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意匠お悩み相談
このページでは、意匠出願手続きや、意匠権侵害の警告を受けた際のトラブル解決などをご紹介します。
意匠登録が認められ意匠権が発生すると、意匠権者には、意匠権の侵害者に対して次の3種類の請求権が認められます。
①差止請求権
②損害賠償請求権
③信用回復措置請求権
また、一定の手続をすることによって、税関において輸入差止を求めることができます。
登録意匠の権利範囲は、願書に記載された「物品等の名称」と「図面」又はその代用物(写真等)に基づいて判断されます。したがって、全く同じ意匠(形態)であっても、物品等の用途及び機能が全く異なれば、意匠権の効力は及びません。そのため、そのような行為に対しては、上記請求権は行使できません。 なお、意匠権の効力は、願書に記載された「意匠」(形態)と全く同じ意匠だけでなく、類似する意匠にも及びます。さらに、願書に記載された「物品等」に類似する物品等にも及びます。 また、部分意匠の場合には、原則として、権利を求める範囲が同一又は類似か否かのみが問題となります。
以上を踏まえ、以下「2. 意匠に関するトラブル事例の紹介」では、意匠権者と、意匠権を侵害していると言われた方の双方の立場について、トラブル解決のためにとるべき事項を簡単に説明します。
1. 意匠登録までの手続きについて
1-1. 自社製品について意匠登録をしたいのですが、どうすれば登録できますか?
まず、意匠登録するには特許庁への出願が必要となります。出願に際しては、登録対象となる意匠を特定する必要があります。意匠は物品および建築物の美的外観であるため、意匠の特定には物品面と形態面を、願書及び添付図面等によって特定することが必要です。
また、物品については、「意匠に係る物品」(又は建築物)を願書に明示する必要があります。「意匠に係る物品」は登録意匠の範囲を定める対象となるため、その特定は非常に重要です。
形態については、意匠が立体形状の場合、正投影図法では正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図、底面図(6面図)のうち、意匠登録を受けようとする意匠を明確に表すために十分な数の図を記載することが必要ですので、基本的には6面図を提供していただく必要があります。6面図だけでは意匠の形態を十分表現できない場合には、断面図や斜視図などが必要となる場合があります。
なお、出願後直ぐに登録になるのではなく、特許庁によって方式審査、実体審査が行われ、拒絶理由がなければ登録に至ります。登録までの流れはこちらをご覧ください。
1-2. 意匠出願後に特許庁から拒絶理由通知が発送されました。
拒絶理由は図面が不一致であり意匠が具体的でないとのこと。どう対応すればよいですか?
意匠が具体的でない場合は工業上利用できる意匠ではないとして、意匠法3条1項柱書違反の拒絶理由に該当します。願書に添付して提出した図面(又は写真)が相互に一致しない場合は、意匠が具体的でないと判断されます。
拒絶理由を解消するためには図面の不一致を解消するように補正した図面を提出する必要があります。但し、補正できる範囲には一定の制限があるので注意が必要です。例えば、出願当初の願書の記載や図面から当然導き出すことのできる具体的な意匠と、補正後の意匠が異なる場合は要旨変更となり、補正が却下されることになります。
このような拒絶理由通知を受けないようにするためには、出願時に意匠に係る物品又は建築物の形態を十分に特定した図面を提出することが重要となってきます。
当所では、弁理士とグラフィックデザイン部が連携し、意匠登録に適した図面を作成します。当所のグラフィックデザイン部による意匠図面の作成について詳しくはこちらをご覧ください。
1-3. 意匠出願後に特許庁から拒絶理由通知が発送されました。
拒絶理由は関連意匠が本意匠と類似しないとのこと。どう対応すればよいですか?
この拒絶理由(意匠法第10条第1項)については、本意匠(基礎意匠)と関連意匠が非類似と判断されていることから関連意匠を通常の意匠に変更、即ち本意匠の表示を削除すれば解消することができます。ただし、その場合は類似の範囲を狭めることになります。よって、安易に補正することなく本意匠(基礎意匠)と関連意匠が類似であると反論できる可能性があるか検討する必要があります。反論が認められ、関連意匠として登録を受けることができれば、類似の範囲が明確になり、権利行使がしやすいメリットがあるからです。
2. 登録後のトラブル解決の方策
2-1. 自社製品について意匠権を保有しています。登録した意匠に少し変形を加えた形で意匠に係る物品を製造・販売しても他社の権利を侵害する問題はありませんか?
意匠権者は業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有します(意匠法23条)。したがって、製造・販売する製品に係る意匠が「登録意匠に類似する意匠」の範囲であれば、意匠権の実施となり原則として他人の意匠権を侵害する可能性は低いため問題はありません。
ただし、製品が「登録意匠に類似する意匠」の範囲にあるかについては、注意が必要です。例えば、関連意匠登録を有する場合に本意匠と関連意匠の類似の範囲まで形状等を変えても自己の意匠権の実施と考えることができます。一方、関連意匠に係る意匠権を有していない場合などは「登録意匠に類似する意匠」に係る意匠の範囲を想定することが困難です。このようなときは、製造・販売している製品が、「登録意匠に類似する意匠」の範囲かどうか、弁理士の鑑定を求めたり、特許庁に判定※1を求めたりすることができます。
なお、利用・抵触関係※2にあたる他者の登録意匠等の存在がある場合は意匠権者であったとしても意匠の実施は制限される点に留意が必要です。
※1「判定」
特許庁に対して判定の請求を行うことで、特許庁の審判官が登録意匠と対象となる意匠の類否を判断します。
- 特許庁の中立・公平な立場での判断を得られる。
- 最短で3ヶ月で結論を得ることができる。
- 特許庁への判定請求料は1件4万円で安価である。
- 法的拘束力はないものも、特許庁の公式見解であって、鑑定書に相当するものとされ、事実上社会的にみて十分尊重され、権威ある判断の1つとされている。
※2「利用・抵触関係」
「利用」の例
例えば、部品の意匠と完成品の意匠との関係で、完成品の意匠が部品の意匠をそっくりそのまま自己の登録意匠の中に取り入れている場合には、完成品の意匠の意匠権者の意匠の実施は制限されます。
以下に「利用」関係が問題となった有名な裁判例(学習机事件)を簡単に紹介します。
(裁判所における判断) 後願登録意匠は、先願登録意匠に類似する形態の本体部分に棚を取り付けたものであり、先願登録意匠を利用するものであるとして後願意匠の実施は先願意匠の意匠権を侵害するものと判断されました(昭和45年(ワ)507号判決)。
「抵触」の例
意匠の構成要素として商標が取り込まれており、意匠を実施すると他人の登録商標をその指定商品等について使用した状態が生じる場合をいいます。商標権は登録商標をその指定商品等について使用することができる権利なので意匠に係る物品と登録商標の指定商品等が無関係であれば抵触の問題は生じません。
2-2. 自社製品の模倣品を無断で製造・販売している第三者を発見しました。
どのような解決手段がありますか?
<当事者間による解決>
侵害行為を行っている者に警告状を送って、侵害行為を止めるよう交渉する方法があります。警告状を送られた相手方は自発的に侵害行為を停止することも少なからずありますが、損害賠償にまでは応じてくれないこともあります。この方法は、相手が自発的に侵害行為を止めることを期待するものであり、侵害行為を止めるよう強制するものではありません。侵害行為が中止されず、被害が継続・拡大する恐れもあるので、その点注意が必要です。また、相手が自己の権利を侵害していると思って相手方に警告状を出したものの、実際は相手の行為が侵害に当たらなかった場合や、警告状の根拠とした意匠権が後日、無効とされた場合等には警告状を相手の取引先等に発送したことが営業誹謗行為となり、かえって相手方から損害賠償を請求されるなどして紛争がこじれてしまうこともあります。
したがって、警告状を誰に対してどのような内容で送るかについては慎重に検討しなければなりません。交渉を優位に進めるためには、事前に弁理士の鑑定書の入手や判定制度を利用し、交渉における材料とすることも考えられます。
<第三者による解決>
- 調停制度
第三者に調停人となってもらい、調停人が紛争当事者の間に入って両者の言い分を聞いた上で調停案を示し、両当事者がこれに合意するという紛争解決方法です。調停は調停人が両当事者の和解をあっせんするもので、両当事者が合意できない場合には成立しないので、調停の手続を利用しても調停の成立が強制されることはなく、合意できない場合にはその時点で調停は終わる点に留意が必要です。調停制度には裁判の公開の原則が当てはまらないので、紛争解決の手続を双方とも秘密に処理したい場合に便利です。
- 仲裁制度
第三者に仲裁人となってもらい、仲裁人が間に入って両者の言い分を聞き、仲裁判断を下すという仲裁機関による仲裁制度を利用する方法があります。裁判所以外の機関が行う調停との違いは、仲裁手続を利用することを両当事者が合意すると、仲裁人が下した仲裁判断には裁判と同じ法的な強制力があります。仲裁制度を利用することで、裁判手続よりも比較的簡易な手続で、早期に解決できることがあります。また、仲裁制度にも裁判の公開の原則が当てはまらないので、紛争解決の手続を双方とも秘密に処理したい場合に便利です。
<裁判所による解決>
- 差止請求
意匠権侵害行為に対する差止の態様は以下のものがあります
1.侵害行為の停止の請求
2.侵害行為の予防の請求
3.侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為
※3.の請求については1又は2とともにのみ請求することができます。
※侵害された意匠権が秘密意匠である場合は、登録意匠の内容を提示して警告した後でなければ差止請求することはできません(意匠法第37条第3項)。
※意匠権侵害が現実化しており、これを放置していては著しい損害が生じる可能性がある場合など緊急性があるときには、裁判所に対して、まず侵害行為の停止を内容とする仮処分を申し立てることもできます。
- 損害賠償請求
意匠権を侵害する製品を製造・販売している者に対して損害賠償請求をすることができます。損害賠償請求をするためには多くの事実について立証しなければならないところ、その立証は困難な場合も多いので損害額については立証負担を軽減するために意匠法が算定規定を設けています(意匠法第39条)。また侵害者の過失については侵害行為について過失があったものと意匠法で推定することとし※、意匠権者から侵害者に対する損害賠償請求を容易にしています。
※秘密意匠に係る意匠権の侵害行為については過失の推定規定が働きません。
- 不当利得返還請求
不当利得返還請求権を行使できることもあります。
- 信用回復措置請求
故意又は過失により意匠権を侵害したことにより意匠権者の業務上の信用を害した者に対しては、裁判所は、意匠権者の請求によって、信用を回復するための措置を命じることができます。具体的には侵害者の粗悪品によって、意匠権者の業務上の信頼が害された場合と評価できれば、謝罪広告の掲載などの措置を求めることができます。
- 刑事責任の追及
模倣品を製造・販売する行為については、侵害罪として10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金に処し又はこれを併科すると意匠法に規定されているため、意匠権を侵害されたときには刑事責任の追及も視野に入れることができます。
法人については、その実行行為者の処罰に加えて、法人にも罰金刑が科されます。
2-3. 意匠権の侵害行為はどのように発見できますか?
意匠権者に無断で、登録意匠又は登録意匠と類似する意匠が実施されていることを発見することが出発点になります。このような事実の発見には、特別な方法があるわけではありません。社員の方やお客様を含む取引先からの情報、インターネットでの検索等、地道な活動が求められます。また、意匠権が年金の不納等によって消滅していないかの確認も必要です。
なお、意匠が同一の場合は一目瞭然ですが、類似といえるかどうかは微妙であることが少なくありません。また、類似だとお考えになっても、判決や審決などでは非類似と判断されるケースもあります。そのため、全く同一の場合は別として、少しでも登録意匠と違う点があるようでしたら、物品等の分野によって類似範囲が異なることが少なくありませんので、私どもなど専門家にご相談することをおすすめします。
2-4. 意匠権の侵害行為を発見した場合に意匠権者が確認しておくことはありますか?
侵害行為の事実を発見できたら、続いて相手方についての情報や証拠の収集が必要となります。例えば、相手方の住所、名称、生産者や流通ルートなどです。最近ではオンラインで販売されることが多いため、インターネット上の流通ルートについて確認しておくことも重要です。
比較的安価な商品であれば、購入して現物を確保しておくのも1つの方法でしょう。可能であれば、写真をとっておくと後々証拠として有用になることがあります。また、流通ルートを完全に解明することはなかなか難しいことですので、まずはわかる範囲で構いません。ただ、流通ルートをたどっていくと、輸入品であったということもあります。その場合には、税関での差止手続も考える必要があります。
このことと並行して、できる範囲で結構ですので、意匠権の有効性について確認しておくことが望ましいでしょう。登録意匠の出願前に、日本のみならず世界のどこかで、登録意匠又はその類似意匠が公知になっていれば、意匠権が無効となり、権利行使が認められなくなるからです。少なくとも、特許公開公報や実用新案公報で公開されている図面などは確認しておくことが望ましいでしょう。
2-5. 意匠権の侵害者に対してどのように交渉を始めればよいですか?
侵害発見後に調査を進め、意匠権の有効性ならびに私ども専門家の見解を踏まえた上で意匠権侵害の可能性が高いと判断できた場合には、相手方との交渉を行うことになります。
まずは書面での通知から始まることになるでしょう。相手方にもよりますが、「お伺い書」から始めるケースもありますし、いきなり内容証明郵便を送付するケースもあります。 その後、書面や直接会っての交渉を通じて解決できれば、「覚書」等を作成して書面にしておくことが望ましいでしょう。
交渉が決裂した場合には、放置しておくことも一つの方法ですが、争う場合には訴訟または仲裁を通じて紛争を解決することになります。
2-6. 意匠権を侵害していると言われた場合のとるべき事項
意匠権者からの内容証明郵便等の書面を受け取ると、どうしていいのかわからなくなることが少なくありません。そのような場合は、なるべく早く私ども専門家にご相談頂くことをお勧めします。書面には回答期限が書かれているのが通常ですので、その期限に何らかの返答をすることがまず望ましいでしょう。
ご相談いただいた場合に私ども専門家が確認させていただく主要な事項は以下のとおりです。
- 相手方の意匠権が有効に存続しているか否か
- 相手方の意匠と貴社の意匠の対比
- 相手方の意匠権を無効にするための調査を行ったか(行うか)否か
- 問題となった貴社の意匠を変更することができるか否か
- 意匠権者と貴社とはどのような関係にあるのか
以上の事項を踏まえた上で、意匠が類似しているのか、無効理由があるのか等を検討させていただきます。そして、どのように回答するのか、すなわち非類似であるとして回答するのか、相手方の意匠権を消滅させる手段をとるのか、意匠を変更すると回答するのか、意匠の実施を継続させて欲しいと回答するのか、等の具体的な対応策をアドバイスさせていただきます。
その後書面や直接会っての交渉を通じて解決できれば、「覚書」等を作成して書面にしておくことが望ましいでしょう。
交渉が決裂した場合には、相手の出方に応じて対応措置を講じていくことが普通です。なお、特許庁に判定を求めて、貴社の意匠実施が、相手方の登録意匠及びその類似意匠の範囲に属するか否かについての見解を求めることも可能です。さらに、意匠権の侵害には該当しないとの確信がある場合には、先手を打って訴訟を提起することも1つの方法です。
2-7. 侵害鑑定はどのような場合に必要ですか?
A. 自社の意匠権を侵害している旨を主張する場合
- 自社の意匠権を侵害している旨を主張するために、他社へ警告書を送る前に鑑定を行うことが有用です。
- 証拠として鑑定書を裁判所へ提出することができます。
B. 自社が非侵害である旨を主張する場合
- 自社が意匠権侵害に関する警告書を受領した場合、非侵害であることを主張するために鑑定書を利用できます。
- 非類似である旨の鑑定書を相手方へ提示することで紛争解決を試みることができます。
- 証拠として鑑定書を裁判所へ提出することができます。