アラブ首長国連邦(UAE)

アラブ首長国連邦(以下「UAE」)の概要

UAEは、アラビア湾岸に位置する産油国であり、人口は約1,108万人(2020年)、GDPは約4,211億ドル(2019年)である。その国名は、アブダビ、ドバイなどの7つの首長国からなることに基づく。UAEは、アラビア湾沿岸地域における地域協力機構である湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council、以下「GCC」)の加盟国でもある。

主要産業は石油および天然ガスであるが、近年は例えばドバイに代表されるように、観光・金融などにも注力している他、太陽光発電など、石油に代わる産業の創出にも力を入れている。主な輸出品は石油、天然ガス、金属類であり、その最大の輸出国は日本である。

UAEの国土は日本の約20%程度であるが、世界第5位の石油埋蔵量を有する。また、国民一人当たりのGDPは約4.3万ドル(2019年)、国民一人当たりの所得は世界トップクラスという富裕国であり、その市場は先進国並みであることから、投資対象としての注目度は高い。

 

UAEの知的財産制度の概要

2021年5月31日に「産業財産権の規制と保護に関する2021年連邦法律第11号」が公布され、特許、実用新案および意匠はこれにより保護されるようになった。新法第45条により、意匠の保護期間は出願日から起算して20年に延長された(旧法による保護期間は10年)。また、商標は2021年連邦法第36号商標法(以下「商標法」)によって保護される。

2023年8月1日に、知的財産に関する機能を強化するため、「イノベーション部・産業財産権部」、「商標部」および「著作権・著作隣接権部」が統合され、知的財産部が創設された。

 

UAEの知的財産制度について、各法域に共通する事項を表1に示す。

【表1】

  特許 実用新案 意匠 商標
現地代理人の必要性
出願言語 アラビア語
実体審査
審査請求 なし なし なし なし
存続期間 出願日から20年 出願日から10年 出願日から20年 出願日から10年
(更新可)
異議申立 あり
無効審判 あり

 

 

 

特許制度

出願人適格

発明者およびその承継人が出願人となりうる。

 

出願書類、言語

特許出願はアラビア語で行う必要があり、明細書、クレーム、図面および要約の英訳を添付する必要がある。

委任状、譲渡証、登記簿謄本、優先権証明書を、出願日から90日以内に提出する必要がある。提出期間の延長は不可。施行規則19条(6)の発効により、委任状、譲渡証、登記簿謄本などの必要書類すべてにつき、領事認証は不要となった。

包括委任状制度はない。

出願に必要な書類は以下のとおり。

  • ①願書
  • ②明細書、クレーム、必要な図面、要約(アラビア語および英語)
  • ③委任状(当事者の署名、公証のみで可、領事認証は不要)
  • ④譲渡証(当事者の署名、公証のみで可、領事認証は不要)
  • ⑤優先権証明書(出願日から90日以内。英訳のみで可)

・クレームの形式に制限はなく、ジェプソン形式、マーカッシュ形式等、いずれでもよい。クレームの従属形式に関する規定はない。クレーム数の上限は50。

・出願には単一の発明、または、単一の発明概念を構成するような相互に関係する複数の発明が含まれる必要がある。単一性違反は無効理由とはならない。

・毎年1~3月の間に出願維持年金の支払が必要。期間を徒過した場合、4~6月に、追加料金と共に支払可能。

・開庁日は日曜日~木曜日である。ラマダン時の労働時間の短縮、突然定められる祝日等の制約があるため、早め早めの対応が望ましい。

 

出願ルート

UAEはパリ条約の同盟国であり、PCT締約国である。また、GCC加盟国である。よって、特許出願について優先権主張出願を行う場合、

  • ①パリルートを利用してUAEに出願すること、
  • ②パリルートを利用してGCCへ出願すること、
    または
  • ③PCT出願においてUAEを指定すること、

により保護を求めることができる。

注)GCC特許庁は、2021年1月6日、新規特許出願の受付を停止する旨を発表した。2023年1月1日にクウェートおよびバーレーン、2023年7月1日からカタールについて、特許出願の受付および審査を再開したが、UAEについては上記②の利用はできなくなっており、パリルートでの直接出願、またはPCTルートによって権利化を図る必要が生じている。GCC係属中の出願については、審査が継続される。

UAEが、特許出願の受付、審査、特許付与の全部または一部をGCC特許庁に要請した場合は、②が利用できることになる。ただし、UAEではGCC特許の執行細則が定められていないため、いずれにしても、①、③の方が有用であると考えられる。①、③の場合、UAEを構成する全ての首長国に特許権の効力が及ぶ。現時点では、前記要請の有無は不明。

PCT出願の国内移行期限は優先日から30月である。徒過した場合の救済措置はない。

 

出願から登録までの流れ

①方式審査、実体審査

 方式要件を満たしていれば、審査手数料の支払いを要件として、実体審査が行われる。審査手数料は、出願日または国内移行日から90日以内に審査手数料を支払う必要があり、支払わない場合、出願は取り下げ擬制となる。
 方式審査はUAE産業財産権部にて行われる。実体審査は韓国特許庁の援助の下に行われている。
 1st OAまでの期間は、出願日から平均約2年、査定までの平均期間は出願日から約5年。
 「産業財産権の規制と保護に関する2021年連邦法律第11号」により、優先審査制度が導入された(法14条、施行規則38条)。出願人の申請または監督官庁の職権により、緊急性のある特許出願および実用新案出願の審査が優先してなされ得る。
 先願主義を採用する(施行規則18条)。

②出願公開

出願人から請求があった場合、出願日から18か月経過時またはそれ以前に、特許出願の全部または一部が公開される(施行規則32条)。

③特許要件

・新規性、進歩性
先行技術によって予期されない場合は新規性ありとされる(特許法規則第2条)。地理的要件は、国内・国外を問わない。
関連する先行技術に関して、当業者にとって自明でない場合、進歩性ありとされる(特許法規則第2条)。

・新規性喪失の例外
発明者または発明者から直接的または間接的に情報を入手した第三者が発明を開示した場合、その開示日から12か月以内に特許出願を行うことにより、前記発明は新規性を失わない(法第5条(4)、施行規則17条)。

・不特許事由
以下のものは特許を受けることができない。

(i)植物及び動物品種並びにこれを生産するための本質的に生物学的な方法。
ただし、微生物学的方法またはその産物を除く。
(ii)診断、治療並びに外科手術による人及び動物の治療方法。
(iii)科学的原理、発見および数学的方法。
(iv)精神的活動、ゲームまたはビジネスを行うための仕組み、計画、ルールおよび方法。
(v)公序良俗に反する発明

④補正

 審査着手前まではいつでも可。審査着手後は拒絶理由通知応答時に可。新規事項の追加不可。

⑤分割出願・出願の変更

 複数の発明を包含する特許出願について、分割出願することができる(法第16条、施行規則第29条)。複数の分割出願も可。
 また、実用新案登録出願から特許出願への出願変更が可能。特許出願から実用新案登録出願への出願変更も可。原出願は取下げ擬制される。

⑥拒絶理由に対する応答

 登録要件を満たさないと判断された場合、出願人に補正の機会が与えられる。拒絶査定に対しては、出願人がその旨の通知を受けた日から60日以内に特許庁審判委員会に審判請求をすることができる(特許法第12条)。

アラビア語での応答が必要であるため、通常、日本語→英語→アラビア語への翻訳が必要となる。現地代理人へは早めに指示することが望ましい。

出願日から1st OA受領までの平均期間は約2年、特許査定までの平均期間は約5年である。

⑦特許権の存続期間

出願日から20年である。存続期間の延長制度はない。

⑧特許付与後の再審査

 特許付与が行われると、特許公報において公開される。登録された特許が施行規則第39条(1)の(a)~(j)のいずれかを満たさないことを理由として、何人も、前記公開から90日以内に、特許付与後の再審査を請求することができ、特許の全部または一部の取消を求めることができる(施行規則第42条)。再審査は、3名以上の審査官の合議体によってなされる。
 再審査の利害関係人は、決定が通知された日から60日以内に、不服審査委員会に対し、当該決定の無効を求めることができる。

⑨第三者による情報提供制度

制度が存在しないため、不可。

⑩訂正審判

制度が存在しないため、不可。

⑪実施義務

特許付与日から少なくとも3年間、発明が実施されない場合、または実施が不十分である場合、利害関係人の申請により、強制実施権付与の対象となりうる。

⑫実施行為

以下の行為が実施行為とされ、正当権原のない者の実施は特許権侵害となる。

a. 物の発明については、物を生産し、使用し、販売の申し出を行い、販売し、または輸入する行為。

b. 工業的方法の発明については、当該方法の使用、当該方法から直接的に得られた物の使用、当該物の販売の申し出、当該物の販売、またはこれらを目的として輸入する行為。

c.特許権侵害に対しては、3か月以上2年以下の自由刑、または、5000AED以上10万AED以下の罰金刑が科される。

 

 

実用新案制度

実用新案は、「産業上実用性があるが、特許を取得できるほど発明的または創造的ではない発明に与えられる保護」であると定義されている。

進歩性について特許ほど高い水準は求められないが、実用新案についても実体審査が行われる点が日本と異なる。

実用新案権の存続期間は、出願日から10年である。

クレーム数の上限は10。

その他については、特許制度が準用される。

 

 

意匠制度

意匠は、「特別な外観を示し、工業製品又は手工芸品のための模様としての機能を果たす線または色彩の任意の構成またはこれらの特徴の任意の組合せ」と定義されており、立体的形状も「モデル」として保護される(特許法第1条)。以下、意匠とモデルとを併せて「意匠」と称する。

以下、UAEの意匠制度を概説する。特許と共通する事項については省略した。

出願書類・言語

新規性説明書および意匠の表示(アラビア語および英語)を添付した登録願書を提出する。

 

出願ルート

GCCでは特許出願しか扱っていないため、優先権を主張する場合、パリルートを利用してUAEへ出願することになる。優先期間は6ヶ月。

 

出願から登録までの流れ

①実体審査

実体審査は行われない。方式要件を満たせば、保護の決定がなされ、所定の手数料を納付すると公告される(特許法第48条)。後述する異議申立が行われない場合、あるいは申立理由がない場合、登録証が送達される。登録表示は不要。

保護期間は出願日から20年である(特許法第49条)。

②意匠に特有の制度

部分意匠制度、関連意匠制度、組物の意匠制度、秘密意匠制度のいずれも存在しない。

③不登録事由

革新的または新規ではない意匠、公序良俗に反する意匠は登録されない(特許法第47条)。

④異議申立、無効審判

付与前異議申立制度が存在する。利害関係人は、意匠の保護を付与する決定に対し、公告日から60日以内に異議申立を行うことができる(特許法第48条)。
利害関係人は、裁判所に対して無効審判を請求することができる(特許法第34条準用)。

⑤実施行為

特許における物の発明の場合と同様である。

 

 

 

商標制度

以下、UAEの商標制度を概説する。特許と共通する事項については省略した。

 

出願人適格(商標法第6条)

自然人および法人が出願人適格を有する。

 

保護対象(商標法第2条)

名称、語句、署名、文字、数字、図面、記号、住所、品質証明、刻印、絵柄、装飾、包装、その他の標章、これらの組合せ、立体商標、単色の商標、ホログラム商標、音商標、匂いの商標

商標に付随する音声が商標の構成要素であるとみなされる。

商品商標、役務商標とも認められる。

地理的表示についても保護される。

 

出願書類、言語

願書に、書誌的事項の他、登録を求める商標の複製、登録を求める商標の簡単な説明、商品または役務およびその区分などを記載する(商標法施行規則第5条)。

特定の色彩(または色彩の組合せ)を指定しなかった場合には、あらゆる色彩について、商標が登録されたものとみなされる。

出願言語はアラビア語。標章に外国語の語句が含まれる場合には、願書に公式なアラビア語訳を添付要。

マルチクラス出願(一出願多区分制)を認めている。
2021年12月8日付で発行した新たな連邦法に従い、UAEはニース協定の締約国となったため、商品および役務の分類はニース協定の分類に準拠して行っている。但し、いかなる区分に属するものであっても、アルコール飲料に関係する商標は登録されない。

団体商標の登録も認められる。

特許と異なり、委任状(署名・領事認証要)は出願時に必要である。また、優先権証明書は出願日から3ヶ月以内に提出する必要がある。さらに、世界的に著名な商標の出願に関しては、当該著名商標の所有者の同意が必要である。

 

出願ルート

パリルートによって優先権主張出願を行うことができる。また、UAEは2021年9月よりマドリッド協定議定書へ加盟しており、同年12月より発効予定である。

 

出願から登録までの流れ

①出願公開

制度がないため、行われない。

②実体審査

審査請求制度はない。主な不登録事由は下記のとおりである(商標法第3条、第10条)。

  • (i)識別力を欠く商標
  • (ii)公序良俗に反する商標
  • (iii)商品・役務の出所混同をもたらす可能性のある地理的名称
  • (iv)商品・役務の出所/原産地に関して、公衆を誤らせ、または、虚偽の情報を含む
    標章、並びに、架空の、模倣された、または、偽造された商号を含む標章
  • (v)登録されれば、当該標章によって識別される商品と類似商品の素性について消費者に
    混同をもたらす場合、周知の標章または登録済の他の標章の翻訳となるような標章
  • (vi)自国又は外国の紋章又は通貨を組み込んだ標章
    → ★2002年法改正以前は登録可能であった。
  • (vii)同一商品・役務についての既登録商標と同一・類似の商標は登録できない。
    また、この既登録商標と異なる商品・役務に用いるものであっても、その使用が、その商品・役務と商標権者との関連性を示すか、商標権者の利益を損なうおそれがある場合、登録できない。

③外国周知商標の保護

国際的な周知商標は、本来の所有者(またはその代理人)によって登録が請求された場合以外、登録できない(商標法第4条)。

以下のいずれかに該当する場合、周知商標が登録されている商品・役務と非同一・非類似の商品・役務についても、登録は認められない。

a) その商標の使用が、登録商標の指定商品及び役務との関連性を示しかねない場合。
b) 当該使用により、登録商標の所有者の利益が損なわれるおそれがある場合。

④オフィスアクション

出願が登録要件を満たす場合、出願日から30日以内に商標登録にかかる決定がなされる(商標法第11条)。
商標部は、通常の場合、出願日から6~8週間以内に予備審査報告を行う。当該報告を1回または複数回行った後に、その標章を拒絶、許可、または条件付きで許可する決定を行う場合もある。
拒絶の決定に対しては、30日以内に委員会へ不服申立を行うことができる(商標法第12条)。

⑤商標権の発生・存続期間・異議申立

出願が承認されると、本省は商標の登録に先立って、出願人の費用負担によって、公報およびUAEで発行されているアラビア語の日刊紙2紙で商標を公告する(商標法第14条)。

利害関係人は、最後に公告された日から30日以内に異議申立を行うことができる。
異議申立期間が短いので注意が必要である

商標が登録されたとき、登録の効果は出願日に遡って生じる(商標法第16条)。

存続期間は出願日から10年。申請により、10年単位で繰り返し無制限に新たな審査なしに更新できる(商標法第19条)。存続期間満了前1年以内に更新申請が必要であるが、3ヶ月のグレースピリオドが認められている。

※2019年7月頃より、更新庁費用が大幅に減額されている。(1区分AED10,000 (USD2,725) →AED6,700 (USD 1,825))
UAEの発表によると、統計上2021年1月~4月の4ヶ月で約2600件の商標が更新登録された

防護標章制度は存在しない。

⑥取消審判

過誤登録については、利害関係人は商標登録を取り消すための裁判所命令を求めることができる(商標法第21条)。

登録商標が連続して5年間使用されなかったことが証明されたとき、利害関係人からの請求に応じて、管轄権を有する民事法廷は商標登録の取消を命ずることができる(商標法第22条)。

⑦商標権侵害等

以下の者は、拘禁刑及び5,000AED 以上の罰金又はそのいずれかにより罰せられる(商標法第37条)。

  • 公衆を誤認させるために登録商標を模倣又は模造する一切の者並びに模倣商標または模造商標を不正に使用する者。
  • 別な者に帰属する登録商標を自らの製品に悪意で使用する一切の者又は当該商標を不法に使用する一切の者。
  • 模倣された、模造された、もしくは不法な商標を付した製品を、故意に販売もしくはその販売を申し出もしくは頒布し、あるいは、販売する意図を有する者。
  • 模倣された、模造された、もしくは不法に使用されている商標の下で、故意に役務を提供し、もしくは提供することを申し出る者。
    ★商標の模倣に対する行政的な救済措置が利用できるのはアブダビ、シャルジャおよびドバイの各首長国のみ。他の4つの首長国では今のところ利用できないので要注意である。
  • ドバイ税関2023年における知財紛争件数は約333件、1500万点以上の模倣品をを押収(総額約29億5千万円)。

 

 

参考文献

①特許庁委託 ジェトロ知的財産権情報 模倣対策マニュアル 中東編(2009年3月、JETRO)
②ロシア、中南米及び中東における知的財産権制度及びその運用状況に関する調査研究報告書(平成22年3月、社団法人 日本国際知的財産保護協会)
③社団法人発明協会 外国産業財産権侵害対策等支援事業 世界の産業財産権制度および産業財産権侵害対策
概要ミニガイド:http://iprsupport-jpo.go.jp/miniguide/pdf/Arab.html
④中東諸国における特許・実用新案・意匠・商標の審査運用の実態および審査基準・審査マニュアルに関する調査研究 報告書(一般社団法人 日本国際知的財産協会)
⑤Emirates News Agency 2021/5/4付ニュース(2021/9/22参照):https://wam.ae/en/details/1395302932416
⑥中東知的財産ニュースレター Vol.56(2021年9月、JETRO)
⑦【中東IP情報】アラブ首長国連邦(UAE)がマドリッド協定議定書に加盟(2021年9月29日、ジェトロ・ドバイ事務所)
⑧中東知的財産ニュースレターVol.60(2022年1月、JETRO)
⑨中東知的財産ニュースレターVol.83(2024年2月、JETRO)

 

 

弁理士 アドバイザー  松村 一城


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