」制度を活用していることを表しています。

秘密意匠制度は、設定登録日から3年以内を限度として意匠の公開時期を調整することが可能で、知財戦略と市場戦略の融和を図ることができます。

(8)”HARAKENZO more は、自動車関連製造業の皆様を応援します

自動車関連製造業は、これから「100年に一度」といわれる変革期を迎える中で、新たな発想や取組を取り入れることによって、更なる可能性を秘めた基幹産業に生まれ変わるものと確信しております。また、今まで培った技術を昇華し、水平展開することにより、新たな領域での事業展開も考えられます。”HARAKENZO more では、大規模・国際・総合・知的財産事務所として世界各国での知財業務の経験を蓄積しているだけでなく、広範な産業分野における知見や視点を有しております。それらを活かして、自動車関連製造業の皆様の新たなる躍進を、知財分野のビジネス戦略参謀として、全力で応援したいと考えます。どうぞお気軽にご相談頂ければ幸いです。

関連記事

TOP