目次
飲食業界の皆様へ
(1)はじめに
従前、飲食業界においては、提供される食事の美味しさ、盛り付けの美しさ、メニューの価格帯、感じの良い接客態度等によって、他の飲食店と競争してきました。
しかし近年、上記のように、提供される食事等の質の高さだけで、他の飲食店との競争に勝つのは難しくなってきています。飲食業界においても、他の飲食店にない独創的なデザインによってブランド力を高め、市場価値を生み出そうとする傾向が強くなっています。例えば、スターバックスは、店舗の外観・内装のデザイン等から独創的なイメージを生み出し、ゆっくりくつろげる珈琲店として、多くの顧客に愛されています。
このように、店舗の外観・内装のデザイン等から、使用される食器、店員の制服、広告、ホームページのデザイン等、顧客との全ての接点において、独創的で統一されたデザインを施し、集客力やブランドイメージを構築する動きが高まっています。
令和2年4月に施行された改正意匠法により、「建築物」「内装」「画像」が新たに意匠の保護対象となりました。苦労して創り出した独創的な店舗の外観・内装デザイン等も、他の飲食店に模倣されれば集客力を無くし、せっかく構築したブランドイメージも、あっという間に崩れてしまいます。大切で価値のある、店舗の外観・内装の独創的なデザインを、他の飲食店に模倣されないように、意匠権によって、しっかり保護することが必要です。
(2)飲食業における意匠登録
1.独創的な店舗の外観・内装デザイン
① ブランドイメージの構築
上述したように、店舗の外観・内装などのデザインによって、他店との差別化が図られ、集客力やブランドイメージを構築することができます。
このような店舗の外観・内装デザインについて意匠権を取得すると、他社の模倣をけん制し、差別化を促進することができ、自社ブランドの確立に大きく寄与することが出来ると考えます。
また、新規性や非創作容易性等の登録要件のハードルをクリアして、意匠登録に至ったということは、オリジナルティあふれる優れたデザインであるという証明を得たことになります。
■飲食店の外観の登録例
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■飲食店の内装の登録例
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② 紛争の未然防止に有効
意匠権による保護対象が「建築物」「内装」まで拡大されたことにより、今まであまり意匠権を考慮する必要のなかった飲食業界の企業においても、意匠権を取得する動きが活発になると思われます。そのため、意匠法改正後も意匠権に無対策でいると、突然、意匠権侵害として他社から訴えられる可能性があります。
特に、内装の意匠では、例えば「住宅」「病院」「オフィス」「飲食店」等、人がその内部に入り一定期間をすごすものについては、原則、用途及び機能に類似性があると判断されるため、業種を越えて権利行使を受ける可能性があります。
その点、店舗の外観・内装デザインについて意匠登録を受けると「意匠登録第○○号」といった明確な形で権利が与えられ、原則、先行する他者の意匠権を侵害しないことの一定の証明にもなりますので、発注者・施工主も安心して施工等、実施できるようになります。
また、明確な権利に基づいて権利行使をすることが可能ですので、他社の模倣をけん制し、紛争の未然防止につながります。
このように、意匠法改正後においては、自社の意匠権取得を含め、他社の意匠権に対しても何らかの方策を立てる必要があります。弊所は、お客様の大切な知的財産を守るために、的確なアドバイスをご提供いたします。
2.メニュータブレット、内装等の画像デザイン
① 画像デザインの保護対象の拡大
令和2年4月に施行された改正意匠法により、「建築物」「内装」に加えて、「画像」そのものについても意匠登録が受けられるようになりました。また、インターネットを通じて提供されるサービスにおいて使用されるGUI 等や、画面に表示される画像のみならず壁や人体に投影される画像についても、意匠登録を受けることができるようになりました。
このように、意匠法の改正によって、画像デザインについて、より効果的に意匠登録を受けることができるようになりました。
② メニュータブレットの画像デザイン
近年、各テーブルに設置しているメニュータブレットによって、顧客の注文を受け付ける飲食店が増加しています。しかし、操作しにくいメニュータブレットであれば、特に年配の顧客においては、注文を控えてしまうかもしれません。このため、メニュータブレットにも、メニューの選択のしやすさ、注文のしやすさ等、画面上、様々な工夫がされていると思います。
このような、メニュータブレットの画像デザインについても、意匠登録を受けることができます。見やすく操作しやすいメニュータブレットを、他の飲食店の模倣から保護するため、メニュータブレットの画像デザインについても、意匠登録されることをお勧めします。
下記の例は、改正前の飲食店用情報端末の登録例ですが、改正後においては、メニュー画面そのものの意匠登録が可能となるため、このようなメニュー表示画像等の意匠登録が増加することが予想されます。
■飲食店の情報端末の登録例
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③ 店舗の壁等に投影される画像デザイン
近年、店内の装飾として、プロジェクター等で画像を店舗の壁等に投影しているのをよく見かけます。このような画像についても意匠登録が可能です。
(出典)特許庁 第6回 意匠制度小委員会 資料1 |
3.提供される飲食物自体のデザイン
飲食店で提供される飲食物自体についても、下記の「パンケーキ」のように、意匠登録できるものがあります。また、下記の「容器付きゼリー」のように、容器と食品の組合せについても、2019年意匠審査基準改訂により、意匠登録することができます。
【意匠権者】フークル株式会社
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「容器付きゼリー」 |
4.ブランディング
欧米の企業では、デザインを活用してブランド競争力を高める「デザイン経営」(デザインをブランド力及びイノベーション力向上のための重要な経営資源として活用する経営)が普及し、製品や広告だけでなく、店舗やウェブサイトなど全ての顧客接点において一貫したデザインを施しています。
意匠法改正に係る内容は、特許庁が提言する「デザイン経営」を推進するために、意匠法におけるデザイン保護の拡大と手続の改善を図ろうとするものです。
店舗の外観・内装デザイン、ウェブサイト、広告、食器(皿、カップ、ナイフ等)、制服 等のデザインを統一して、新たなブランドとしてのイメージを確立し、ブランド競争力を高めることを希望されるお客様のために、弊所は的確なアドバイスをご提供いたします。
意匠の出願にご関心のある飲食業界の方は、まずは弊所までお気軽にご相談ください。
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