目次
オーストラリアの知的財産権法の概要
所管庁
オーストラリア知的財産局(IP Australia)
オーストラリア連邦政府の産業省に所属し、特許、意匠、商標、植物繁殖権を所管しています。
オーストラリアが加盟している産業財産権関連の条約等
- パリ条約
- ベルヌ条約
- 特許協力条約(PCT)
- WIPO設立条約(WIPO条約)
- 微生物の寄託の国際承認に関するブタペスト条約(Budapest Treaty)
- 世界貿易機関設立協定(WTO)
- 外国公文書領事認証免除に関するヘーグ協定(Hague Agreement)
- 植物新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)
- 標章の登録の為の商品及びサービスの国際分類に関するニース協定(Nice Agreement)
- 商標法条約(Trademark Law Treaty)
- 標章の国際登録に関するマドリッド協定の議定書(Madrid Protocol)
特許
オーストラリアにおける特許出願の70%以上はPCT出願の国内移行によるものです。オーストラリア国内の年間出願件数を国別にみると、アメリカからの出願が一番多く(11,378件)、次いでオーストラリア(2,627)、日本(1,746)となっています(2012年 IP Australia)。
(IP Australia 2012年統計より)
特許の種類
オーストラリア特許には以下の2種類があります。
1.標準特許(Standard patent)
標準特許は、より複雑な先進技術に係る発明の保護に適しています。
2.追加特許(Patents of Addition)
追加特許は、“主発明”に係る特許(主特許)が出願されているか付与されている場合に、その主発明の“改良又は変更”発明について新たに出願すると付与されます。追加特許は主発明の出願人または主特許の特許権者と同一の者が出願できます。
追加特許は、主に主特許の出願後に開発され、主特許において明示的にクレームされていない改良または変更実施態様に対して保護を得るために有効です。
-
- *さらに、仮特許出願制度もありますが、仮特許出願自体について特許が認められることはありません。
出願ルート
パリルート及びPCTルートでの出願が可能です。PCTルートの場合、優先日から31ヶ月以内に国内段階移行手続をする必要があります。
出願に必要な書類
- 1. 願書、明細書、クレーム、要約、必要な図面
書類は英語で作成する必要があります。 - 2. 特許を受ける資格者通知書(Notice of Entitlement)
出願人が発明者でない場合に、出願人が発明者から特許を受ける権利を承継したことを説明する書面です。現地代理人が署名をして提出するものですので、出願時に現地代理人に承継の説明をする必要があります。 - 3. パリルートの場合は優先権証明書
保護対象
以下のものが特許の保護対象に含まれます。
- 治療方法
- ソフトウェア
- ビジネスモデル
- プロダクト・バイ・プロセス・クレーム
なお、「人間及びその生成の為の生物学的方法」は保護対象から除外されています(法18条(2)(3))。
出願公開
標準特許出願は出願日または優先日のうちいずれか早い日から18ヶ月経過後に公開されます。(法53条)
審査
標準特許出願は実体審査の対象になります。なお、改正法下では修正審査制度が廃止されました。2014年1月6日より、GPPH(グローバル特許審査ハイウェイ* )が開始されています。
1 審査請求
国際出願日(出願日)から5年以内、又は特許庁長官の指令から2ヶ月* 以内のうちいずれか早い日までに審査請求する必要があります(法44条)。なお、法改正前は修正審査の場合、US、EP等の出願状況により、審査請求を遅延可能でしたが改正法下では廃止されました。
2 審査内容
・新規性
・進歩性 *2013年の法改正により、進歩性の判断基準が引き上げられました。
・有用性
3 グレースピリオド
以下の場合の公開は新規性に関して考慮されません(法24条)。
a)完全出願の出願日前12ヶ月以内に公開したとき
b)学術団体での公開から12ヶ月以内に出願したとき
c)”承認された博覧会”での発明の開示から12ヶ月以内に出願したとき
d)合理的な試験目的のための発明の公然実施から12ヶ月以内に出願したとき(発明の性質上、その実施が合理的に必要とされる場合のみ)。
(2)名義人、特許権者の同意を得ない開示日から12ヶ月以内に出願したとき
(3)政府機関への開示は全て考慮されない。
補正
1. 補正の時期
出願後および許可前においていつでも補正をすることができます。
2. 補正の範囲
新規事項の追加は認められません。また、許可後の明細書についての補正は、補正の結果、クレームが拡張される場合は、許可されません。ただし、公告後3ヶ月の期間、許可されたクレームの範囲外となるクレームを有する分割出願を提出することが可能です。
アクセプタンス期限
出願は、最初の審査報告の日から12ヶ月以内に正式に許可されない場合、無効となります(142条、規則13.4(1)(a))。(2013年法改正により21ヶ月から短縮されました。)
異議申立
特許許可の公告日から3ヶ月以内に異議申立を行うことが可能です(法59条)。
再審査
特許権者又は第三者は、特許の登録後に再審査を請求することができます。再審査の決定に不服のある特許権者又は再審査請求人は、連邦裁判所に上訴することが可能です。
登録
a)標準特許の存続期間は20年以内であり、医薬特許発明は最大で5年の延長が可能です。
b)追加特許の存続期間は、主特許の存続期間に拘束されます。医薬特許発明の場合、主特許の存続期間が延長されるかどうかに関わらず存続期間の延長をすることができます。
イノベーション特許
イノベーション特許の新規受付は2021年8月25日で終了しました。既存のイノベーション特許及び2021年8月25日以前の出願日に係るイノベーション特許については、出願日から最長8年間の存続期間の満了まで有効です。
また、下記手続に関しては、2021年8月26日以降も可能となっています。
(1)2021年8月25日以前に出願された親出願からの分割イノベーション特許出願
(2)2021年8月25日以前の標準特許出願からイノベーション特許出願への変更
意匠制度
意匠の種類
意匠には以下の2種類があります。
- 1. 通常意匠
- 2. Multiple designs
・以下のいずれかに該当するものに限り一出願として出願することができます。
- a) 一物品に係る一意匠
- b)複数の物品に共通する一意匠(ナイフとフォークのセット等)
- c)一物品に係る複数の意匠
- d)複数の物品がロカルノ協定分類の同一の類に属する物品である場合に、それらに係る複数の意匠
保護対象:物品の形状、外形、模様、装飾
保護対象外:物品の触感、素材、大きさが定まらないもの、1単位以上の連続する模様
<特殊事情>
(1)部分意匠
意匠は製品の全体的な外観に関連するものと考えられており、物品の一部に関してのみ意匠保護を受けることはできません。しかしながら、新規性及び識別性の記載(Statement of Newness and Distinctiveness)を利用して、製品の特徴的な形状を意匠の特徴として記載することは可能です。また、意匠法上は認められていないものの、特徴以外の部分を破線で表す手法は従来から一般的に取られています。
(2)非物理的意匠及び「アクティブ状態」の意匠
アプリのアイコンやGUIは特定の物品に物理的に適用されないものであって、一時的に製品の画面上に表れるものです。現状、多くのGUIが登録され、データベース上で公開されています。しかしながら、オーストラリア知的財産局では、これを「意匠」の定義から外れているとして証明(Certified)しない可能性が高く、その場合はたとえ登録されたとしても有効な意匠権として他人に権利行使をすることができません。
出願ルート
パリルートでの出願が可能です。優先権の期間は出願日から6月です。
出願に必要な書類
1. 願書及び図面(書類は英語で作成する必要があります。)
*図面に代えて写真、デジタルイメージ、見本(平面上に容易に置くことが可能であって、他の書類と一緒に容易に保存ができる物に限る)を提出することができます。
2. 必須ではないがあればよいとされる提出書類
a) 特徴記載書
b) 先行技術文献(出願時に知っている場合)
c) 製品の使用方法及び機能についての簡単な説明
登録可能な意匠
新規性、識別性を有している意匠
・先行文献基準は世界中で公開されたもの、又はオーストラリアで使用されたもの
◇グレースピリオド
2022.3.10に施行された改正意匠法により、12カ月のグレースピリオドが導入されました。
<グレースピリオドの適用要件>
・意匠の最初の開示から12カ月以内に出願*されていること
(*優先権主張の場合、出願日は、優先日が基準となります。)
・意匠の最初の開示が、デザイナー、名義人、承継人、デザイナー又は名義人から権限を与えられた者による開示、又はデザインが盗用された場合であること
<適用除外>
・意匠登録による公開
・外国の庁及び国際機関(WIPO)による公開
※2022.3.10以降の出願又は優先日が2022.3.10以降の出願に適用される
※2022.3.10以前の開示については、12カ月のグレースピリオドが適用されませんが、以下の既存の規定が適用されます。
・意匠の最初の公開又は使用が行われた日から 6 月以内に意匠出願をした場合に限り、新規性、識別性の判断基準として考慮されない。
・規則で定められる博覧会での公開・使用行為(意匠の登録所有者又は登録所有者の前権原者の同意を得て,規則が定める状況において行われる意匠の公開又は使用)
・意に反する公開・使用行為(意匠の登録所有者又は登録所有者の前権原者から意匠を派生させた又は取得した別の者が,意匠の登録所有者の同意なしに行う意匠の公開又は使用)
出願公開
出願公開制度はありません。
但し、意匠出願人は出願時(又は優先日)から6月以内に公開請求又は登録請求をする必要があります。もし、どちらの請求もしない場合、当該出願は消滅します。
審査
実体審査はなく、方式審査を満たせば登録されます。
なお、登録意匠の証明の為に、登録後に実体審査を請求することができます。(意匠法第63条、64条)その場合、新規性及び識別性について審査がされます。
異議申立
異議申立て制度はありません。
登録
存続期間は出願日から5年です。延長申請により最長で出願日から10年です。但し、出願日が2004年6月17日前の出願は最長で出願日から16年となります。
権利行使
意匠権者は、権利行使の前に、意匠出願について登録、実体審査及び証明を受けなければならなりません。
その他
関連意匠制度、秘密意匠制度は採用されていません。
意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改訂協定には加盟していません。
商標制度
商標登録の種類
商品、サービス、団体商標、証明商標、防護標章について保護が受けられます。
商標の種類としては文字商標、図形商標、記号商標、立体商標、結合商標、音の商標、匂いの商標が挙げられます。
一商標多区分制度を採用しています。
出願ルート
パリルート、マドプロルートでの出願が可能です。
出願に必要な書類
- 1.願書(出願人住所・氏名、商品・サービスの国際分類)
- 2.商標の表現物:商標中の外国語の英訳及びローマ字以外の文字の音訳
- 3.形状、音、匂い、色彩商標の場合には明確な説明が必要
出願公開
なし
審査
方式要件を満たしていれば、識別性、不登録事由について実体審査が行われます。
審査請求制度はありません。
アクセプタンス期限
最初のオフィスアクションから15ヶ月以内に出願が許可されるようにする必要があります。(請求により6ヶ月延長可能)
異議申立
実体審査で拒絶理由がなければ公告されます。公告日から3ヶ月以内に異議申し立てをすることができます。異議申立てがない時、または異議申立てが成立しなければ登録されます。
登録
公告後6ヶ月以内に、登録料を支払えば登録されます。
不使用取消制度
登録後、継続して3年間商標が使用されていないときは、不使用取消の対象となります。
オーストラリアとニュージーランドとの特許制度の比較
オーストラリア | ニュージーランド | ||
パリ条約 | 〇 | 〇 | |
WTO加盟 | 〇 | 〇 | |
PCT | 〇 | 〇 | |
EPC | × | × | |
存続 期間 |
起算日 | (国内特許)完全明細書の出願日、(PCT等の国際出願)国際出願日。 | |
期間 | (通常出願)20年、(追加特許)主特許の後の残余期間 | ||
延長 | なし | なし | |
特異な特許制度 | 追加特許(主特許の改良)。 | ||
特許の対象となりえない発明 | ヒト及び世代を作り出すための生物学的方法。公序良俗に反する発明。食物や医薬として使用できる物質。公知物質の単なる混合物。単なる混合物の物質の製造方法。精神活動のため、ゲームをするため又はビジネスを行うための計画、規則及び成就させる方法。 | 単なる情報(業務制度、書類の保管方法、数式、単語や記号の配列)、発見、人の治療。 | |
異議申立 | 3月 | 3月(1ヶ月の延長可) | |
実施義務 | 特許から3年。 | 特許から3年。 |
参考:一般財団法人 経済産業調査会 特許ニュース 平成28年3月29日発行
オーストラリア特許 最低必要費用と年金について(施行日:2012年12月1日)
出願料 | 紙 | AS$470 |
電子 | AS$370 | |
・審査請求料 AS$490 ※オーストラリア特許庁がIPER (国際予備審査報告書)を作成した場合の審査請求料 AS$300 ・特許発行料 AS$250 |
||
年金(特許料等) | ||
第1年 | - | |
第2年 | - | |
第3年 | - | |
第4年 | - | |
第5年 | AS$300 | |
第6年 | AS$300 | |
第7年 | AS$300 | |
第8年 | AS$300 | |
第9年 | AS$300 | |
第10年 | AS$300 | |
第11年 | AS$500 | |
第12年 | AS$500 | |
第13年 | AS$500 | |
第14年 | AS$500 | |
第15年 | AS$500 | |
第16年 | AS$1,120 | |
第17年 | AS$1,120 | |
第18年 | AS$1,120 | |
第19年 | AS$1,120 | |
第20年 | AS$1,120 | |
第21年 | AS$2,300 | |
第22年 | AS$2,300 | |
第23年 | AS$2,300 | |
第24年 | AS$2,300 | |
第25年 | AS$2,300 | |
特許権の存続期間 | 特許日から20年 |
参考:特許庁 特許行政年次報告書
弁理士 アドバイザー 後藤 稔