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US判例:非自明性に係る拒絶理由にどのように対応すべきかについて参考となる判例

INSITUFORM TECHNOLOGIES, INC., v. CAT CONTRACTING, INC.(CAFC No. 04-1267

弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
平成18年02月06日
(文責:新 井)

 

はじめに

 米国特許出願のOAにおいて、複数の引用文献を組み合わせる動機付けを示唆する記載が引用文献中にない場合、審査官はPrima Facie Caseを確立することはできません。このような場合、「引用文献には組み合わせの動機付けがない」、「引用文献は本願発明の技術内容から遠ざかることを教示している(teach away)」、または「引用文献には発明の構成の重要性が開示されていない」との反論が有効です。この際、どのようなことに留意すればよいかを示すのが本判例です。

 

簡単な経過説明

 本件特許の独立クレームは、(a) 開放された靴底の周囲、(b) 靴底に形成された6角形の突起(projection)、および(c) 上記6角形は1辺がつま先を向いている旨、構成要件として文言していました。

審査段階において、本件特許(USP 4,366,012)のクレーム発明は、周囲が開放された靴底に4角形の突起を1辺がつま先を向くように配した構成を教示する引用文献と、6角形の突起を1辺がつま先を向くように配した構成を示すデザイン特許との組み合わせに対して非自明性の特許要件を具備していない旨、審査官によって認定されました。これに対して、特許権者は、上記認定を不服とし審判を請求しました。Boad of Appealは審査官の拒絶理由を無効とし、非自明性に係る新たな拒絶理由を示しました。これを不服とし、特許権者は、CAFCに控訴しました。

 

CAFCによる確認事項

CAFCでの争点は、審査官の挙示した上記引用文献と、上記デザイン特許との教示内容との組み合わせにより、本件特許のクレーム発明の要旨が、当業者に自明であったか否かでした。これに対して、CAFCは、実体的な証拠がない限り審判部の決定を支持する旨、確認しました。この際、非自明性の判断基準となる事実認定は、引用文献が教示する技術または逆に本件特許発明から遠ざかる教示内容の有無や、引用文献中に複数の従来技術を組み合わせる動機付けの示唆の有無が重要であり、その他に、引用文献に教示されている従来技術の内容と範囲、従来技術のレベル、発明と従来技術の差異、Prima Facie Caseを確立する客観的な証拠等があることが確認されました。

複数の引用文献を組み合わせることが望ましい旨の示唆等が引用文献中に記載されていることが必要であり、この動機付けが、解決しようとしている課題の性質、関連する従来技術の教示内容、当業者の通常の知識等を勘案して判断される旨も確認されました。

 

結 論

本件においては、引用文献中に組み合わせを動機付けを示唆する記載があったとの理由で、Boad of Appealの決定がCAFCによって支持されました。

本件において、特許権者は、審判部が、組み合わせの動機付けの実体的証拠を示していない旨を開陳し、その根拠として、上記デザイン特許の6角形の突起が、引用文献に教示された他の構成より良い旨が記載されていないので、引用文献に教示された4角形の突起が配された構成とデザイン特許に示された6角形の突起が配された構成とを組み合わせる動機は存在しない旨、開陳しました。

これに対し、CAFCは、組み合わせの動機付けを立証するために、当該組み合わせが好適である等の記載は不要であり、重要なことは、引用文献が全体として上記組み合わせの好適を示しているか否かである。当該組み合わせが最も好ましい組み合わせであることが示されている必要はない旨、CAFCは判示しました。

CAFCは、In re Gurleyを引用し、たとえ組み合わせが他のものよりも好適でない旨が引用文献中に記載されていたとしても、組み合わせの動機付けを否定したことにはならない旨、判示しました。

CAFCは、本件特許明細書には、4角形の突起を配した構成が教示されているが、その形状は、正方形、三角形、または長方形以外の多角形でもよいことが記載されているので、他の形状との組み合わせの動機付けが記載されていると言える。したがって、この教示内容と、デザイン特許に示された6角形の突起を配した構成とを組み合わせることにより、本件特許発明が非自明性の特許要件を具備していない旨、CAFCは認定しました。

特許権者は、また、引用文献には、本願発明の特定の組み合わせから遠ざかることが記載されている旨、開陳しました。具体的には、引用文献は上記3つの構成要件を別なものに置き換えた構成を教示しているので、本件特許発明以外の組み合わせの構成を選択していることになり、それゆえ、本件特許発明から遠ざかることを教示している旨、開陳しました。

これに対して、CAFCは、単に他の組み合わせが引用文献中に記載されているからといって、必ずしも本件特許発明から遠ざかることを意味しない旨、判示しました。本件特許発明から遠ざかることを立証するためには、引用文献中に、本件特許発明の構成を批判したり、疑ったり、あるいは本件特許発明の構成に到達することに水を差す記載があることが必要である旨、判示しました。本ケースにおいては、このように遠ざかることを立証する記載がない旨、CAFCは認定しました。

更に、本件特許権者は、引用文献中に本件特許発明の構成の重要性を示す記載がない旨、開陳しました。本件特許発明において特に重要な構成は、接地面に対する滑り止めを実現するために、6角形の1辺がつま先を向くように6角形の突起を配することにあるが、このような重要な構成が挙示された引用文献中には教示されていないので、上記組み合わせの動機付けを当業者に付与するものではない旨、開陳しました。

これに対してCAFCは、必要とされるのは、引用文献中に組み合わせの動機付けが記載されていることであり、組み合わせる理由が本件特許発明と同じである必要はない旨、判示しました。加えて、審判部が挙示した引用文献中には特許権者が主張する滑り止めの効果が実際に記載されているとして、特許権者の言い分を退けました。

非自明性に係る拒絶理由に対して、引用文献中に本件特許発明の構成が好適である旨の記載がないので、本件特許の組み合わせを動機付けるとは言えないとの反論を行うことがあります。しかしながら、この反論は適切ではありません。CAFCは、組み合わせの動機付けに好適、または最適であることを教示または示唆する必要はない旨、判示しています。つまり、CAFCは、本件特許発明の組み合わせを明確に批判等していない限り、その組み合わせによる効果に関係なく、引用文献にその組み合わせが示唆されていれば組み合わせの動機付けとなり得ることを判示しています。

特許権者は、引用文献には本件特許発明の上記3つの構成要件を別なものに置き換えた構成が開示されているだけであり、しかも多くの組み合わせの中から本件特許発明の組み合わせ以外の構成を選んでいるので、本件発明の特定の組み合わせから遠ざかることを教示している(teaching away)ことになる旨、開陳しました。

これに対し、CAFCは、特定の組み合わせを明確に批判等していない限り、本件特許発明から遠ざかる(teaching away)ことを教示していることにはならない旨、判示しました。つまり、CAFCは、組み合わせの動機付けが開示されているかどうかが重要であり、組み合わせの理由は重要でないことを明確にしています

 

以 上

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