目次
意匠制度の基本情報
意匠出願が初めての方に、意匠とは何か、意匠権を取得するメリット(特許との違い)、登録に必要な要件を分かりやすくご案内します。
※この記事は、「意匠制度の基本情報 1」の続きです。
4. 意匠出願の種類
意匠法には、他の知的財産権には見られない特有の制度が数多く設けられています。このような意匠法独特の制度の内容を理解し、通常の出願や特許出願等と組み合わせて利用することによって、より幅広い、強い権利を取得することができます。
- 関連意匠制度
- 部分意匠制度
- 組物の意匠制度
- 動的意匠制度
- 画面デザインの意匠
- 秘密意匠制度
関連意匠制度
デザインの開発においては、1つのデザインコンセプトから多くのバリエーションの意匠が創作されるとういう創作実態があります。関連意匠制度は、1つのデザインコンセプトから創作された多数のバリエーションの意匠を効果的に保護する制度です。
意匠法では先願主義を採用し、原則的には、同一人の出願であっても、同一又は類似の意匠についてニ以上の出願があった場合、最先の出願のみが登録となります。しかし、バリエーションの意匠を保護を拡充するため、2020年4月1日の改正意匠法施行後は、基礎意匠(最初の本意匠)の出願の日から10年を経過する日前までに同一出願人から出願された場合に限り、例外的に関連意匠としてこれを保護し、各々の意匠について権利行使することができます。(改正前は、関連意匠として保護されるためには、本意匠の意匠公報発行の日前までに同一人による意匠出願をする必要がありましたが、関連意匠を出願できる期間が大幅に延長されました。)
バリエーションのデザインについても意匠権を得ることによって、意匠の類似範囲を拡張することが可能になります。すなわち、差止請求の観点からすれば、広い範囲での権利行使が可能になります
(1)関連意匠の登録要件
- 本意匠の出願人と同一の出願人による出願であること
- 本意匠と類似すること
- 基礎意匠の出願の日から10年を経過する日前までに出願されること
- 関連意匠の設定登録時に本意匠の権利が消滅していないこと
- 基礎意匠及び全ての関連意匠の意匠権に専用実施権が設定されていないこと
- 新規性・創作非容易性等の一般的な登録要件を具備していること
(2)関連意匠の留意点
関連意匠の意匠権は、原則として、通常の意匠権と同様に独自の効力が認められています。
ただし、関連意匠の存続期間は、基礎意匠の出願日から25年で満了します。また、関連意匠の意匠権の移転、質権の設定、専用実施権の設定は、基礎意匠及び全ての関連意匠の意匠権とともに行わなくてはならず、単独で行うことができません。
改正後の関連意匠制度について詳しくはこちらをご覧ください。
部分意匠制度
物品等の部分について、独創的で特徴的な創作がなされた場合に、当該部分について意匠登録を認める制度です。独創的で特徴ある部分を取り入れつつ意匠全体では侵害を避ける巧妙な模倣を防止することが可能です。
■部分意匠の具体例
- 自転車→サドル部分、ハンドル部分、ベダル部分等
- 携帯電話→アンテナ部分、ボタン部分、画面部分(※画面デザインの意匠)等
- コーヒーカップ→持ち手部分、カップ部分、ソーサー部分等
(1)部分意匠の登録要件
①物品全体の形態の中で、一定の範囲を占める部分であること
<認められない例>
(『意匠審査基準 71.4.1.1.5』より)
・「建築用コンクリートブロック」
②各部品ごと又は一般的名称で呼べるような部分ごとに示されていること
<認められないもの> (特許庁HP『「部分意匠」に関するQ&A』より) |
<認められるもの> (特許庁HP『「部分意匠」に関するQ&A』より) |
・「繊維製品に付す模様」: 模様のみを部分意匠として意匠登録を受けることはできません。意匠登録を受けたい物品等の形態に該当する必要があります。 |
・「ティーシャツ」
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【意匠に係る物品】 繊維製品に付す模様 【意匠の説明】 実線で表した部分が、意匠登録を受けようとする部分である。 【表面図】 |
【正面図】
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③新規性・創作非容易性等の一般的な登録要件を具備していること
(2)部分意匠の意匠権の効力
部分意匠の意匠権も、通常の意匠権と同じく、同一又は類似の範囲に及びます。
なお、部分意匠の類似範囲は、以下の観点から判断されます。
- 意匠に係る物品等が同一又は類似か否か
- 部分における用途及び機能が同一又は類似か否か
- 部分の形態が同一又は類似か否か
- 全体の形態の中での当該部分の位置・大きさ・範囲が同一又はありふれた範囲内か否か
組物の意匠制度
同時に使用される二以上の物品等であって、経済産業省令で定めるものを構成する物品等を全体で1つの意匠として保護する制度です。
たとえばコーヒーセット等のように、デザインに全体として統一感がある場合には、一意匠として出願でき、物品群全体としての模倣に対する権利行使が可能です。
(1)組物の意匠の登録要件
①経済産業省令で定める組物の意匠に該当すること
②同時に使用される2以上の物品、建築物、画像であること
③組物全体として統一があること
■こんな組物は統一があるといえます
1)形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合が、同じような造形処理で統一されているもの
<例>(『意匠審査基準』より)
・「一組の飲食用容器セット」 | ・「一組の飲食用具セット」 |
2)全体として一つのまとまった形状や模様を表すもの
<例>(『意匠審査基準 第Ⅳ部第3章3.3.1』より)
・「一組の家具セット」 | ・「一組の厨房設備用品セット」 |
3)物語性など観念的に関連がある印象を与えるもの
<例>各構成物品にそれぞれ、松・竹・梅の絵が記載されているもの
④組物の意匠が全体として、新規性・創作非容易性等の一般的な登録要件を具備していること
動的意匠
物品の形態が物品の有する機能に基づいて変化する意匠であって、その変化の状態が静止状態からは予測できない意匠を保護する制度です。
びっくり箱のおもちゃのように、動作の変化の前後に現れる意外性に意匠創作の力点が置かれている場合、かかる動的な意匠についても漏れのない権利保護を与える制度です。
出願の際、変化の前後が分かるような図面を提出することが必要です。
《登録要件》
①一意匠であること
②物品の形態がその物品の機能に基づいて変化すること
③静止様態からは変化した状態を予測できないこと
④視覚に訴える変化があり、その変化に一体性があること
画面デザインの意匠
令和元年改正法により、従来は物品の操作の用に供される画像を物品の部分の意匠として保護の対象とする等の厳しい要件を満たさなければ保護されなかった画面デザインの保護が拡大されました。新たに画像を意匠と認め、物品から離れた画像それ自体も保護の対象とすることが審査基準に明記されました。
令和元年改正後の画像意匠制度について詳しくは、こちらをご覧ください。
《登録要件》
以下の2通りの保護方法があります。
(1)画像意匠(物品から離れた画像自体)として保護を受ける方法
※特許庁「意匠の審査基準及び審査の運用~令和元年意匠法改正対応~」より
<例①> 商品購入用画像
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<例②> 音楽再生機能付き電子計算機
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(『意匠審査基準第Ⅳ部第1章3』より)
(2)物品又は建築物の部分としての画像を含む意匠(物品と一体化した意匠)
※特許庁「意匠の審査基準及び審査の運用~令和元年意匠法改正対応~」より
<例①> 医療用測定結果表示画像 |
<例②> デジタルカメラ |
(『意匠審査基準第Ⅳ部第1章3』より)
■登録を受けることができない画面デザイン
装飾表現のみを目的とした画像
① [例] 壁紙
映画等(いわゆるコンテンツ)を表した画像
② [例] 映画やゲームの一場面の画像
秘密意匠
出願人の請求により意匠権の設定登録の日から一定期間に限り、その登録意匠の内容を秘密にしておく制度です。
製品販売戦略上、意匠を公開することによる不利益から意匠権者を保護することが可能です。
《請求要件》
①出願人が要求する。共願の場合は、共願人全員で請求する必要がある。
②出願時または第1年分の登録料の納付と同時に最長3年の期間を指定して請求する。
③別途手数料の納付が必要ですとなる。
5. 出願から登録までの流れ
意匠権を取得するためには、特許庁へ意匠登録出願をする必要があります。
出願から登録までの流れは以下のようになっています。
(1)出願
法令で規定された様式の願書及び図面等を特許庁に提出します。
(2)方式審査
形式上の要件を備えているかどうか審査されます。
(3)実体審査
実体上の登録要件(新規性・創作非容易性等)を満たしているか否か審査されます。
(4)拒絶理由通知書
審査官が拒絶の理由を発見した場合には、それを出願人に知らせるために拒絶理由通知を送付します。
(5)意見書・補正書提出
拒絶理由通知に対しては、意見書・補正書等を提出して拒絶理由を解消することができます。
(6)登録査定
実体要件を満たしていると審査官が判断した場合には、登録をすべき旨の査定がされます(通常、出願から約6ヶ月で登録査定となります)。また、意見書や補正書によって拒絶理由が解消した場合にも登録査定となります。
(7)拒絶査定
意見書や補正書によっても未だ拒絶理由が解消されておらず、やはり登録できないと審査官が判断した場合には、拒絶査定を行います。
(8)拒絶査定不服審判
審査官の拒絶査定の判断に対して不服がある場合には、拒絶査定不服審判において争うことができます。
(9)登録審決
拒絶査定不服審判において拒絶理由が解消されたと判断された場合には、審判官の合議体により登録審決がされます。
(10)拒絶審決
拒絶査定不服審判においても拒絶理由が未だ解消されていないと判断された場合には、拒絶審決がされます。
(11)知的財産高等裁判所
拒絶査定不服審判の拒絶審決に対して不服がある出願人は知的財産高等裁判所に出訴することができます。
(12)登録料納付
登録料は登録査定又は登録審決の謄本送達日から30日以内に納付しなければなりません。
(13)設定登録
出願人が登録料を納付すれば、意匠登録原簿に登録され、意匠権が発生します。意匠権の存続期間は出願日から25年です。
(14)登録証発行
意匠権の設定登録後、意匠登録証書が発行されます。
(15)意匠公報発行
意匠権が設定されたことを一般に知らせるために権利内容を記載した意匠公報が発行されます。