目次
登録意匠の範囲
登録意匠の範囲:願書の記載及び願書に添附した図面に記載された意匠に基づいて定められる(意匠法第24条第1項)
意匠の類否:需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて判断する(意匠法第24条第2項)
➡意匠の類否の判断において、物品が同一又は類似でなければ非類似の意匠となる点については条文上明文化されていない。
判例:「意匠は物品と一体をなすものであるから(略)法三条一項により登録を拒絶するためには、まずその意匠に係る物品が同一又は類似であることを必要とし、更に、意匠自体においても同一又は類似と認められるものでなければならない。」※最判昭和49年3月19日(昭和45年(行ツ)第45号「可撓伸縮ホース」事件)
判例:「物品の類否の判断は物品の用途と機能を基準としてすべきであって抗告人主張のごとく物品の供給される市場が同一であるか否かは右判断の基準となり得ないものと解される。そして物品の用途と機能が同じものは同一物品であり,用途が同一であるが機能に相違のある者は類似物品であると解するのが相当である。」※大阪高決昭和56年9月28日(昭和55年(ラ)第542号「保管庫」事件)
➡意匠は物品と一体をなすものであるから意匠が類似というためには、物品が同一類似であることが必要。
・但し、物品の用途、機能は厳格に解釈しない(外観を保護する意匠制度になじまない* )
※建築物の意匠の場合、「病院」と「カフェ」は、何れも人が内部に入って一定時間を過ごすもの⇒用途・機能が類似する
※画像意匠と物品の部分に画像を含む意匠の場合、物品の用途・機能も考慮する。
※画像意匠同士の場合、画像が表示される物品の用途・機能を考慮しない。(パスワー ド入力用画像≒電話番号入力用画像)
物品の認定について争われた事件
「意匠に係る物品」の欄に記載された物品区分によって物品を認定
知財高判平成17年10月31日(平成17年(ネ)第10079号「カラビナ」事 件)
「登録意匠における物品の範囲は、「意匠に係る物品」の欄に記載された物品の区分によって確定されるべきものであり、「意匠に係る物品の説明」の欄の記載は「意匠に係る物品」の欄に記載された物品の理解を助けるためのものであるから、物品に関する願書の記載は、願書の「意匠に係る物品」に記載された物品の区分によって確定されるのが原則であり、「意匠に係る物品の説明」の記載によって物品の区分が左右されるものではない」
知財高判令和4年1月12日(令和3年(行ケ)第10067号「インジェクターカート リッジ」事件(不服2020-11187))
「本件願書等の記載から,本願意匠の意匠に係る物品が何であるか検討する。本件願書等(乙1)の記載をみると,【意匠に係る物品】として「インジェクターカートリッジ」とあるほか,(略)本件願書等には【意匠に係る物品の説明】の欄はなく,その余の欄にも意匠に係る物品の説明は記載されていない。本件願書等における物品を示唆する記載は「インジェクターカートリッジ」との文言及び図面のみである。」とし、「インジェクタ―カートリッジ」の意味を辞書、特許公報その他の資料から推測し「インジェクターカートリッジ」は,「注射器用の交換可能な液体・ガスなどを充填した小容器」を意味すると認めるのが相当である。」とした。
まとめ
・意匠が類似するというためには、意匠に係る物品が同一又は類似であることが必要であるから、「意匠に係る物品」は権利範囲に極めて大きく影響する。
・物品は【意匠に係る物品】の欄の記載で確定され、【意匠に係る物品の説明】の欄は、【意匠に係る物品】の欄の記載からは、その意匠に係る物品の用途機能が理解できない場合に、その理解を助けるために参酌される。
・意匠に係る物品が新規なものである場合などは、【意匠に係る物品の説明】の欄に用途機能を記載して説明すべきである。
・【意匠に係る物品の説明】の欄に複数の物品を記載したとしても、結局は【意匠に係る物品】の欄と図面から導き出される物品の用途機能で判断される。