国内意匠制度

意匠権侵害の概要と救済手段

意匠権侵害の概要と救済手段

ある意匠権を侵害しているかどうかはどのように判断されるのでしょうか。
本ページでは、実際に意匠権侵害が争われた代表的な裁判を例にして、意匠権侵害についてご説明します。

一口に意匠権侵害といっても、意匠権の侵害は、直接侵害と間接侵害に分けられます。
直接侵害は、他人の登録されている意匠と同一又は類似の意匠を、許可なく製造したり販売したりする行為です。
間接侵害は、侵害に至る可能性が高い予備的な行為を指します。

直接侵害

意匠権は、登録意匠と同一・類似の意匠を業として独占して実施することが出来る権利です。
そのため、意匠権を持たない他人が、登録意匠と同一の意匠のみならず、類似の意匠を実施すると意匠権侵害となります。これを直接侵害といいます。

意匠権侵害の判断においては、意匠権の範囲の認定はもちろんのこと、侵害品に係る意匠が登録意匠と類似する意匠であるかどうかの類否判断が大きなポイントになります

意匠の類否判断について

侵害品に係る意匠が登録意匠に類似するかどうかの判断手法は、特許庁が定める審査基準の類否判断手法と同じです。

■ 物品の類否

意匠が類似するかどうかの判断においては、先ず物品の類否が検討されます。対比する意匠に係る物品の用途・機能が同一又は類似の場合は物品が同一・類似と判断されます。物品が非類似であれば、両意匠は非類似の意匠であるため、意匠権侵害は構成されません。

<物品が類似しないと判断された事例(平成17年(ネ)第10079号)>
  原告・控訴人意匠(登録第1156116号) 被告・被控訴人意匠
物品 カラビナ ハートカラビナキーチェーン
意匠

例えば、この事件では、物品がそれぞれ「カラビナ」と「ハートカラビナキーチェーン」ですが、「カラビナ」は登山用具であるのに対して、被控訴人意匠の物品はアクセサリーであって、機能および用途が異なるのは明らかであり、一般需要者が取引の場において「カラビナ」と混同するおそれがあるとは認めがたいとし、非類似の物品のため、意匠権侵害を構成しないと判断されました。

物品以外の例

 

以上はいわゆる一般的な物品についての事例ですが、令和元年に意匠法が改正されて、一般的な物品の他に、画像の意匠や建築物・内装の意匠も登録が認められるようになりました。

画像の意匠の場合にも、用途及び機能の類否が判断されます。例えば以下の例では、「数値を入力するもの」である点で共通することから、用途及び機能が類似すると判断されます。

物品 入退室管理用パスワード入力用画像 電話番号入力用画像
意匠

特許庁意匠審査基準より

建築物の意匠、内装の意匠でも同様に用途及び機能で判断されます。
ただし、建築物や内装の場合、人がその内部で一定時間を過ごすかどうかという点が判断基準となるため、以下のように多くの場合でその用途及び機能が類似すると判断される点に注意が必要です。

  判断
建築物の
意匠
「住宅」⇔「病院」⇔レストラン」⇔「オフィス」 人がその内部に入り、一定時間を過ごすという点で、用途及び機能に共通性があるため類似と判断される
「橋りょう」⇔「住宅」 土木構造物は、様々な固有の用途を持つものが存在するため、「住宅」等と類似と判断されない場合がある
内装の
意匠
「住宅用寝室の内装」⇔「ホテル客室の内装」 内部において人が一定時間を過ごすために用いるものであるという点で、用途及び機能に共通性があることが一般的なので、原則全ての内装の意匠の用途及び機能に類似性があると判断される
■ 形態の類否

さて、意匠に係る物品が類似する場合、次に、意匠(形状等)についての類否が検討されます。
意匠(形状等)の類否判断においては、両意匠の構成や、類否判断のポイントとなる要部などの認定がおこなわれ、それらを比較の上で、両者の美感が共通するかどうかで類否が判断されます。

<意匠の形態が類似しないと判断された事例(平成13年(ネ)第5158号)>
  原告・控訴人意匠(登録第1031423号) 被告・被控訴人意匠
物品 両手なべ 両手なべ
意匠

※赤点線は弊所追記

この例では、被告・被控訴人意匠の赤い点線で囲んだ蓋と鍋本体が重なった部分の態様が要部(一見して看者の注意を強く引く特徴的なもの)であり、これが登録意匠と異なるため、非類似の意匠と判断されました。

<意匠の形態が類似すると判断された事例(平成9年(ネ)第404号)>
  原告・被控訴人意匠(登録第766928号) 被告・控訴人意匠
物品 自走式クレーン 自走式クレーン
意匠

※赤字は弊所追記

この例では、ブームとキャビン、下部走行体の配置の関係などが要部であり、これが共通するため、類似の意匠であり、意匠権侵害を構成すると判断されました。
なお、この事件では実施料相当の損害賠償として控訴人に約4億5千万円の支払いを命じる判決が確定しています。
以上より、意匠権の侵害について考える際は、両者の物品が類似するかどうか意匠(形状等)が類似するかどうかについて、慎重な検討が必要になります。

また、意匠を出願する際にも、もし模倣品を実施された場合に、権利行使が可能かどうかを考慮して、物品や権利範囲を検討する必要があります。たとえば、願書に記載する物品名や物品の説明が、実際に使用する製品を十分に言い表しているかどうか、また、図面等で権利化を希望する形状等が明確に表現されているかに注意が必要です。また、広い権利範囲を効果的に取得するためには、部分意匠や関連意匠制度の活用も検討するべきでしょう。

利用関係

なお、全体としての態様が異なる場合でも、両者に利用関係が成立する場合は侵害を構成します。
利用関係とは、例えば部品の意匠と完成品の意匠との関係で、完成品の意匠が部品の意匠をそっくりそのまま取り入れている場合のことです。部品の意匠が他人の登録意匠であれば、完成品を実施するとその他人の意匠権を侵害することになります。

具体的には以下の事件が有名です。

<利用関係が成立すると判断された事例(昭和45年(ワ)507号判決)>
  原告意匠(登録第284774号) 被告意匠
物品 学習机
意匠

※赤記載は弊所追記

両者は全体としては類似とは言えない態様をしていると考えられますが、被告意匠の学習机は、書棚部分(上半分)と机部分(下半分)は一体ではなく区別できるものであり、その机部分(下半分)が、原告の登録意匠と類似すると判断されました。
被告意匠は、登録意匠と類似する机部分を部品としてそっくりそのまま取り入れており、利用関係が成立し、意匠権侵害を構成すると判断されました。

他社製品のデザインを、そのまま自社製品に取り入れて製造・販売等する場合、利用関係が成立する可能性があるため、十分注意が必要です。

間接侵害

直接侵害を構成しない場合でも、侵害する蓋然性が高い行為は侵害とみなされます。
これを間接侵害と言います。

間接侵害にあたるのは、例えば、侵害品を製造する為だけに用いられる製品を製造する行為などです。
また、近年、侵害品を部品に分割して輸入することで、侵害を回避するということが行われておりました。
これに対応するために、侵害品の部品であることを知りながら、それを譲渡・輸入等する行為(意匠法第38条第2号)が、令和元年の意匠法改正により間接侵害の類型として新たに設けられました。

意匠権が侵害された場合の救済

以上、法律上侵害が成立する場合を説明しましたが、意匠権侵害の被害を受けた場合、具体的にどのような請求をすることができるのでしょうか。

差止請求(意匠法第37条)

意匠権侵害をする者に対して、侵害行為をやめたり、予防したり、侵害品を廃棄したりするよう要求する差止請求をすることができます。差止めの類型としては以下のものがあります。

①侵害行為の停止の請求

侵害する者に対して、その行為をやめるように要求することができます。この侵害行為には、上述の直接侵害、間接侵害のいずれも含まれます。

②侵害のおそれのある行為の予防の請求

侵害のおそれのある行為とは、客観的にみて侵害が発生する蓋然性があると認められる具体的な事実が存在する場合であるとされています。

③侵害行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な措置の請求

侵害品の廃棄や、侵害品の製造に利用した設備等の撤去などを求めることができます。なお、③だけを独立して請求することはできません。①または②の請求をする際に付随してすることができます。

損害賠償の請求(民法709条)

意匠権を侵害する者に対しては、その侵害行為によって生じた損害について賠償を請求することができます。
通常、民法709条に基づく損害賠償の請求には、侵害者の故意・過失や、損害額などについて多くの立証が必要となります。

そこで、意匠法では以下のように、損害賠償請求のための立証が容易になるような規定を設けています。

①過失の推定(意匠法第40条)

意匠権を侵害した者は、その侵害行為について過失があったものと推定されます。
侵害者が過失のないことを主張するには、侵害者側がそれを立証しなければなりません。

なお、秘密意匠に係る意匠権の侵害行為については過失の推定規定が働きません。

②損害額の算定規定(意匠法第39条1項~3項)

損害額について、特別な算定規定が設けられています。その規定で算出された額を損害額とすることができる等としています。

信用回復措置請求(意匠法第41条で準用する特許法第106条)

故意又は過失により意匠権を侵害したことにより意匠権者の業務上の信用を害した者に対しては、裁判所は、意匠権者の請求によって、信用を回復するための措置を命じることができます。具体的には侵害者が販売した粗悪品によって、意匠権者の業務上の信頼が害されたと評価できれば、謝罪広告の掲載などの措置を求めることができます。

不当利得返還請求(民法703条)

意匠権が侵害された場合、不当利得返還請求権を行使することができることもあります。

罰則等(意匠法第69条、同第69条の2、同第74条)

意匠法においては意匠権を侵害した者は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する旨が規定されています。また、間接侵害を行った者については、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれの併科となります。法人については、その業務に関して侵害行為を行った場合、その実行者の処罰に加えて、業務主体たる法人にも罰金刑が科されるとする、いわゆる両罰規定がおかれています。

まずはご相談ください
以上、法律上意匠権の侵害が成立する場合と、侵害に対する救済手段について概要をご説明しました。上述の通り、意匠権の侵害となるかどうかについては、慎重な判断が必要となります。

他社が自社の模倣品を販売している場合や、逆に自社製品が他社の意匠権を侵害していないか不安な場合、突然意匠権侵害の警告書を受け取った場合など、まずは弊所へご相談ください。
侵害が成立し得るかどうかや、どういった手段を取り得るかについて、専門家の立場からアドバイスさせていただきます。御見積りは無料です。「お問い合わせフォーム」などからお気軽にお問い合わせください。

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