目次
はじめに
マレーシアで商標権の権利保護を行うときに役立つ情報を、以下に掲載しています。
このページが、お客様が海外で知財保護を行う上での一助となれば幸いです。ぜひお役立てください。
マレーシアにおける商標権
1.商標制度について
(1)商標の定義
マレーシアでは、商標とは、写実的に表示することができる標識であって,ある事業の商品又はサービスを他の事業の商品又はサービスから識別することができるものを意味します(商標法第3条)。 この場合、「標識」とは、「文字、語、名称、署名、数字、図案、ブランド、標題、ラベル、チケット、商品の形状又は包装、色彩、音、匂い、ホログラム、配置、一連の動作又はこれらの組合せ」と定義されています(商標法2条)。
法改正により、非伝統的商標も、保護を受けられるようになりました。
(2)周知著名商標の保護
マレーシアで周知となっている他の権利者の標章と同一または極めて類似する商標で、同一または類似の商品/サービスを指定している場合には、その商標の登録は認められません。
また、マレーシアにおいて登録されている周知商標と同一又は類似の商標について、異なる商品/サービスを指定する場合で、以下の時には、当該商標の登録は認められません。(商標法第24条(3)(b))
- 出願商標が使用された商品等と周知商標の所有者との間に関連性が示唆され、
かつ - 周知商標の所有者の利益が害される可能性がある時
その他、第三者が、パリ条約及びTRIPS協定によって保護されている周知商標と同一または類似する商標を、同一または類似する商品等に使用していて、それによって誤認又は混同を生じさせるおそれがある場合、その周知商標の所有者は、差し止め命令により第三者の使用を阻止することができます。
(3)出願ルート
マレーシアは、2019年にマドリッド協定議定書に加盟しました。
それまでは、マレーシア知的財産庁(MyIPO)に直接出願する方法しかありませんでしたが、これ以降、国際登録出願(マドプロ出願)でマレーシアを指定国とすることが可能となりました。
2.出願から登録まで
(1)存続期間
登録日から10年間(更新可)
(2)出願制度
- 1出願多区分制を採用しています。
⇒以前は1出願1区分制でしたが、2019年の法改正により、複数の区分を1つの出願で指定することができるようになりました。 - 出願費用は、区分数で判断されます。
(3)出願書類
- 願書
- 商標を使用する商品又はサービスのリスト
- 商標見本
- 委任状
- 優先権証明書(優先権を主張する場合)
- 出願商標にローマ字・英語・マレー語以外の文字を含む場合には、①翻字、②翻訳、③音訳の情報が必要(商標法第17条(3))
- 手続言語は英語又はマレー語です。
- 従来提出が求められていた「宣誓書」は、法改正により不要となりました。
(4)審査
- 出願後、方式審査および実体審査が行われます。
- 拒絶理由通知を受領した場合には、2ヶ月以内に応答をする必要があります。
- 拒絶理由への応答・反論(商標法第29条(5)(a)反論 (b,c)書面の修正・追加)の内容が受け入れられなかった場合には、拒絶査定がなされます。
- 以前は、審査官への反論の機会は2回認められていましたが、法改正により1回のみとなりました。 反論後の審査官の判断に不服がある場合には、高等裁判所への出訴することになります。
(5)審判制度
- 拒絶決定に対する不服申立制度(商標法第29条)
- 出訴期間:決定・各判決日から1月以内
- 無効審判制度(商標法第47条)
- 出訴期間:各判決日から1ヶ月以内
- 除斥期間:登録から5年 ⇒法改正により、7年から5年に短縮されました
- 取消審判制度(商標法第46条)
- 対象となる商標:
- 登録後継続して3年間、マレーシアにおいて、理由なく使用されていないもの
- 登録権者の作為・不作為に関わらず、取引において一般名称になってしまったもの
- 使用によって、当該商品又は役務の性質・品質・出所に関して誤解のおそれがあるもの
(6)異議申立制度
- 異議の申立期間:公告から2ヶ月以内
- 異議申立に対する答弁書の提出期間:異議申立通知の受領日から2ヶ月以内
- 異議申立に対して答弁書を提出しなかった場合、出願は取り下げられたものと見なされてしまう点に、注意が必要です(商標法第35条(4))。
- 異議申立の結果、商標登録が取り消されることとなった場合、決定を受けた日から1ヶ月以内に、裁判所に不服の訴えを提起することができます。
(7)特殊な制度
- 早期審査制度(商標規則 規則8)
- 出願日から4ヶ月以内に請求が可能です。
- 出願から1ヶ月以内に早期審査の承認申請を行った場合、最短で出願日から7ヶ月程度で登録できます。
(早期審査制度を利用しない、通常の出願の場合には、出願日から12ヶ月~18ヶ月程度で最初のOffice Actionが発行されます。)
- 同意書制度(商標法第24条(7))
- 出願した商標が、他人の登録商標と同一または類似関係にある場合、出願商標を登録することに先行商標権者が同意する旨を記載した書面(=同意書)を知的財産庁に提出して、審査官に拒絶理由を撤回するよう求めることができます。
- ただし、審査官は、同意書に拘束されません。そのため、公衆における混同があると審査官が判断した場合には、商標出願は拒絶されます。
- 権利不要求(ディスクレーム)制度(商標法第30条)
- 商標のある部分が識別力を有さない場合などに、商標登録の条件として、権利不要求(ディスクレーム)の申請をすることを登録官に要求される場合があります。
(8)登録
- 登録が認められると、登録官のシールが貼られた登録通知が発行されます。
- 登録証の発行を希望する場合は、登録官への申請と手数料の納付が必要です。
- 登録料は出願料に含まれており、別途の支払いは不要です。
3.権利侵害への対処
マレーシアにおいて、商標権の侵害とは、「商標登録の権利者または登録した使用者の同意を得ないで、登録商標の指定商品/サービスに類似する商品またはサービスに関して、同一または類似する標章を業として使用する行為、または一定の準備行為」のことをいいます。(商標法第54条)
商標権侵害への対処法としては、以下のものがあります。
民事的救済措置(商標法第56条~)
- 商標権者は侵害品の恒久的差止め命令、侵害品の引渡し、損害賠償、証拠や情報の開示、費用の償還を求めることができます。
- マレーシアは三審制を採用しています。商標権の侵害訴訟は、通常、高等裁判所への提訴から始まります。その上訴は控訴裁判所、控訴裁判所の上訴は連邦裁判所に提訴することになります。
刑事的措置
- 改正法(Trademark Act 2019)の下、刑罰規定が新設されました。(商標法第15部、第16部)
- 知的財産権侵害に対する行政処分としては、「国内取引・協同組合・消費者保護省」の法務執行部門(MDTCC)および税関による取締りと、それに引き続く刑事告訴があります。
- 正規の製造業者により製造されたものではない商品への特定の商標・商号等の使用は、取引表示法上、虚偽取引表示に相当すると宣言することができます。
取引表示命令の申請が認められると、刑事告訴での依拠文書としての効果が生じます。
税関での取締り(水際措置)
マレーシアでは、特許や商標等の知的財産権を税関に登録して、権利侵害の疑いがある貨物が国内に持ち込まれた際に権利者に通知するというような制度は、まだ整備されていません。
そのため、知的財産の権利者は、個別の侵害案件を事前に把握し、輸入貨物の詳細な情報を税関に申請することで、検査と差止による保護を受けることができるシステムとなっています。
4.条約
主な条約への加盟状況は以下の通りです。
パリ条約 | WTO協定 | 商標法条約 | マドプロ | ニース協定 |
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加盟 | 加盟 | 加盟 | 加盟 | 未加盟* |
*ニース協定のメンバー国ではありませんが、審査においてはニース分類を採用しています。