-令和5年(行ケ)第10008号 審決取消請求事件(2023年6月12日)-
【原告】大成建設㈱,㈱隈研吾建築都市設計事務所
【被告:本件意匠の権利者】小林瓦工業㈱,碧南窯業㈱,㈱神仲
目次
判決要旨
概要
無効審判(無効2021-880006)にて登録が維持された本件意匠(意匠登録第1663938号)について、「本件パンフレット等」記載の模様瓦の意匠と類似するとして審決が取消された事例。
前提事実
原告設計事務所が石垣市新庁舎の建設工事の設計を受注したことを受けて、被告小林瓦と原告設計事務所は瓦の施工に関して2016年8月頃から関係を持つようになった。
被告小林瓦は、本件意匠出願に係る新規性喪失の例外証明書記載の公開事実である新庁舎基本設計説明会(2017年2月19日)より前の2月16日に、原告設計事務所へ「本件パンフレット等」(※参考)を交付している。
本件意匠:正面視した参考斜視図
※参考:関連する判決(令和5(行ケ)10007)の別紙資料から引用した模様瓦の意匠
両意匠の類否について、無効審判(無効2021-880006)では、需要者を屋根工事を行う建設業者等や屋根工事の施主としたものの、建設業者等が重視する美観の観点に着目し、正面から見た形態のみならず、全方向から見た瓦の各部の形状を評価したのに対し、本判決では、施主も重要な需要者と認定し、施工後に施主が重視する美観の観点を考慮した判断がなされた。
その上で、「本件意匠と本件模様瓦の意匠とで最も異なる具体的構成[コ字状のラインの模様の部分が男瓦表面の他の部分から僅かに段差状に隆起している]部分は、瓦全体からみると隆起による差異はごくわずかであり、特に瓦屋根の施工後においては、その隆起の程度も屋根全体からみて相対的に小さいことから、コ字状のラインの模様には需要者の注意がいくものの、その隆起の程度にまでは注意がいくものとは認め難い。」と評価され、両意匠は類似するとされた。
別の争点として、被告小林瓦が原告設計事務所に対して出願前に送付した本件パンフレット等が秘密情報に該当するかどうかが争われた。
秘密保持義務について
ある意匠が他の者に知られた場合であっても、その者が秘密保持義務を負っていると認められる場合には、意匠法3条1項1号の「公然知られた」ということはできないが、秘密保持義務があるといえるためには、必ずしも明示の契約によることは必要ではなく、当事者間の関係や対象となる事項の性質・内容などに照らして、社会通念上秘密にすることが求められる状況にあり、当事者がそのことを認識することができれば、秘密保持義務があるということができるものと解される。
本事案における判断
・本件パンフレットは広告・販売のための一般的なパンフレットといっても差し支えなく、受領した者において、それが内部的なもので秘密保持義務を有することを、明示的な説明なく認識することは困難であったというべき。
被告小林瓦は、本件パンフレット等の交付と証明書記載の公開行為とが密接な関係があり実質的に同一の行為であることを主張したが、本判決では異なる行為として認定されている。
以上から本件パンフレット等は秘密情報に該当しないことから公知意匠に該当することになる。そのため、本判決では、本件パンフレット等記載の模様瓦の意匠を公知意匠として、本件意匠との類否判断が行われた。
弊所コメント
類否判断について
意匠の類否判断では、需要者をどのように捉えるかによって、美観の観点が異なるケースがあり、類否判断に大きな影響を与える可能性があることに留意して対応を検討すべき。
秘密保持義務について
意匠登録出願前に、開発中の試作品に関する情報等を取引先に開示する場合、事前の秘密保持契約締結が望ましいが、困難な場合は、秘密にすることを求める記載等の対応を検討すべき。
まとめ
令和5年の不正競争防止法等の一部改正に伴い、意匠法第4条が改正され、最先の公開についての証明書に基づき、それ以後に意匠登録を受ける権利を有する者等の行為に起因して公開された同一又は類似の意匠についても新規性喪失の例外規定の適用が受けられることとなったが、証明書記載の公開日より前に公開された意匠が存在するケースでは、先に公開された意匠が公知意匠として扱われる点に注意が必要である。