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アディダス vs. トム・ブラウン -商標権侵害と商標の希釈化-

アディダス vs. トム・ブラウン
-商標権侵害と商標の希釈化-

訴訟

2021年7月、スポーツウェアブランドのアディダスが、高級アパレルブランドのトム・ブラウンの4本ストライプとグログラン(同幅の赤白青3本線と両側に極細の白線、トム・ブラウンは5本ストライプと主張)がアディダスの登録商標の3本ストライプを侵害し希釈化を生じさせているとして提訴した。訴訟の約10年前の2007年には、3本ストライプを使用していたトム・ブラウンがアディダスの要求に応じ、4本ストライプに変更した経緯もある。

アディダス(原告)

主な主張

・アディダスは1952年から米国で3本ストライプを使用し、多くの人がアディダスの3本ストライプを知っている。
・トム・ブラウンはフォーマルウェアを扱っていたが、近年、スポーツウェアビジネスに進出し始めた。トム・ブラウンは、アディダスのアスリートであるリオネル・メッシが所属するFCバルセロナと契約し、アディダスが選手と長年関係のあるNBAにも関わり始めた。
・4本ストライプやグログランについてのインスタグラムの投稿に「アディダスだと思った」というコメントがあった。また、アディダスのコンサルタントのHal Poretが行った調査で、スポーツウェアの消費者2,400人の内26.9%がトム・ブラウンの製品を見て、アディダスの製品であると考えた。
・トム・ブラウンが2007年の時点で、アディダスが3本ストライプの商標登録を保有していることを知っていたにもかかわらず、フォーマルウェアからスポーツウェアにシフトしたことには悪意がある。

アディダスの登録商標

Reg. No. 2,058,619
Reg. No. 2,284,308
Reg. No. 1,815,956
Reg. No. 4,910,643

トム・ブラウン(被告)

主な主張

・アディダスの登録商標は、垂直の3本ストライプのみである。ストライプは服によく使われるデザインであり、アディダスの商標権は、垂直の3本ストライプ以外のストライプ(2本、4本ストライプ等)には及ばない。
・トム・ブラウンは高級ブランドであるのに対して、アディダスはスポーツウェアブランドであるため、2社は競合しておらず、消費者が2社を混同することもない。
(アディダスのスウェットパンツ:55ドル、トム・ブラウンのスウェットパンツ:1,000ドル)
・トム・ブラウンは、アディダスではなく、大学の代表チームのウェアから着想を得た。また、2007年には、係争を避けるため、アディダスの要求に応じ3本ストライプを4本ストライプに変更した。従って、悪意はない。
・4本ストライプに変更後、2018年までの約10年間アディダスは沈黙していたにもかかわらず、訴訟を起こすのは不公平である。

トム・ブラウンの製品

4本ストライプ
グログラン

判決

2023年1月にニューヨーク南部地区連邦地方裁判所は、陪審員による評決に従って、トム・ブラウンに商標権侵害と希釈化の責任はない旨の判決を下した。アディダスの提出した証拠は十分ではなかった。

アディダスの3本ストライプについて

例えば、Forever 21のスウェットに施された3本ストライプが商標権侵害であるとして提訴、和解し、Forever 21は当該製品の販売を中止した。また、Teslaが出願した3本ストライプのロゴに対してアディダスが異議申立を行い、Teslaが商標デザインを変更したこともある。
アディダスは、第三者による3本ストライプに類似したものの使用を可能な限り防ぐことで、3本ストライプの商標の希釈化や、識別性の低下を防ごうとしている。また、小さな企業は裁判を続ける資金がないことが多いのに対して、十分な資金のあるアディダスは長期間の訴訟を行うことで、より多くの和解に至ってきたことから、積極的な権利行使は、資金があるアディダスだからこそ可能であるとも言える。

 

当所コメント

アディダスのトム・ブラウンに対しての訴訟も3本ストライプの商標の希釈化を防ぐためのアディダスの戦略であると考えられる。一審の判決後、アディダスは上訴の手続を進めており、二審でどのような判決が下されるのか、それとも和解に至るのか注目される。

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