国内意匠制度

デザイン保護に関する主要な法律

はじめに

意匠法の保護対象は、商品、建築物の外観、内装及び画像のデザインです。これらデザインついては主に意匠法によって保護されることとなりますが、他の知的財産関連の法律(特許法、実用新案法、商標法、著作権法、不正競争防止法)によっても、意匠法にはない側面によって保護される場合があります(下記の『~デザインを守る法律~』を参照)。

デザインについて、意匠法以外の法律による保護の手段があることを理解することで、どの法律に基づいて自己のデザインを保護するのが最適か判断することができます。

~デザインを守る法律~

創作的側面:

  • 特許法
  • 実用新案法
  • 意匠法
  • 著作権法

識別標識的側面:

  • 商標法
  • 不正競争防止法

美的側面:

  • 意匠法
  • 著作権法

意匠法

商品、建築物の外観、内装及び画像のデザインについては、主に意匠法において保護されることになります。それでは、意匠法がその保護の対象としている「意匠」とはなんでしょうか。意匠法2条1項は「意匠」を「物品(物品の部分を含む。以下同じ。) の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)建築物(建築物の部分を含む。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。)であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」と定義しています。つまり、意匠を構成するためには以下の全ての要件を満たさなければなりません。

  1. 物品、建築物又は画像と認められるものであること(以下:物品等性)
  2. 物品等自体の形態等であること(以下:形態性)
  3. 視覚に訴えるものであること(以下:視覚性)
  4. 視覚を通じて美感を起こさせるものであること(以下:審美性)

1. 物品等性

意匠法の対象とする物品とは「有体物のうち、市場で流通する動産」とされております。

※有体物について

有体物であっても気体・液体など、そのもの固有の形態を有しないものや粉状物・粒状物の集合体などの特定の形態を有しないものは物品とは認められません。

ただし、粉状物・粒状物の集合体であっても固定した形態を有するものは物品と認められます。

  • (例)角砂糖

※不動産について

使用時には不動産となるものであっても、工業的に生産され、販売時に動産として取り扱われるものは物品と認められます。

  • (例) 「門」、「組立バンガロー」

※物品の一部について

物品を破壊することなしには分離できない物品の部分については物品とは認められません。

  • (例) 「靴下のかかと」

ただし、完成品の中の一部を構成する部品については物品と認められます。

  • (例) 「自転車のサドル」

意匠法の対象とする建築物とは「土地の定着物であり、人工構造物であること。土木構造物を含む。」とされております。

※建築物について

建築物については、令和元年の意匠法大改正により、新たに保護対象となりました。

意匠法の対象とする画像とは「①物品から離れた画像自体、②物品又は建築物の部分としての画像」いずれかを指すものとされています。

※画像について

令和元年の意匠法改正以前は、物品の操作の用に供される画像を物品の部分の意匠として、あくまでも「物品」の部分としての画像を含む意匠についてのみ、保護対象としてきました。

2. 形態性

形態には、形状のみ、形状と模様の結合、形状と色彩の結合、形状と模様・色彩の結合の4種類が考えられます。また、物品等そのものが有する特徴又は性質から生じる形態でなければいけないため、カップに入ったカフェラテで、泡立てたミルクとコーヒーにより表面に模様を描いたものを「カップ入り飲料」として登録を受けることは出来ません。

なお、販売を目的とした形状であっても、当該形状を維持することができるものについては、物品等自体の形状として取り扱われます。

3. 視覚性

意匠は視覚に訴えるものでなければなりません。肉眼で確認できないような形態の意匠が、当該要件を満たすのかについては、最高裁判所は取引に際して、拡大鏡を用いたり、拡大写真等をカタログに掲載したりするなどして、当該物品の形態を拡大して観察することが通常である場合には、肉眼によって認識できなくとも、当該要件を満たすと判断しております。

4. 審美性

美術品のように高尚な美を要求するものでなく何らかの美感を起こすものであれば足ります。美感を起こさせないものの例としては(イ)機能、作用効果を主目的としたもので、美感をほとんど感じさせないものや(ロ)意匠としてまとまりがなく、煩雑な感じを与えるだけで美感をほとんど感じさせないものがありますが、実務上この要件が問題となることはほとんどありません。

特許法、実用新案法

特許法、実用新案法は、それぞれ「発明」「考案」を保護する法律です。発明・考案(自然法則を利用した技術的思想の創作)の保護と商品の外観のデザイン(美的外観の創作)の保護との関わりは一般的には繋がりにくいとは思いますが、この外観のデザインが特許法による「物の発明」に又は実用新案法における「物品の形状に係る考案」に該当し、さらにはそれぞれの保護の要件を満たす場合には、特許法、実用新案法においても保護されることになります。

意匠法および特許法による重畳的な保護が認められる例

商品を陳列ケースについて、その外観のデザインが全く新しいものであると同時に、外観のデザインによって手前方向に引き出しやすくなるという今までにない機能を有している場合、下記の例のように意匠権、特許権の取得が可能となります。

(株式会社アミックス 意匠登録第1041955-1号)

(株式会社アミックス 特許登録第3022544号)

意匠法による保護が認められず、特許法による保護が認められる例

物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠は意匠法による保護を受けることができません(意匠法第5条第3号)ので、特許法・実用新案法による保護を選択する必要があります。

例えば、パラボラアンテナの反射鏡としての機能を確保するために不可欠な形状のみからなるパラボラアンテナの内側部分のみについて意匠登録を受けることができません。

「衛星放送受信アンテナ用反鏡」

(審査基準)

商標法

商標法は、「自己の商品や役務と他人の商品、役務とを識別するため、事業者がその商品・役務について使用する標章」=「商標」を保護する法律です。

この商標には立体商標と呼ばれる立体的形状から構成される商標もその保護の対象として含まれています。商品の外観のデザインは、この立体商標に該当し、商標法の保護の要件を満たす場合には、商標法によって保護されることになります。ただ、立体商標を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は、商標登録を受けることが出来ない旨が規定されている(商標法第3条第1項第3号)ところ、一般的には立体商標として商標登録を受けることは困難です。

ただし、次の①又は②の場合は商標登録を受けることができます。

①商品の外観のデザイン等を普通に用いられる方法で表示する標章であっても、使用により識別力を獲得した場合

その1

(ザ・コカコーラ・カンパニー 商標登録5225619)

その2

(本田技研工業株式会社 商標登録第5674666号)

②立体的形状そのものが大変特徴的であり、その形状そのものに自他商品・役務識別力が認められる場合

(CHOCOLATERIE GUYLIAN N.V. 国際登録0803104※失効)

上記立体商標の他にデザインが模様であって、商標法の保護の要件を満たす場合にも商標法によって保護されることになります。例えばブランドもののバッグの表面に施されたデザイン自体に識別力がある場合は商標法でも保護される可能性があります。

(ルイヴィトンマルチェ 商標登録第2234425号)

(ルイヴィトンマルチェ 商標登録第2234426号)

(ルイヴィトンマルチェ 意匠登録第1531569号)

著作権法

著作権法においては、著作権法第10条1項4号において著作物の一つとして美術の著作物が規定されています。この美術の著作物は、絵画や陶芸など専ら美術鑑賞の対象とされることを目的とする純粋美術と、実用的な使用を目的とする応用美術に区別され、商品の外観のデザインは、後者、応用美術に区分されることになります。この応用美術の保護については、創作保護の目的を同じくする意匠法とのすみわけの観点により、著作権法においては原則として保護の対象とはしないことにしています。

しかしながら、外観のデザインのその全てが著作権法の保護から外れているわけではなく、純粋美術と同視できる程度に美術鑑賞の対象とされると認められるものは、美術の著作物として著作権法上保護の対象となると解されています。この美術性は一定の美的感覚を備えた一般人を基準に判断され、またその商品の実用性、機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるだけのものでなければなりません。

不正競争防止法

不正競争防止法は2条1項1号において、「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為」と定めています(混同惹起行為)。つまり他人の周知な商品等表示と同一・類似のものを使用し、他人の商品、営業と混同を惹起する行為態様を不正競争として規定しています。そのため、商品の外観のデザインが周知性、自他商品識別力を有する場合にはここでいう商品等表示に該当し、外観のデザインに対する各行為は不正競争とされます。

また、2条1項3号において、「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」を不正競争行為としています(商品形態模倣行為)。商品の外観のデザインは、当該商品が日本国内において最初に販売された日から3年間、模倣行為(他人の商品の形態に依拠して、実質的に同一の商品の形態を作り出すこと(不正競争法第2条第5項))から保護されることとなります。この規定は、意匠権が発生するまでの間又はライフサイクルが短い商品の外観のデザインを保護するために機能します。

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