商標の業種別ヒント

【商標】アパレル業界の皆様へ

はじめに

アパレル業界の皆様は商標というものを身近に感じやすいものと存じます。特許庁が発表している商標出願件数の統計によれば、2003年から2012年までの10年間で、実に約98,000件もの商標が被服の区分(第25類)で出願されております。

これは、商品分野では第1位の第9類(各種機械器具・ソフトウェア関連)、第2位の第30類(菓子・食料品関連)に次いで第3位の出願件数であり。いかにアパレル業界の皆様が積極的に商標出願を行っているかを示す数字となっております。

さて、出願件数が多いということは、それだけ数多くのブランドが生まれているということですから、自らが商標権侵害を犯してしまうリスクや、他人に似たような商標を使用されたり、粗悪な模倣品が出てきたりする可能性が高い業界と言えます。

”HARAKENZO more ではアパレル業界の皆様を応援し、業界固有の商標登録の「ノウハウ」について知って頂きたく、このようなページを設けた次第です。

区分の選定はしっかりできていますか?

さて、アパレル業界の商品と言えば「被服」が一般的です。体の上から順に「帽子」、「洋服」、「ベルト」、「ズボン」、「靴」、インナーには「下着」、「靴下」と我々が身に着ける商品は多岐に渡ります。

これらの商品はすべて第25類という区分に属します。それでは、同じく身に着けたり、持ち歩いたりする以下の商品はどうでしょうか?

  • 「サングラス」
  • 「かばん」
  • 「財布」
  • 「身に着ける各種アクセサリー」
  • 「時計」
  • 「名刺入れ」
  • 「傘」

これらはいずれも第25類ではなく、異なる区分に属しています。すなわち、洋服を主に取り扱うお店であっても、取り扱う商品の種類によっては、第25類の商品以外も登録しなければならないことになります。そのため、実際に販売している商品や、これから販売が見込まれる商品の内容を慎重に検討し、必要な区分の選定をしっかりと行うことが重要となります。

例えば、商品「被服」と商品「かばん」は非類似の商品と推定されており、別々の権利者において、同一・類似の商標が登録されることがあります。

そのため、例えば貴社がある商標を「被服」についてのみ商標登録を行った場合、同じ商標を付して販売している貴社の商品「かばん」が、同じ商標を偶然に採択し、商標登録を得た他人の商標権(指定商品:かばん)を侵害している可能性があるという事です。

① ファストトラック審査および早期審査の観点から

2018年10月1日より、商標審査においてファストトラック審査が導入されました。

これは、「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」に掲載の商品・役務(以下、「基準等表示」)のみを指定している商標登録出願であって、補正をしていないものであれば、全ての出願について、通常審査より2ヶ月程度早く、最初の審査結果通知を行う審査運用のことを言います。

また、上記基準等表示のみを指定している商標登録出願であって、商標の使用または商標の使用の準備を証明した出願にあっては、審査期間が約1.8ヶ月と大幅に短縮される早期審査制度を利用することできます。

アパレル業界関連の商品・役務については、類似商品・役務審査基準に記載の商品で十分カバーできると考えられ、ファストトラック審査および早期審査との親和性が非常に高いと考えられます。

以下の指定商品・役務は、類似商品・役務審査基準にすべてそのまま記載されています。

類似商品・役務審査基準

  • 第9類
    「サングラス」「スマートフォン用のケース」
  • 第14類
    「腕時計」「キーホルダー」「見飾品」
  • 第18類
    「かばん類」「財布」「名刺入れ」「傘」
  • 第25類
    「帽子」「洋服」「ベルト」「ズボン」「下着」「靴下」「靴類」
  • 第35類
    「履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」
    「かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」
    「身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」

また、アパレル業界の皆様は、年間を通じてシーズンごとに数多くの展示会等を開くことと思いますが、その展示会で新しいネーミングの新商品を発表することとなり、その展示会までの期間が短い場合には、出願から約1.8ヶ月で最初の審査結果のでる早期審査制度を利用することにより、同業他社の商標権侵害リスクを減らすことが可能となります。

② 商品・役務の積極表示

上述したファストトラック審査および早期審査の適用は受けることができなくなりますが、例えば素材に着目した商品や用途に特化した商品については、積極表示する必要が生ずることもあるでしょう。

あくまで一例ですが、以下に記載した商品・役務については、数多く審査採用されていることから、商品・役務が不明確であるとする拒絶理由が通知されることはありません(2019年4月24日現在)。

審査において採用された商品・役務名

  • 第9類
    「サングラス用容器」「眼鏡・サングラス用ケース」「スマートフォン用ストラップ」
    「子牛革製のスマートフォン用ケース又はカバー」
  • 第18類
    「抱っこ紐」「エコバッグ」「環境に配慮した買い物バッグ」
  • 第25類
    「ジーンズ製被服」「デニム製被服・ジーンズ地の被服」「レインジャケット」
    「撥水加工を施した衣服」「ダウンを材料としてなる被服」
  • 第35類
    「キャラクター商品の製造事業の企画」
    「サングラスの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」
    「シール及びステッカーの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」
    「消費者に対して行うバーゲン情報の提供」
    「フランチャイズ店に関する経営的助言」

そのため、多岐に渡る商品を取り扱う皆様においては、区分の選定と商品の選定を慎重に行う必要があります。”HARAKENZO more ではお客様の御相談に随時お答えしておりますので、お気軽にご相談頂ければ幸いです。

小売等役務について商標登録はお済ですか?

御存知の方もいるとは思いますが、2007年4月より日本でも小売等役務に関する商標登録が可能になりました。

これは、小売業者と卸売業者が使用する商標を保護するもので、具体的な業種としては、アパレル業界の皆様をはじめ、コンビニ、スーパーマーケット、本屋といった小売業を営む皆様が、商標出願を多く行っております。

小売等役務は広告業等の役務と同じ第35類の区分に属しますが、第35類は2003年から2012年までの10年間で、役務の区分としては最も出願されている区分となります(何と商品の区分を含めても第3位となります)。

このように出願件数が多い第35類ですが、小売等役務を出願するに際し、あまりに多様な商品を取り扱う小売等役務を指定して出願を行うと、特許庁から「本当に使用しているか、若しくは使用予定があるのか疑義がある」といった拒絶理由が通知されることになります。

これに対しては、以下のような方法で拒絶理由を回避できます。

(A)実際に使用している:商標が確認できる商品の写真やカタログを提出。

(B)これから使用する:使用予定の商品について(i)「事業計画書」と(ii)「商標の使用を開始する意思」を提出。

(C)まったく使用しない:使用しない商品を小売等役務の対象から削除。

上記(A)から(C)は一見すると難しい対応のような印象をうけるかもしれませんが、いずれもきちんと対応すれば問題なく解消するものですので、拒絶理由が通知されても安易に諦めないことが重要です。

尚、上記(A)と(B)の対応において、虚偽の申請を行うことは出来ません。すなわち、実際に販売をしていない商品の写真を偽造して提出することや、使用予定の無い商品と知りながら、事業計画書等を捏造して商標登録を得る行為は、詐欺の行為に該当し刑罰の対象となる可能性がありますので、そのような行為は絶対に行わないで下さい。

注目判決

・審決取消請求事件H29(行ケ)10207(2019-3-26)ピューマパロディ事件

パロディ商標事件として有名なシーサ事件(シーサVSピューマ)の関連判決が5件ありました。無効審判請求に対し特許庁はすべて棄却審決でしたが、裁判所では2件審決を取り消しています。

海外で商品を製造している皆様へ

製造コストを下げるために、海外で衣料品を製造し、日本へ販売のため輸入している企業様も多いものと存じます。海外で衣料品を製造して商標を付す場合、日本への輸入に際して日本で商標登録が必要なのは当然ですが、原則として、衣料品に商標を付したその国でも商標登録が必要になる点に注意が必要です。

仮に、その国で他人が似たような商標について商標権を持っている場合、商標を付す行為がその国の他人の商標権侵害を構成すると、商品を日本へ輸入する前に差押えられるといった事態が生じる可能性があります。

衣料品を製造される海外の国としては、中国を含む東アジアをはじめ、近年では東南アジア、南アジアといった国々も多いものと思います。各国において商標の取扱は様々であり、商標登録を行う方法にも、各国において必要なノウハウがございますので、この点はお気軽にご相談頂ければ幸いです。

”HARAKENZO more ” はアパレル業界の皆様を応援します

アパレル業界は一般需要者にとって日常的に接する機会の多い業界であり、類似商標や模倣品が多く流通することにより、粗悪な商品を購入した者から、商標を使用する皆様の信用が失われやすい業界と言えます。

そのため、アパレル業界の皆様におかれましては、知的財産権の問題を意識せざるを得ない状況に直面することもあろうかと思います。”HARAKENZO more ではアパレル業界の皆様の知的財産保護に全力を尽くす体制を整えております。どうぞお気軽にご相談を頂ければ幸いです。

 

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