特許庁は、令和6年3月13日付で、AI関連技術に関する新たな特許審査事例を、「特許・実用新案審査ハンドブック」に追加しました。
また、特許庁HP「AI関連技術に関する事例の説明資料について」では、
・コンピュータソフトウエア関連発明に係る審査基準及び審査ハンドブックの改訂のポイント
などの様々な情報を掲載しています。
目次
AI関連技術に関する新たな特許審査事例のご紹介
ここでは、新たに追加された10事例について、特許庁が示したポイントをご紹介します。
「特許・実用新案審査ハンドブック」における各事例の全文は、括弧内のリンクからご確認いただけます。
追加事例1~4:進歩性要件の判断事例
追加事例1:カスタマーセンター用回答自動生成装置(附属書A 5. 事例37)
大規模言語モデル等の生成AIを業務に適用する試みに関して、以下の①・②を理由として、「人間が行っている業務の人工知能を用いた単純なシステム化」であり、当業者の通常の創作能力の発揮に当たると判断され、進歩性が否定される事例です。
①人間が行っている業務をシステム化し、コンピュータにより実現することで効率化を図ることは、当業者が通常考慮する自明な課題であること
②情報処理の技術分野において、「人間が行う判断を機械学習された学習済みモデルによって代替すること」は慣用技術であること
追加事例2:大規模言語モデルに入力するためのプロンプト用文章生成方法(附属書A 5. 事例38)
大規模言語モデル等の生成AIに入力するプロンプトの生成に関して、請求項において特定された具体的な手法によって、当業者であれば、発明の詳細な説明から、当該手法によって得られる効果が理解できることによって進歩性が肯定された事例です。
追加事例3:放射線画像の輝度調節に用いられる学習済みモデルの学習方法(附属書A 5. 事例39)
入力データから出力データを推定する学習済みモデルに関して、損失関数の構成を変更することは、単なる設計変更や設計的事項の採用にすぎないとされた一方で、
引用発明が着目していない効果を奏する構成を有することによって、引用発明からは予測困難な効果が認められるとして進歩性が肯定される事例です。
追加事例4:レーザ加工装置(附属書A 5. 事例40)
「人間が行っている業務の人工知能を用いたシステム化」に関する発明が、学習に用いる教師データにおける新たな特徴に、引用発明と比較した有利な効果が認められることにより、進歩性が肯定される事例です。
追加事例5~7:実施可能要件・サポート要件の判断事例
追加事例5:蛍光発光性化合物(附属書A 1. 事例52)
「AIによりある機能を持つと推定された物の発明」の実施可能要件およびサポート要件を満たす例として、以下の①~③が示されています。
①実際に製造した物の評価が明細書等に記載されている
②AIの示す予測値の予測精度が明細書等で検証されている
③AIによる予測結果が実際に製造した物の評価に代わり得るとの技術常識が出願時にあった
追加事例6:教師データ用画像生成方法(附属書A 1. 事例53)
「教師データの作成方法」に係る発明のサポート要件を満たす例として、以下の①・②が示されています。
①作成する教師データについて、機械学習の対象となるAI又は機械学習に係る教師データの内容が、請求項において十分に特定されていること
②発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていること
追加事例7:ネジの締付品質の機械学習装置(附属書A 1. 事例54)
「教師データに含まれる複数種類のデータ間の相関関係」に関する発明のサポート要件を満たす例として、以下の①・②が示されています。
①請求項において教師データに含まれる各データの入出力関係が特定されていること
②各データの間に一定の相関関係が存在することが出願時の技術常識であること
追加事例8~9:発明該当性要件の判断事例
追加事例8:教師データ及び教師データ用画像生成方法(附属書A 3. 事例5)
「機械学習」における「教師データ」に関する発明の発明該当性について、
請求項1に係る「教師データ」が、情報の提示手段や提示方法に技術的特徴を有しておらず、提示される情報の内容にのみ特徴を有するものであって、情報の提示を主たる目的とするものであるため、情報の単なる提示であり、ソフトウエアとハードウエアの協働要件を満たしていないため、発明該当性の要件を満たさないとされる一方で、
請求項2に係る「教師データ用画像生成方法」は、ソフトウエアとハードウエアの協働要件を満たすことにより、発明該当性が認められる事例です。
追加事例9:宿泊施設の評判を分析するための学習済みモデル(パラメータセットとして構成された学習済みモデルに関するもの)(附属書B 第1章 3.2 事例2-14’)
「学習済みモデル」が、コンピュータの処理を規定しておらず、機械学習によって得られた情報の内容にのみ特徴を有する単なるパラメータセットにすぎないことにより、情報の単なる提示であり「プログラム」またはそれに準ずるものといえないために、「ソフトウエアの観点に基づく考え方」(審査ハンドブック附属書B第1章2.1.1.2)が適用されず、発明該当性の要件を満たさないと判断される事例です。
追加事例10:明確性要件の判断事例
追加事例10:異常に対して実施すべき作業内容を出力するための学習済みモデル(附属書A 1. 事例55)
「学習済みモデル」の発明が明確性要件違反となる事例として、以下の①・②が示されています。
①学習済みモデルが「物の発明」である「プログラム」を包含していることから、「方法の発明」とはいえない一方で、
・コンピュータに複数の機能を実現させることが何ら記載されていないこと
・学習済みモデルがプログラムであることを必須としていないこと
から、「プログラム」であるともいえないため、「物の発明」であるのか「方法の発明」であるのかが特定できず、発明の属するカテゴリーが不明確である事例
②「プログラム」そのものは「手段」として機能するものではないにもかかわらず、プログラムである「学習済みモデル」が「手段」を備えるように記載されていることにより、発明が不明確となる事例